5. 水蒸気改質炉設計
5.1 改質管の設計
5.1.1 改質管とは
リフォーマーチューブ(Reformer Tube)、すなわち(水蒸気)改質管は、水素やアンモニアあるいはメタノールなどの原料となる水素ガスを製造する水蒸気改質炉(Reformer Furnace)で使用される反応器である。この改質管の内径は100mm前後、長さは約10m以上の遠心鋳造管で、その材料は高Cr-Ni系の耐熱合金である。
改質管内部にはNi系の水蒸気改質触媒が充填されており、その中をスチームと天然ガスやメタンなどの炭化水素系の気体もしくはナフサなどの液体(ガス化後の)が改質管上部から下部へと流れ、その間に改質管外側から熱せされながら反応が進行する。
5.1.2 改質管の材料
改質管外表面はバーナーの火炎や高温燃焼ガスにさらされるために耐熱合金(Heat Resistant Alloy)が採用される。
1960年代には最初の耐熱遠心鋳造管HK40(25Cr-20Ni)が製造された。その後、1970年代にはIN519(25Cr-24Ni+1Nb)やHP Modify(25Cr-35Ni+1Nb)が出現し、1980年代に入って現在も主流であるHP Micro-alloy(25Cr-35Ni+1Nb+Ti,Zr,W,Cs)が製造された。このHP Micro-alloyと最初のHK40を強度で比べると2.2倍の開きがある。
5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
Larson-Miller Parameterは改質管などの高温サービスで使用される材料の肉厚計算などの機械設計に使用されるパラメータである。
日本材料学会の高温強度部門委員会の定義によれば、
- 「異なる温度におけるクリープ破断データ(負荷と破断時間の関係)を統一的に整理するためのパラメータとして、ラーソンミラーパラメータP[=T(C+logtr)]を使用することが多い。」
- 「ここで、Tは絶対温度(K)、trは破断時間(h)、Cは材料定数であり多くの耐熱鋼では20前後の値となる。」
- 「このパラメータと負荷応力の関係が試験温度によらず、一つの関係式で表されることを利用し、高温短時間のクリープ破断データから、より低温長時間のクリープ破断寿命を予測することができる。」
改質管のメーカーあるいはAPI STD 530に、各耐熱材料に関するLarson-Miller Parameter(LMP)、もしくはAlloy Data Sheetが公表されている。その中から、Kubota KHR35CT に関するLMPと破断応力(Ruputure Stress)をExcelで計算し、その結果を表と図に示した。ただし、破断時間を100,000時間(およそ12.5年間)とし、破断応力の単位はMPaである。
なお、Larson-Miller Parameterの理論的なバックグラウンドについてはWikipedia(英語版)に掲載されていたので紹介する。ただし、内容については詳細にはチェックしていないので取扱に注意して下さい。
項目 | 単位 | Point-1 |
Point-2 |
Point-3 |
Point-4 |
Point-5 |
Point-6 |
温度 | deg.C | 815.6 | 871.1 | 926.7 | 982.2 | 1037.8 | 1093.3 |
Larson -Miller Parameter | LMP*10^-3 | 27.22 | 28.61 | 30.00 | 31.38 | 32.77 | 31.16 |
Rupture stress @ average | MPa | 55.02 | 44.68 | 27.65 | 16.75 | 9.58 | 5.31 |
Rupture stress @ minimum | MPa | 48.19 | 35.65 | 24.20 | 14.62 | 8.41 | 4.62 |
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet