2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
2.6.1 燃焼系での熱回収
水蒸気改質炉から発生する燃焼ガスは出口で約1000℃の高温であり、そこからの排熱回収をどのように行うかが、水素設備の原単位を大きく左右します。
すでに述べたように燃焼用空気として予熱空気を使用する場合には、その熱源として燃焼ガスを使用しますが、それだけでは大量の排熱(約125GJ/h)が余ってしまします。そこで水素設備のプロセス側(GasBal0.8)に戻って、燃焼ガスの排熱の使い道を考えてみます。
まず、気が付くのが、原料天然ガスの加熱と原料天然ガスとスチームとの混合気の加熱です。つまり、
- NG Heater:原料天然ガスの加熱。加熱温度370℃は原料天然ガスの脱硫触媒の運転温度を考慮して設定。
- MG Heater:原料天然ガスとスチームとの混合気の加熱。加熱温度560℃は原料天然ガスのカーボン析出を考慮して設定。
この両者の加熱量はそれぞれ15.44GJ/hと33.92GJ/hであり、燃焼系からの排熱で十分に補うことが可能です。それでも約80GJ/hの排熱が余剰となります。
2.6.2 余剰排熱の利用
余剰排熱の利用法には先ほども説明したように、他のシステムの熱源として利用する以外に以下のような方法があります。
- スチームを発生させ、プロセス用スチームや蒸留系の熱源として利用する。
- 同じくスチームを発生させ、そのスチームを動力に発電機をまわして電気を得る。→スチームタービン発電機
- 同じくスチームを発生させ、暖房用熱源として利用する。
- 冷凍機の蒸発器の熱源として利用する。
- その他
もし、自設備および関連設備にて大量のスチームを必要とする場合には、スチームを発生させて自家消費し、残りを関連設備に供給する方法が最も安価であり、総合的なエネルギー効率を改善する方法となります。
水素設備の場合、石油精製などのユーティリティーセンターとしての役割を果たしているので、発生したスチームを有効に利用出来る素地があります。そこで、ここではスチームを発生させることで排熱回収を行うことにします。
まず、プロセス側の温度と必要な熱量を表にまとめてみます。なお、スチーム発生用の機器をWHB(Waste Heat Boiler)とし、その所要熱量つまり使用可能熱量は、燃焼系全体の余剰熱量(126.59GJ/h)からNG Heater & MG Heater熱量を差し引いた数値としました。
目的 | 機器名 | 所要熱量 | 温度範囲 |
原料天然ガスの加熱 | NG Heater (natural gas) |
15.44 | 25~370 |
原料スチーム混合ガスの加熱 | MG Heater (mixed gas) |
33.92 | 364~560 |
スチームの発生 | W.H.B (waste heat boiler) |
77.24 | 252~350 |
合計 | 126.59 |
なお、スチーム発生の温度範囲(252~350℃)は、スチーム圧力(4.1MPa)の飽和温度252℃と実際に供給している温度350℃を併記したもので、供給されるスチームは252℃から350℃まで過熱されていることになります。
ここで使用した計算をversion0.92に示しましたのでダウンロードしてご覧下さい。version0.92をダウンロードする
機器名 | 被加熱流体 | プロセス流体 |
燃焼ガス |
MG Heater | Mixed gas | 364~560 | 950~808 |
W.H.B | Boiler water | 252~350 | 808~471 |
NG Heater | Natural gas | 25~370 | 471~400 |
CA Heater | Combustion air | 25~350 | 400~164 |
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet