常温以上の加圧水を低圧で開放すると加圧水の一部が蒸発します。これは加圧された水のエンタルピーが低圧力における飽和水エンタルピより大きい場合に起きる現象で、フラッシュ現象あるいはフラッシュと言っています。

化学プラントで使用される水蒸気にはプロセス用と加熱用がありますが、そのほとんどが凝縮水として回収されます。凝縮水温度は110~150℃の範囲で、大気圧~0.3MPaGの圧力下でフラッシュさせて再利用します。
加圧水温度が100℃以下であれば、大気圧下でフラッシュさせても加圧水の一部を水蒸気として回収することは出来ません。
下記の計算表でフラッシュの際に発生する水蒸気を計算することが出来ます。使い方は簡単で、必要なパラメータを入力した後に”calculation”ボタンを押すだけです。Tabキーを使えば順番に入力枠に移動します

加圧水のフラッシュ計算

フラッシュ現象がもたらすトラブル

このフラッシュ現象に関しては苦い思い出があります。1984年当時、メタノールプラントの試運転に立ち会った際の出来事でした。
このプラントには水蒸気改質工程、合成ガス圧縮工程、メタノール合成工程、メタノール蒸留工程および複数の用役設備や付帯設備から構成されていました。この水蒸気改質工程には複数の分離槽が設置されており、圧力範囲は1.5~1.7MPaGでした。これらの凝縮水は途中で合流して放散塔まで配管により送出されていました。しかし、回収を始めたところ、途中の配管が揺れはじめて配管サポートが壊れる事態となり、試運転を継続することが出来なくなりました。なお、放散塔圧力は若干大気圧より高く、合流後の凝縮水温度は120℃から150℃の範囲でした。

このトラブルの原因は配管での圧力損失により、凝縮水圧力が凝縮水温度120~150℃に対応する飽和圧力0.10~0.38MPaG以下になったためのフラッシュ現象で、途中から水と水蒸気の二相流となっていました。

元々の原因は分離槽と放散塔間の圧力低下を考慮せずに、液体の水として配管のサイズを決定したことです。恒久的な対策としては二相流を考慮して配管サイズの見直しが正道でしたが、材料がステンレス鋼だったのですぐに用意できませんでした。そこで急場しのぎで放散塔入口と配管の間にオリフィスを設置し、配管途中で飽和圧力以下に低下しないようにしました。これにより配管の振動がぴたりと収まり、無事試運転を続行することが出来ました。

このように回収した凝縮水温度が100℃以上の場合には、配管途中でのフラッシュ現象を考慮しなければなりません。

 
どれくらいの割合で加圧水が水と水蒸気に分離するかは、フラッシュ前の水の温度Tinと圧力Pinならびに圧力Poutをどこまで下げるかで自動的に決まってしまします。これは次式で示す熱収支計算から求めることが出来ます。
ここでフラッシュ前の水の流量とエンタルピをWaterIn[kg/h]とIin[kJ/kg]とし、フラッシュ後の水の流量と水蒸気の流量をWaterOut[kg/h]とSteamOut[kg/h]、フラッシュ圧力における飽和蒸気と飽和水のエンタルピをIsteam[kJ/kg]とIwater[kJ/kg]とします。

WaterIn[kg/h]*Iin[kJ/kg]=WaterOut[kg/h]*Iwater[kJ/kg]+SteamOut[kg/h]*Isteam[kJ/kg]

例えば、先ほどの例でフラッシュ前の水の流量を1000[kg/h]とし、水蒸気量をx[kg/h]します。なお、フラッシュ前の圧力温度でのエンタルピは504.3[kJ/kg]、フラッシュ後の飽和蒸気と飽和水のエンタルピは2675.5[kJ/kg]と419.0[kJ/kg]を使いました。

1000[kg/h]*504.3[kJ/kg]=(1000-x)[kg/h]*419.0[kJ/kg]+x[kg/h]*2675.5[kJ/kg]
x=1000*(504.3-419.0)/(2675.5-419.0)=37.8[kg/h]

つまり、37.8[kg/h]が100℃の水蒸気となり、残り962.1[kg/h]が100℃の水となります。
以下にこのフラッシュ計算表を用意しましたのでご利用下さい。使い方は簡単で、必要なパラメータを入力した後に”calculation”ボタンを押すだけです。

flash calculation

変数 項目 単位 数値
h 供給液エンタルピー kJ/kg
h' 飽和液エンタルピー kJ/kg
h'' 飽和蒸気エンタルピー kJ/kg
G 供給液流量 kg/h
Gs 飽和蒸気流量 kg/h
Gl 飽和液流量 kg/h



液Gがフラッシュドラムに供給され、
そこでフラッシュして蒸気と液に分離します。

ここでの熱収支は、

G×h = Gs×h''+Gl×h' = Gs×h''+(G-Gs)×h'

Gs = G×(h-h')÷(h''-h')

つまり、フラッシュするための条件は、h-h' > 0 であり、
すなわち、h > h' となります。