第7章 計装制御
7.2 圧力制御
圧力制御は特定のポイントを対象に、その前後に繋がっている空間全体の圧力を制御します。その圧力を制御することで生じる結果は単に圧力を一定に保つことだけではなく、プロセスの性能や他の運転条件をも制御することになります。
例えば、水蒸気改質による水素製造設備のガス化工程の圧力制御は、水蒸気改質炉出口のガス圧力を制御することで水蒸気改質の反応圧力を規定します。そのために、下記に示すように圧力を上げれば水蒸気改質反応は右から左に行こうとして、結果的に改質ガス中の水素濃度は減少します。逆に圧力を下げれば反応は右に行こうとして水素ガス濃度が増加します。つまり、このケースでの圧力制御は水素量を支配することになります。
CH4+H2O ⇄ CO+3H2
一方、火力発電所の蒸気ボイラや化学プラントなどに設置される廃熱ボイラで行われるスチーム圧力の制御は、その圧力における飽和温度を設定することになりますので、ボイラで発生するスチーム温度を制御することと同じ意味になります。これと類似の事例は化学プラントで多く見られ、石油精製や石油化学プラントの蒸留塔の圧力制御はこの一例です。
上記の改質ガスやスチームのような圧縮性流体では容易に圧力を制御することが出来ますが、液体のように非圧縮性と考えられる流体では圧力を制御することは非常に困難です。そこで、このようなケースでは液と直接的あるいは間接的に接触している気体の圧力を制御する方法が取られます。(ポンプの吸込圧力制御)
液の圧力制御が困難な例として、閉じ込められた配管内での液を加熱すると液が膨張して異常昇圧が見られます。
7.2.1 化学プラントにおける圧力制御
化学プラントは複数の工程から構成されており、それぞれの工程では適切な圧力が存在します。ここでは、天然ガスを原料とするメタノールプロセスを例に、圧力制御の方法や注意すべき事柄を説明します。
メタノールプロセスを工程の順番に沿って、その圧力レベルをもとに以下の三つに分けることが出来ます。
- 水蒸気改質工程(脱硫工程含む)
- メタノール合成工程
- メタノール蒸留工程
ガス化工程の圧力は2~3MPaG、合成工程の圧力は6~10MPaG、そして蒸留工程の圧力は大気圧~0.1MPaG以下となっています。ガス化工程と合成工程の間には圧力の違いを補完するため機器、すなわち合成ガス圧縮機が設けられ、合成工程と蒸留工程の間には常圧の粗メタノールタンクが設置されています。
大型プラントの場合には遠心圧縮機が採用されますので、水蒸気改質工程から遅延なく一定の量の合成ガスを合成工程に送出するためには、圧縮機の性能曲線から分かるように圧縮機の回転数と抵抗曲線を制御する必要があります。具体的には吸込側圧力を圧縮機の回転数で制御し、これとは別に吐出側弁開度を調整して抵抗を制御します。
この吸込側圧力はガス化工程の圧力に等しいので、圧縮機の回転数がガス化圧力を制御していることになります。
そうだとすれば、ガス化工程独自の圧力制御は必要ないのでしょうか?
次回は水蒸気改質工程の圧力制御と圧縮機の回転数制御について詳しくお話しします。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet