6.2.8 熱伝達と材料の影響(No.37)(2009.10.12)
グラスライニング
グラスライニングは炭素鋼などの金属表面にガラスをコーティングしたもので、酸やアルカリなど腐食性の強い流体を扱う場合に使用される材料です。ガラスには一般用から耐熱性にすぐれたもの、あるいは耐摩耗性にすぐれたもの、そして静電気対策用など色々な種類がありますので、用途により選定していきます。
例えば石油化学分野などで多用される有機溶剤(ヘキサンやトルエンなど)を扱う場合には、溶剤とガスあるいは溶剤と容器間で静電気を生じる可能性があります。そのために蒸発した一部の溶剤が発火して火事になる可能性や、グラスライニング表面に出来たピンホールから母材金属が溶解し、製品中の金属イオンが増大するなどのトラブルを招く恐れがあります。このような場合には静電気対策用のグラスライニングを採用することをお奨めします。
グラスライニングのもう一つの特徴は熱伝導度が金属に比べ非常に小さいことです。例えば、炭素鋼の熱伝導度は約50W/m-Kですが、ガラスの熱伝導度は約1W/m-Kに過ぎませんので、熱伝達を伴う機器にグラスライニングを使用する場合には伝熱設計に注意を払う必要があります。
グラスライニングの熱伝達
前回の”熱伝達と粘度の影響”で例題に使用した撹拌槽伝熱を取り上げて、グラスライニングの熱伝達に及ぼす影響を調べてみましょう。伝熱形態は撹拌槽内溶液を外部から加熱冷却するジャケット伝熱です。計算の前提は、
- 槽内溶液:メタノールとトルエンの混合液
- 加熱媒体:温水(90℃)あるいはスチーム(143℃)
- 冷却媒体:ブライン(エチレングリコール50%、-15℃)
- 伝熱方式:外部ジャケット
- ジャケット:内径612mm、外径700mm、高さ700mm
まず、ブラインによる冷却時の伝熱性能を見てみましょう。
ここでは、母材をステンレス鋼と炭素鋼を対象にしており、それぞれの熱伝導度は16W/m-Kと51W/m-Kを使用しています。また、厚みによる影響を見るために母材の厚さを6mmと16mmの二つにしています。一方、グラスライニングの厚みは1mmにして、その熱伝導度は0.93W/m-Kに固定しました。
この結果、グラスライニングを使用しない無垢母材における総括伝熱係数Uを100とした時の各ケースでの比率を見てみますと、
- グラスライニングの有無および厚みならびに母材材料がU値に及ぼしている影響は小さく、各ケースでのU値は98%以上を示しています。
- この理由はジャケット側境膜係数が67.8kJ/m2hr-Kと小さいために、各パラメータの影響が出にくいためと思われます。
ブラインによる冷却熱伝達とグラスライニングの影響
熱冷媒 | 単位 | ブライン |
|||||
母材 | ステンレス鋼 | ||||||
厚み | mm | 6 | 6 | 6 | 16 | 16 | 16 |
ライニング | Glass | ||||||
厚み | mm | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 |
総括伝熱係数 | kJ/m2hr-K | 66.0 | 65.1 | 65.1 | 65.3 | 64.1 | 64.9 |
ジャケット内境膜伝熱係数 | kJ/m2hr-K | 67.8 | |||||
壁伝熱抵抗係数 | kJ/m2hr-K | 9,600 | 2,418 | 3,018 | 3,600 | 1,735 | 2,591 |
比較:総括伝熱係数 | 100% | 98.6% | 98.6% | 100% | 98.2% | 99.4% |
次に、温水による加熱時の伝熱性能を見てみましょう。
ここでもブライン冷却と同じく、母材による影響、厚みによる影響、そしてグラスライニングの有無の影響を見てみました。
この結果、グラスライニングを使用しない無垢母材における総括伝熱係数Uを100とした時の各ケースでの比率を見てみますと、
- グラスライニングの有無によるU値の低下は、母材にステンレス鋼を使用し厚みが6mmと薄い場合に顕著で、70%以下になっています。
- 逆に、母材に炭素鋼を使用し、厚みが16mmと厚い場合には、グラスライニングが及ぼす影響は小さく、90%強におさまっています。
- この理由はジャケット側境膜係数が4423kJ/m2hr-Kと大きく、母材の熱伝導度などのパラメータの影響が出やすいためと思われます。
温水による加熱熱伝達とグラスライニングの影響
熱冷媒 | 単位 | 温水 |
|||||
母材 | ステンレス鋼 | ||||||
厚み | mm | 6 | 6 | 6 | 16 | 16 | 16 |
ライニング | Glass | ||||||
厚み | mm | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 |
総括伝熱係数 | kJ/m2hr-K | 1,575 | 1,099 | 1,193 | 1,237 | 923 | 1,120 |
ジャケット内境膜伝熱係数 | kJ/m2hr-K | 4,423 | |||||
壁伝熱抵抗係数 | kJ/m2hr-K | 9,600 | 2,418 | 3,018 | 3,600 | 1,735 | 2,591 |
比較:総括伝熱係数 | 100% | 69.8% | 75.8% | 100% | 74.6% | 90.6% |
最後に、スチームによる加熱時の伝熱性能を見てみましょう。
ここでも今までの例にならって、母材による影響、厚みによる影響、そしてグラスライニングの有無の影響を見てみました。
この結果、グラスライニングを使用しない無垢母材における総括伝熱係数Uを100とした時の各ケースでの比率を見てみますと、
- グラスライニングの有無によるU値の低下は、温水加熱と同じく母材にステンレス鋼を使用し厚みが6mmと薄い場合に顕著で、62%弱になっています。
- 逆に、母材に炭素鋼を使用し、厚みが16mmと厚い場合には、グラスライニングの影響は小さく、88%弱におさまっています。
- この理由はジャケット側境膜係数が32196kJ/m2hr-Kと大きく、母材の熱伝導度などのパラメータの影響が出やすいためと思われます。
スチームによる加熱熱伝達とグラスライニングの影響
熱冷媒 | 単位 | スチーム |
|||||
母材 | ステンレス鋼 | ||||||
厚み | mm | 6 | 6 | 6 | 16 | 16 | 16 |
ライニング | Glass | ||||||
厚み | mm | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 |
総括伝熱係数 | kJ/m2hr-K | 2,273 | 1,399 | 1,554 | 1,630 | 1,126 | 1,433 |
ジャケット内境膜伝熱係数 | kJ/m2hr-K | 32,196 | |||||
壁伝熱抵抗係数 | kJ/m2hr-K | 9,600 | 2,418 | 3,018 | 3,600 | 1,735 | 2,591 |
比較:総括伝熱係数 | 100% | 61.6% | 68.4% | 100% | 69.1% | 87.9% |
以上の結果から、グラスライニングによる総括伝熱係数への影響は一律ではなく、母材の種類や厚み、そして加熱側あるいは冷却側の境膜係数に大きく左右されることがお分かりになるでしょう。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet