5.4 安全停止と改質炉設計
5.4.1 運転温度とチューブ(改質管)設計
設計の信頼性をより向上させるためには、適切な運転方法の確立を必要とします。運転方法は千差万別であり、その中から「設計との相性が合う方法・手段を探し出し選択すること」もプロセスエンジニアリングの責務の一つです。その具体的な例としてチューブ(改質管)の設計を取り上げます。
チューブ(改質管)の設計パラメータには、①設計圧力、②設計温度、③チューブ内径、④チューブ材料の破断応力と⑤チューブ材料の破断時間の5つがあります。これらの中で③のチューブ内径と④のチューブ材料の破断応力および⑤チューブ材料の破断時間は運転方法や手段とは無関係に設定されます。
残る①の設計圧力は運転圧力をベースに決定され、運転圧力が設計圧力を超えないように安全弁が設置されているので、運転方法や手段によりチューブ(改質管)の設計圧力が影響されることはありません。ただし、前回の「運転停止と水蒸気改質炉の設計」で説明しましたように、チューブ(改質管)の寿命に対しては影響いたしますが・・・。
最後のパラメーターである設計温度は運転温度にある余裕を加えて決定します。この余裕を決めるに当たっては、運転方法や手順(運転モード)が運転温度に及ぼす影響の度合いを確認する必要があります。具体的には、
- 温度が何℃上昇するのか
- その頻度は年に何回あるとするのか
- それがチューブ(改質管)の寿命をどれだけ消費してしまうのか
などを検討しなければなりません。
そのためには実績をベースにして、種々の運転モードにおける運転温度や運転圧力を設定し、その条件の下で触媒の反応速度や伝熱速度を考慮したチューブ(改質管)のシミレーションを行います。
5.4.2 運転モードと運転温度
運転モードとは通常運転やスタートアップやシャットダウン、あるいは原料変更や製品生産量が増減した場合の運転状態を指して言います。そのために各運転モードにおける温度や圧力などの運転条件は、機器の特性や運転操作の影響を受けて変化します。
スタートアップやシャットダウンの概要については、すでに§2.7.2 ”水蒸気改質炉のスタートアップ”においてスタートにおける運転モードを紹介し、§5.3.1 ”運転停止の種類”および§5.3.2 ”緊急停止における水蒸気改質炉”においてシャットダウンについて説明しましたので、運転状態の変化については後ほど詳しく説明いたします。
原料が変更になったときの運転モードは、物質熱収支の再計算から出発しなければなりませんので、ここでの議論からは除外することに致します。また、製品生産量が増減した場合、例えば増量計画のもとでは原料変更と同様に物質熱収支の再計算から出発しなければなりませんので、これも本議論から外します。逆に生産量が減少した場合には、プラント全体の負荷減少と平行して運転温度も運転圧力も下げて運転することが多いので、この運転モードもチューブ(改質管)設計に大きく影響しないので除外します。
すると残る運転モードは通常運転ですが、この運転条件は設計の元になったものですから、運転変動も少なくチューブ(改質管)設計に大きく影響しないので除外します・・・。
この考え方で良いでしょうか?
実はここに大きな落とし穴があるのです。詳しくは次回に・・・。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet