4.3.2 遠心ポンプのNPSH
NPSHR(NPSH Required)は必要有効吸込ヘッドと訳され、キャビテーションによるポンプ効率の低下を避けるために必要な吸込圧力である。この効率の低下の度合いは比速度(ns)が小さいほどその傾向が強い。
このNPSHR(NPSH Required)に対して実際に有効なNPSHをNPSHA(NPSH Available)といい、次式の関係がある。
NPSHA > NPSHR
NPSHA = Ha-Hv-Hs-hws
ここで、Haは運転圧力(大気圧の場合には10.33m)、Hvは液体の飽和蒸気圧、Hsは吸込高さ(ポンプより吸込容器が上に位置する場合は正、逆の場合には負となる)、hwsは吸込側の損失ヘッドを示している。
一方、NPSHRは次式で定義されており、C1はポンプ吸込での流速(m/s)、W1は羽根入口での局部的流速(m/s)、A1、A2はそれぞれの圧力係数である。
NPSHR = A1*(C1^2)/2g + A2*(W1^2)/2g
ここで、C1やW1を得るのは困難なので、NPSHRをある係数(トーマのキャビテーション係数:sigma)を使って次式で再定義する。ただし、Hはポンプの揚程。
NPSHR = sigma*H
このsigmaに関してはnsの値に対する実験式が求められている。
sigma = 7.88E-5*ns^1.33 片吸込
sigma = 5.00E-5*ns^1.33 両吸込
また、吸込比速度Sを定義し、これよりNPSHRを求めることが出来る。
S = n*Q^0.5/NPSHR^0.75
このSと先ほどのsigmaには次式の関係がある。
ns = S*sigma^0.75
比速度Sは経験上、ポンプの用途などにより定められており、一般のポンプでは1300~2000(標準1400)、冷却水ポンプで2200と言われている。以上のトーマのキャビテーション係数と吸込比速度を使ってポンプに必要な有効吸込揚程を計算してみよう。
この結果、下記に示したポンプ仕様(片吸込+一般ポンプ)におけるNPSHは約3mであることがわかる。ポンプメーカーからの要求でもおよそ2mがNPSHのminimumと考えて良い。
なお、NPSHAとNPSHRとの余裕は10%もしくは0.6mのどちらか大きい方とする。
ポンプの基本仕様
項目 | 単位 | 数値 |
回転数 | rpm | 3,000 |
流量 | m3/min | 1.0 |
揚程 | m | 20 |
比速度とトーマのキャビテーション係数(sigma)および吸込比速度の計算
吸込形式 | 比速度 | sigma | 吸込比速度(S) |
片吸込 | 317 | 0.168 | 1208 |
両吸込 | 224 | 0.0668 | 1705 |
吸込形式とNPSH
吸込形式 | sigma | NPSH |
片吸込 | 0.168 | 3.36m |
両吸込 | 0.0668 | 1.34m |
ポンプ用途とNPSH
用途 | S | NPSHR |
一般ポンプ | 1400 | 2.76m |
冷却水ポンプ | 2200 | 1.51m |
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
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- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
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- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
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- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
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