6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
前回は凝縮熱伝達についてお話ししましたが、扱う流体中に凝縮しないガス、つまり、水蒸気中の空気などの不凝縮ガス(まれにイナートガスと言うこともある)が存在する場合には、不凝縮ガスが伝熱抵抗となるために熱伝達係数が低下します。
ただし、どれほど影響を受けるかというのは、圧力や不凝縮ガスの割合によっても大きく変わります。
例えばコンデンシングタイプのスチームタービンでは、排気スチームをコンデンサーで冷却凝縮させることにより大きなスチームのエンタルピー落差を作り、他形式のタービンに比べ大きな動力を回収しております。そのためにはコンデンサーの温度を45~70℃に保っていますが、この温度(圧力)を一定値以下にするために、エジェクターや真空ポンプを使って漏れ込んできた空気を抜きだしています。これを怠りますと復水器の温度圧力が上昇し、排気スチームのエンタルピー落差が減少して回収できる動力が急激に減少することになります。
実際にコンデンシング・スチームタービンの排気圧力を上げていきますと、コンデンサーで凝縮しなかったスチームが大気中に放出されはじめ、あたかも背気タービンのような様相を呈していきます。勿論、回収動力は急激に低下していきます・・・。
ここで不凝縮ガスの熱伝達に対する影響を定量的に見るために、以下に示す条件を設定致しました。
- 被凝縮流体:スチーム+空気(約1wt.%)、約7200kg/h、380~55℃
- 冷却側流体:冷却水、約367000kg/h、41~55℃
- 運転圧力:大気圧
- 冷却凝縮熱量:約6000kW
これと比較するために、不凝縮ガスを一切含まないケースを考えます。その結果を下表に示します。
項目 | 単位 | 不凝縮ガス含む |
不凝縮ガス含まず |
熱負荷 | kW | 5964 | 5958 |
伝熱面積 | m2 | 67.6 | 76.9 |
総括伝熱係数 | W/m2-K | 1636 | 1459 |
温度差 | deg.C | 53.7 | 53.1 |
このように不凝縮ガスをわずか1%でも含みますと、総括熱伝達係数が低下し所要の伝熱面積が増加します。この例では、総括伝熱係数は約10%低下し、伝熱面積がその割合で逆に増加しています。
この現象はプラントの蒸留塔のコンデンサーに多く見られますが、特にメインコンデンサーの下流に位置して不凝縮ガスを多く含むセカンドコンデンサーにて顕著に表れます。そこで、コンデンサーの設計を行う場合には、記載が無くても不凝縮ガスの存在を一応疑ってみて、必要ならば流体の物性を決定して下さい。
追記
先ほどの例では、不凝縮ガスを含む流体と不凝縮ガスを含まない流体のdew pointはそれぞれ55℃と100℃でしたが、不凝縮ガスを含まない流体の圧力を下げて不凝縮ガスを含むケースと同じdew point(55℃)にした場合には、伝熱特性はどうなるでしょうか?
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet