1. 物質収支の計算
1.1 設計基本
プロセス設計に必要な情報として設計基本があります。これについてはすでに基本設計演習「エタノール合成」の”第1章 設計基本”で説明していますので詳細は割愛し、内容のみ記述します。
まず、原料である天然ガスとスチームの仕様を記述します。ただし、天然ガスの組成はメタン(CH4)100%とします。
- 天然ガス(NG):流量 1,000kmol/h、圧力 3.3MPa、温度25℃
- スチーム(steam):流量 3,000kmol/h、圧力 4.1MPa、温度350℃
1.2 物質収支計算ツールの準備
実際のプロセス設計では物質熱収支の計算からスタートします。多くの企業ではASPEN PLUS, gPROMS, HYSYS, PRO/IIなどのプロセスシミュレータを使用して計算しますが、ここでは物質収支計算ツールをExcelで作ってみましょう。
まず、Excelでの物質収支計算を表形式で作成することにします。そのためには、行と列に何を記述するかを決めなければなりません。そこで、以下の取り決めをします。
- 横方向に原料や加熱・冷却・分離・反応などの単位操作での流入とと流出ストリームを操作順に左から右へ並べていきます。例えば、天然ガス供給(NG feed)や改質用スチーム(Reforming steam)など。
- 縦方向にはストリーム名(Steam name)、ストリーム番号(Stream number)、組成(Components)、流量(flow)、圧力(pressure)や温度(temperature)などの欄を作成します。
- 組成(例えばメタン)の欄には分子量(MW : molecular weight)を明示できるようにします。
- 各ストリームには左に流量(kmol)、右に組成(mol%)を書き込めるように縦に二分割します。
- ストリーム番号(Stream number)は任意でかまいませんが、出来れば工程ごとに百番台を別にして決めるようにして下さい。
- 流量には「Dry total flow」、「Wet total flow」、そして「Mass total flow」の三種類があります。「Dry total flow」は水以外の物質の合計流量(kmol/h)を意味し、「Wet total flow」は「Dry total flow」に水を加えた合計流量(kmol/h)を意味します。また、「Mass total flow」は合計の質量流量を意味しています。つまり、各組成の流量(kmol/h)に分子量(MW)を乗じ、その合計値を意味しています。
- 圧力の単位はMPaを基本としますが、平衡計算などでatmを使用していることも多いので両方明記します。なお、換算係数は 9.86923 を使用しています。
- 温度の単位はdeg.C(℃)とdeg.Kの両方を明記します。
これらの取り決めをもとに計算表を作成します。その一例を下図に示します。また、そのExcel版をダウンロードできるようにしましたので、興味ある人はクリックしてみて下さい。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet