3. 容器の設計
3.1 容器の種類
化学プラントには多くの容器(Vessel)が使用されています。この容器にはタンク、分離器、フィルタ、ドライヤ、ストレーナおよび粉砕器などが含まれており、特に重要なのはタンク(貯蔵タンク)と分離器(プロセスドラム)です。次節からは容器のサイジングとして、貯蔵タンクと分離器を取り上げます。
3.2 貯蔵タンク
3.2.1 貯蔵タンクの分類
貯蔵タンクは貯蔵される流体性状や貯蔵圧力、そして構造や使い方などから細かく分類されます。例えば、貯蔵される流体の常温における蒸気圧が大気圧に比べ低いかあるいは高いかでその構造が大きく変わってきます。例えば、
- 常温でも貯蔵が可能な水やメタノールなどは、コーンルーフタンクなどの固定屋根式タンクやフローティングルーフタンク(浮屋根式)が使用されます。
- 常温(10~30℃)での蒸気圧が大気圧より高い場合には液体を冷却液化して貯蔵する。例えばアンモニアやLNGなどは極低温タンクや低温タンクなどを使用する。多くは二重殻を装備しそこを真空に保つための真空装置や冷凍機を装備している。
- 都市ガスなどは高圧にして貯蔵する。そのために球形タンクが採用される。
詳細はメーカーのホームページを参照下さい。例えば、株式会社石井鐵工所やトーヨーカネツ株式会社など。
3.2.2 貯蔵タンクの使用目的とサイジング
貯蔵タンクの使用目的としては、
- 備蓄や輸送などを目的にした長期貯蔵
- 工程間の運転調整を目的とした短期貯蔵
- 製品払出などにおける品質テストのための短期貯蔵
などがあります。一般に備蓄や輸送などを目的にした長期貯蔵では、海上輸送(タンカー)の往復日数を考慮してタンクのサイジングを行います。また、工程間の運転調整を目的とした短期貯蔵では、運転停止時における一時貯蔵や品質低下(オフスペック)時の再処理をベースに関係する設備容量や機器容量を考慮してサイジングを行います。製品払出などにおける品質テストのための短期貯蔵におけるサイジングは、品質テストに要する時間をベースに決定されます。
例えば、基本設計演習「エタノール合成設備」におけるエタノール貯蔵設備のサイジングを以下の手順で行ってみます。ただし、エタノールの生産量を1日1,000トンとします。
- 粗エタノールタンク:エタノール合成設備とエタノール蒸留設備間に貯蔵タンクを設け、運転のフレキシビリティを保つことにします。貯蔵タンクの容量をエタノール生産量1日分とし、エタノール合成設備出口の粗エタノール中のエタノール濃度を46wt%、密度を.890kg/m3しますと、タンク容量は1,000,000kg/(46wt%×890kg/m3) = 2,450m3となります。
- エタノールテストタンク:製品として払い出すエタノールの品質テスト用タンクの大きさを分析などに要する時間を12時間として計算します。ただし、テスト中のエタノール受入のためにタンクを二基設置することにします。エタノールの密度を790kg/3タンクの大きさは、1,000,000/(2×790kg/m3) = 633m3となります。
- エタノール製品タンク:生産したエタノールを中国の上海に輸出するとします。上海までの海上航路日数を往復で2日とし、荷揚げに1日、余裕として1日、合計4日要するとします。また、タンカーは一隻とするとタンクの大きさは、1,000,000kg×4日/(790kg/m3) = 5,064m3となります。
以上の結果を表にまとめますと下表のようになります。
機器名 | 内容物 | 貯蔵日数 | 基数 | 容量 |
- | days | - | m3 | |
粗エタノールタンク | 粗エタノール | 1.0 | 1 | 2,450 |
エタノールテストタンク | エタノール | 0.5 | 2 | 633 |
エタノール製品タンク | エタノール | 4.0 | 1 | 5,064 |
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet