4. 回転機の設計
4.1 回転機の基礎
4.1.1 回転機の種類
化学プラントには多くの回転機(rotating machine)が使用されています。この回転機にはポンプ(pump)、圧縮機(compressor)、ファン(fan)、ブロアー(blower)、スチームタービン(steam turbine)、ガスタービン(gas turbine)、ハイドロリックタービン(水車)やガスエンジンやディーゼルエンジンなどの(engine)など、多くの種類があります。
これらの回転機は化学プラントや石油精製あるいは石油化学プラントでは用途別に使用されています。例えば、回転機の種類、主な適用プラントそして主な用途を説明します。
ポンプ:化学・石油精製・石油化学・原子力、プロセス流体移送、製品払出
圧縮機:化学・石油精製・石油化学、プロセスガス圧縮・原料ガスや製品ガスの送出
ブロワー:化学・石油精製・石油化学、ボイラー・加熱炉燃焼ガスの排出・燃焼空気の供給
ファン:化学・石油精製・石油化学・原子力、ボイラー・加熱炉燃焼ガスの排出・燃焼空気の供給・空調
スチームタービン:化学・石油精製・石油化学・原子力、圧縮機やブロワーの駆動機・ポンプ駆動機・発電機用駆動機
ガスタービン:化学・石油精製・石油化学、空気圧縮機用駆動機・発電機用駆動機
ハイドロリックタービン:化学・石油精製、高圧回収(液とガス)・発電機用駆動機(水力発電)
エンジン:化学・石油精製・石油化学、発電機用駆動機
4.1.2 回転機と流体の運動
回転機の機能や構造を理解するためには、流体の運動についての知識が必要になります。詳細は専門書に委ねますので、ここでは基本的かつ応用力がある事柄について説明したいと思います。
遠心式ポンプや遠心圧縮機などのように羽根(impeller blade)の間を流体が通過する間に、羽根により流れ方向が変わるために流体と羽根の間に力の授受が行われます。運動量理論によれば、この回転する流体(質量m)はF を回転する方向に作用する円周力とし、r をその半径とすれば次式で示す回転力T(トルク,torque)を受けることになります。
T = F・r
このm・r・v は角運動量で、v は速度、t は時間を意味しています。
回転運動の場合に、変位θの単位時間当たりの変化(dθ/dt)を角速度ωとすれば、v = rωになります。なお角速度ωは毎分回転数nを使って、ω = 2πn/60 で計算します。
動力Lは回転力と角運動量の積で表されます。つまり、
L = T・ω = F・r・ω = F・v
ここで力Fはd(mv)/dtですから次式となります。
L = F・v = d(mv)/dt・v = d(mvv)/dt
この式は動力は質量と速度^2の積の時間当たりの変化で表されることを意味しています。また、時間当たりの質量が質量流量で等速度運動とすれば、動力は流量Q、密度ρと速度^2の積になり、ベルヌーイの定理からヘッド(揚程あるいは水頭)は速度^2ですから、動力は流量Q、密度ρとヘッドの積になります。
L = ρQH
以上の説明から回転機にとって重要な関係を導き出すことが出来ます。つまり、
- 回転速度vは回転数nに比例する。
- ヘッドは回転速度vの2乗、すなわち回転数nの2乗に比例する。
- 動力は回転速度vの3乗、すなわち回転数nの3乗に比例する。
4.1.3 ヘッドと圧力
先ほどのヘッドは速度ヘッドや圧力ヘッド、そして位置ヘッドと損失ヘッドの合計です。回転機では流体を回転させ高速度を得ることで流体の圧力を上昇させ、液体を低位置から高位置に移送したり、気体を圧縮させて圧力を高めたりします。
この圧力ヘッドは速度の関数ですから、圧力を高めるためには回転数を大きくするか羽根長さを大きくする必要があります。しかし、高速回転することで羽根に大きな引っ張り応力が生じますので、機械設計上の理由から回転速度に制限が設けられます。
例えば、分子量の異なるガスを圧縮する場合を考えてみましょう。計算の前提として、吸込条件を大気圧(0.1013MPa)で温度25℃とし、回転数は10,000回転で一定とします。
その計算の結果、分子量が小さなメタンや水素では空気に比べ吐出圧力が低いことがわかります。また水素の場合、計算上吐出圧力は吸込圧力より下がってしまい、遠心式圧縮機は適用できないことが理解できると思います。(現象的にどうなるのかは不勉強で不詳)
項目 | 単位 | 空気 | メタン | 水素 |
回転数 | rpm | 10,000 | 10,000 | 10,000 |
角速度 | rad/sec | 1047.2 | 1047.2 | 1047.2 |
羽根長さ | mm | 600 | 600 |
600 |
速度ヘッド | m | 20,142 | 20,142 | 20,142 |
分子量 | 29 | 16 | 2 | |
密度 | kg/m3 | 1.19 | 0.654 | 0.082 |
吐出圧力 | MPa abs | 0.234 | 0.129 | 0.016 |
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet