4.2 ポンプの設計
4.2.1 ポンプの種類と選定
プロセス仕様に合致したポンプを選定する作業はプロセスエンジニアが行います。この際、プロセスエンジニアは「ポンプデーターシート」を作成することになります。このデータシートの内容については後ほど説明します。
ポンプのデータシートを受け取った詳細設計エンジニアは、ポンプ形式を再確認後、ポンプ材質や容量・揚程などに合致したメーカーと型番を選定し、メーカーのエンジニアやプロセスエンジニアと協議しながらポンプの設計を推し進めていきます。
ですからプロセスエンジニアとしてポンプ設計の基本や種類形式を細かく知る必要はないのですが、ある程度の知識は必要です。このある程度の知識とは、例えば、
- ターボ形(遠心式など)と容積形(往復式や回転式)の違いと選択の基準
- ポンプの構造:ケーシング、軸(シャフト)、羽根車(インペラ)
- シール機構:メカシールとグランドパッキン
- キャビテーションの原因と対策
特にターボ形(遠心式)と容積形(往復式・回転式)の選定の基準は、一般常識として知っておく必要があります。例えば小流量高揚程あるいは粘性流体の場合には、ターボ形(遠心式)を選定するのではなく容積形を選定することになります。この理由は前回の”4.1.3 ヘッドと圧力”で説明した理屈、つまり高揚程における機械的制限がポンプにも当てはまるからです。また、高粘度液体の場合にはポンプ効率の低下や吐出流量・揚程の減少などの理由から遠心式を適用することが出来ません。
これ以外にポンプ選定で考慮すべき項目としては、流体性状(腐食性かどうかや粘度)、取り扱う流体温度(水冷構造の有無)、NPSH(net positive suction head:有効正味吸込揚程)などがあります。このNPSHはキャビテーション現象と密接な関係がありますので、別途、詳細にお話ししたいと思っています。とりあえずここではキャビテーションについて解説しておきます。
一般に流体を取り扱う回転機械ではその回転数を高く計画することによって機械全体を小型化できるが、流速が大きくなるにつれて圧力の低下をきたすために、部分的にその流体の蒸気圧以下となり、キャビテーション(空洞化)を併発するようになる。
キャビテーション(cavitation)は、流速や温度上昇による蒸気圧の上昇、あるいは曲がり部などで圧力損失が増加するために一時的に圧力が低下することで、流体の一部が蒸発したり流体中に溶解しているガスが遊離することにより発生する運転上の特異現象の一つである。この際、液体中に生じた蒸気やガスにより空洞が生成され、流れに沿いながら壊滅を繰り返すことで継続的な圧力変動を生じ、ポンプ羽根に浸食などのダメージを与える。
次回はポンプのデータシートを作成する上での注意点を中心に説明いたします。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet