5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
5.2.1 伝熱計算
対流部の機器設計を行うためには、プロセス条件をもとに対流部の伝熱計算を行う必要があります。この伝熱計算に必要なプロセス条件を以下に示します。
- 交換熱量(W or GJ/h)
- プロセス側および燃焼ガス側の入口出口温度(℃)
- プロセス側の入口圧力と許容圧損(MPa)
- プロセス側の流量、密度(分子量)、比熱、粘度、熱伝導度
- プロセス側および燃焼ガス側の汚れ係数
これらをもとにプロセス側(管内)の伝熱係数を計算し、次に燃焼ガス側の伝熱係数、汚れ係数および管壁の伝熱係数を求め、最終的に総括伝熱係数(Overall U)を計算します。
一般的な総括伝熱係数(ただし管外側基準 & bare tube base)は、燃焼ガスの高温領域(1000~600℃)では約100W/m2-deg.C、低温領域(600~100℃)では約150W/m2-deg.Cである。
伝熱計算では管内基準と管外基準があり、チューブ内径をもとに伝熱計算を行う場合を管内基準と言い、外径をもとに行うのを管外基準という。また、燃焼ガスの低温領域では伝熱面積を大きくするために、チューブにフィンを付ける。このフィンの大きさにより伝熱面積が変わってしまうので、フィンがない状態(bare tube)で伝熱面積を計算して総括伝熱係数を算出することを bare tube base と言う。
先ほどの総括伝熱係数をもとに伝熱面積を計算してみたい。ただし、廃熱ボイラ(WHB)+スチーム過熱器(SSH)は全て廃熱ボイラとし、空気予熱器(CA Heater)については型式により大きく伝熱係数が異なるので、省略する。
設計仕様 | MG Heater Mixed Gas Heater |
W.H.B Waste Heat Boiler |
NG Heater Natural Gas Heater |
|
交換熱量 | GJ/hr / MW | 33.92/9.42 | 77.24/21.46 | 15.44/4.29 |
プロセス流体温度 | deg.C | 364~560 | 252 | 25~370 |
燃焼ガス温度 | deg.C | 950~808 | 808~471 |
471~400 |
平均対数温度差 | deg.C | 416 | 362 | 209 |
総括伝熱係数 | W/m2-deg.C | 100 | 100 | 150 |
伝熱面積 | m2 | 815 | 2135 | 493 |
設計温度 | deg.C | 755 | 530 | 420 |
設計圧力 | MPaG | 3.30 | 4.50 | 3.60 |
5.2.3 スタートアップ時の挙動
すでに述べたように、水蒸気改質炉のスタートアップ(スチーム昇温)時において、NG Heaterのプロセス側(管内)に何も流れない No flow の状態が発生する。この状態は9~12時間程度続くことがあり、プラントの運転やメンテナンス状況などにも依るが、多い場合には年に2~3回は起こりえる。(国内では極めて少ないが)
そうなるとチューブは高温の燃焼ガスにさらされ、メタル温度は設計温度を超える可能性がある。さきほどの表からもわかるように、NG Heaterでは設計温度を約20℃超えてしまう。
- 設計温度:450℃
- 燃焼ガス温度:471℃(常時)
そこで前述のクリープ破断の可能性を検討しておく必要がある。つまり、No flowの状態ではメタル温度は燃焼ガス温度に等しくなるとして、クリープ破断応力が許容応力(66.2MPa)に等しくなる時間をクリープ破断に至る寿命と考える。
まず、適当に燃焼ガス温度を仮定して、STB410におけるクリープ破断に至る寿命を求めてみます。すると、
- メタル温度=燃焼ガス温度 471℃:寿命 100,000時間以上
- メタル温度=燃焼ガス温度 480℃:寿命 100,000時間以上
- メタル温度=燃焼ガス温度 500℃:寿命 35,000時間
- メタル温度=燃焼ガス温度 520℃:寿命 11,000時間
つまり、プロセスガスの流れがとまっても、燃焼ガス温度が通常時471~480℃程度であれば、プラントの設計寿命(およそ10~15年とすると100,000時間)内では材料はクリープにより破壊されることはないが、それより高温では短い時間内でクリープ破壊される可能性があることがわかる。
もし、何らかの原因で燃焼ガス温度が上記の温度より上昇した場合、寿命は急激に短くなる。例えば、540℃では3400時間、560℃では1100時間、580℃では450時間となる。それでも年に2~3回で12時間程度であれば、10~15年間運転しても合計は240~540時間となり、すぐに大きな問題にはならないと言える。
ただし、ここでは微細な金属組織への影響については考慮していないことに注意
しかし、このような現象がさらにシビアになる可能性はあるのであろうか。実は起こりえるのである。もし、起こりえるとしたらどのような運転においてか。そして、メタル温度が更に上昇する場合にはどう対応すれば良いのかについては次回に述べたい。
このSTB410におけるクリープ破壊と寿命に関する計算表を用意しておりますので、詳細はSTB410のクリープ強度と寿命をダウンロードして下さい。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet