2. ブルー水素
ブルー水素は天然ガスから製造された水素である。このプロセスでは、天然ガス中のカーボンを二酸化炭素として分離・回収し、貯蔵または再利用する。分離した二酸化炭素を回収せずにそのまま大気中に排出する場合、製造された水素はグレー水素と称される。
ブルー水素とグレー水素の製造方法に違いはなく、分離した二酸化炭素を回収するかしないかの違いだけである。以下に2種類の水素製造プロセスを紹介する。
2.1 PSA方式水素製造プロセス
一つ目はPSA方式水素製造プロセスです。
天然ガスはまず脱硫され、水蒸気改質とCO転化の工程を経て、主に水素、CO, CO2, CH4,H2Oを含む合成ガスが生成される。このガスはPSA装置に供給され、水素以外の成分が除去され、純度99.999%の水素を製造される。PSA装置で分離されたガス(オフガス)は水蒸気改質炉の燃料の一部として再利用される。
このオフガスに含まれるカーボンと、追加された天然ガス燃料に含まれるカーボンは、最終的には燃焼してCO2となり、水蒸気改質炉の煙突から排出される。
そのためブルー水素として市場に送り出すためには、燃焼ガス中のCO2を分離して回収し、貯蔵しなければならない。
2.2 メタネーション方式(MTN方式)水素製造プロセス
二つ目はメタネーション方式による水素製造プロセスである。
天然ガスはまず脱硫され、水蒸気改質とCO転化の工程を経て、主に水素、CO, CO2, CH4,H2Oを含む合成ガスが生成される。その後、CO2除去工程でCO2を分離し、次のメタネーション工程で、残ったCO, CO2をメタンに変換して製品水素ガスを製造する。
PSA方式とは異なり、原料中のカーボンはCO2として回収される。しかし、改質炉用の燃料天然ガス中のカーボンは、燃焼してCO2となり、水蒸気改質炉の煙突から排出される。
そのため、PSA方式と同様に、ブルー水素として市場に送り出すためには、燃焼ガス中のCO2を分離して回収し、貯蔵しなければならない。
2.3 PSA方式とメタネーション方式(MTN方式)の比較
脱硫工程からCO転化工程まで、PSA方式とMTN方式は共通である。主な違いはガス精製工程において見られる。MTN方式ではCO2除去工程とメタネーション工程が組み合わされているのに対し、PSA方式ではこれらがPSA工程に置き換えられている。そのため、設備費が安く、運転が簡単である。その結果、1980年代に商業化されて以降、PSA方式が主流となっている。
プロセス的に大きく違う点は、水素回収率と製品水素量である。PSA装置での水素回収率が80〜90%であるために、MTN方式に比べて製品水素量が少なくなっている。ただし、PSA方式での水素純度は圧倒的に高くなっている。以下に両方式の比較表を示した。
ただし、燃料ガス由来のCO2が両方式でどの程度生成しているかについては、次回に説明する。その結果を見ることで、CO2排出の最終的な比較が可能である。
水素製造プロセスに関する参考資料は数多くあるが、ここでは、「天然ガスからの水素」を紹介する。この文献は既にJ-Stageで公開されている。
精製方式 | PSA | MTN | 備考 |
水素回収率 | 83% | 95% | 製品水素量とCO転化出口水素量との比率 |
製品水素純度 | 99.999% | 95.1% | |
製品水素中のメタン | 0.001% | 4.9% | |
水素収率 | 2.79 | 3.37 | 原料メタン量と製品水素量との比率 |
水素の物性 (出典はNIST)
- 分子式 H2、分子量 2.01588
- CAS Registry No. 1333-74-0
- 融点Tf 13.95K、沸点Tb 20.39K
- 臨界温度Tc 33.18K、臨界圧力 Pc 13.00bar
- 燃焼熱 241.8kJ/mol
CO2の回収や貯蔵は、地球温暖化の進行を抑制するために注目されている技術である。CCSは主に以下のプロセスから構成されている。CCS:Carbon Capture and Storage
CO2の捕捉:ここでは、発電所などから排出されるCO2を分離・捕捉する。一般には、アミン溶液などを使う「ガス吸収法」、CO2を膜を用いて分離する「膜分離法」、圧力を変化させて分離する「PSA法」などがあります。
CO2の輸送:捕捉されたCO2は、パイプラインやタンク車などを用いて貯蔵地点まで輸送する。この過程では、CO2を加圧冷却して液体CO2として取り扱う。
CO2の貯蔵:最終的に、CO2は、使われなくなったガス田や油田、塩水層などの地下深くに注入され、長期間にわたって隔離される。これにより、大気中に放出される二酸化炭素の量が減少し、温室効果ガスの削減に寄与します。
CCS技術は、化石燃料の使用が避けられない現在のエネルギー体系において、温室効果ガスの排出削減を目指す重要な手段の一つです。ただし、この技術の経済性、安全性、地質的適合性など、多くの課題があります。また、貯蔵された二酸化炭素が将来的に漏れ出すリスクも検討が必要です。