第7章 計装制御
7.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
前回、”圧縮機吸込側放出弁の容量を決める際には圧縮機のシャットダウンを考慮する必要がある”と説明しました。
その理由は圧縮機が停止した場合に、圧縮機吐出側から高圧のガスが流量調節弁Dを通って低圧側(吸込側)に流入するために、その流入分を放出弁容量に加えなければならないからです。
これについては以前、基本設計演習「安全設計」の”圧縮機周りの設計条件”で詳しく説明していますので、そちらを参照して下さい。
基本設計演習「安全設計」の”圧縮機周りの設計条件”
7.2.4 圧力上昇の要因
圧力制御について説明する順序が逆になりましたが、圧力上昇をもたらす要因について整理してみます。まず、圧力上昇でも異常昇圧をもたらす要因について考えて見ましょう。
圧力上昇をもたらす要因にはプロセスそのものに由来するものと、ユーティリティーや周囲の環境変化がもたらす要因の二つがあります。前者のプロセスそのものに由来する要因には、
- 常時、開いている弁(制御弁や遮断弁あるいは締切弁)が何らかの理由でcloseし、系に継続して入ってくる流体により圧力が上昇する。これを”closed outlet”という。
- 系の境界に設置されている弁が何らかの理由でfull openし、高圧流体が系に流入して圧力が上昇する。これを”inadvertment valve opening”という。
- 逆止弁の機能不全により、高圧流体が低圧側に逆流して圧力が上昇する。これを”check-valve malfunction”という。
- 熱交換器のチューブが何らかの理由により破裂し、高圧流体が低圧流体に流入し圧力が上昇する。原因としては熱衝撃(thermal shock)や振動や腐食などが想定される。これを”heat-exchanger tube failure”と言う。
- ポンプの停止などの原因で冷却された還流が蒸留塔に戻らず、塔本体の圧力が上昇する。これを”reflux failure”という。
- 蒸留塔リボイラへの入熱が何らかの理由で増大し、蒸留塔本体圧力が上昇する。これを”abnormal heat input from reboiler”と言う。
- 温度制御などが不調となり、発熱反応のために温度および圧力が上昇する。良く知られているのはアンモニアプロセスでのメタネーション反応である。
外部要因としてのユーティリティー停止(utility failure)には、電力、冷却水、計装用空気、スチーム、燃料あるいはイナートガスが停止が考えられます。それらが途絶えたとき、直接的あるいは間接的にプロセス側の圧力が上昇する可能性があります。例えば、
- 電力:循環冷却水ポンプ、ボイラ給水ポンプ、クエンチポンプ、循環ポンプなどが停止する。また、空気冷却器や冷却塔のファンが停止する。これを”loss of fan”と言う。計装用空気圧縮機や真空ポンプあるいは冷凍機が停止する。モーター駆動弁が停止する。これらの停止により、冷却された流体や冷媒の供給が停止するので系の圧力が上昇する。これを”loss of electric power”と言う。
- 冷却水:凝縮器やプロセス流体や潤滑油などの冷却器、回転機などのジャケット用の冷却水が停止するので系の圧力が上昇する。これを”loss of cooling water”と言う。
- 計装用空気:送信器や制御器、制御弁、警報およびインターロックシステムが誤動作して系の圧力が上昇する。これを”loss of instrument air”と言う。
- スチーム:タービン駆動のポンプや圧縮機、あるいは発電機が停止して系の圧力が上昇する。その他にプロセス用スチーム、あるいはエジェクタ用スチームの停止により系の圧力が上昇する。
- 燃料:ポンプや発電機用のガスエンジンやガスタービンなどのへの燃料が停止することにより停電となって、系の圧力が上昇する。
- イナートガス:シールおよびパージ用イナートガスの供給停止により系の圧力が停止する。
これ以外に太陽輻射熱や火災による機器や配管の圧力上昇や、water hammerやsteam hammerによる配管の圧力上昇があります。以上の内容は”Guide for Pressure-Relieving and Depressuring Systems, API Recommended Practice 521 Fouth Edition”を参考にしました。
次回は、先ほどの圧力上昇をもたらす理由や原因、それと異常昇圧とは言えない程度の圧力変動をもたらす原因について説明します。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet