6.2.7 熱伝達と粘度の影響(No.36)(2009.10.05)
プラントル数と粘度
プラントル数Prは流れによる流体粒子の拡散に対する温度の拡散の比で、この値が小さいほど流体の動きに対して熱の伝わり方が大きいことを示しています。水のPr数はおよそ2程度で、それに対して空気のPr数は0.7程度ですから、空気中での温度の拡散は水に比べて3倍程度早いと言うことがお分かりになるでしょう。
このプラントル数Prは「凝縮曲線と熱交換器設計」に示したように、比熱と粘度そして熱伝導度の関数で、粘度が大きいほどPr数は大きくなります。例えば粘度が大きい代表的な物質として良く知られているのが硫酸で、常温で20mPa-sec(cP)以上になります。また、トルエンなどの溶剤の粘度は1mPa-sec前後と小さく、高分子物質や細かな粒子を含むスラリーでなければ粘度はそれほど大きくはありません。
ところが、冷凍冷却装置などに使用するブラインは低温下で示す粘度が大きく、伝熱設計上大きな問題となります。一般に使用されるブラインは、50%(重量)前後のエチレングリコール溶液で、温度と共に飛躍的に粘度が大きくなります。その温度と粘度の関係の一例を下図に示します。
この図を見るとわかるように、エチレングリコール溶液の粘度は同温度における水の粘度の3倍から6倍で、低温度では10~40mPa-secと大きな数値を示しています。この粘度の大きなエチレングリコール溶液が伝熱設計に及ぼす影響を、具体例を上げて説明しましょう。
撹拌槽伝熱
この例は撹拌槽伝熱で、槽内溶液を外部から加熱冷却するジャケット伝熱です。計算の前提として、
- 槽内溶液:代表的溶剤として使用されるメタノールとトルエンの混合液
- 加熱媒体:温水(90℃)
- 冷却媒体:ブライン(エチレングリコール50%、-15℃)
- 伝熱方式:外部ジャケット
- ジャケット:内径612mm、外径700mm、高さ700mm
まず、温水とブラインのPr数を計算してみますと、ブラインのPr数は温水の約100倍を示しています。
項目 | 単位 | 温水 |
ブライン |
温度 | deg.C | 95 | -15 |
比熱 | kJ/kg-K | 4.21 | 3.02 |
熱伝導度 | kJ/mhr-K | 2.44 | 1.47 |
粘度 | mPa-s | 0.297 | 23.8 |
Pr No. | 1.85 | 175.8 |
次に温水ならびにブラインによる加熱冷却時の総括伝熱係数を求めてみます。ただし、槽内の境膜係数や汚れ係数および槽壁の熱抵抗を同じとして計算してみました。
その結果、ブラインを使用した場合の伝熱(冷却)能力は温水における伝熱能力に比べ、わずか1.6%にしかならないことがわかりました。
このように撹拌槽における伝熱を検討する際には、ブラインを使用して冷却する場合、あるいは加熱冷却の二通りの運転があり、その際にブラインを使用する際には冷却能力が不足しないかどうかを念入りにチェックする必要があります。
項目 | 単位 | 温水 |
ブライン |
槽内境膜係数 | kJ/m2hr-K | 5,395 | 5,395 |
ジャケット内境膜係数 | kJ/m2hr-K | 4,423 | 68 |
槽壁伝熱抵抗 | kJ/m2hr-K | 9,600 | 9,600 |
槽内汚れ係数 | kJ/m2hr-K | 20,930 | 20,930 |
ジャケット内汚れ係数 |
kJ/m2hr-K | 13,954 | 13,954 |
総括伝熱係数 | kJ/m2hr-K | 1,575 | 66 |
熱流束 | kJ/m2hr | 62,929 | 983 |
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet