2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
2.4.1 水蒸気改質炉の構造
水蒸気改質炉では水蒸気改質反応(吸熱反応)とCO転化反応が同時並行して行われます。総合的には吸熱反応となるので、外部から加熱する必要があります。ただし、温度条件が500~900℃と高温なのでそれに対応できる加熱媒体を使わざるを得ません。
そこで一般的には燃焼加熱炉が使用されます。この水蒸気改質炉も名前のように炉、すなわち燃焼加熱炉であり、改質触媒充填する改質管(reformer tubes)、燃料を燃やすバーナ(burners)などから構成されています。その構造を下図に示します。(図をクリックすると拡大します)
- 天井(ceiling):水蒸気改質炉の輻射部を囲む天井部分で、高温の燃焼排ガスを遮断しています。天井にはバーナや燃焼空気ダクトが設置されており、改質管の上部も天井から上部へ突き出ています。
- 床(floor):水蒸気改質炉の輻射部を囲む床の部分で、高温の燃焼排ガスを遮断しています。そこから改質管が下部に突き出ています。
- バーナ(burners):燃料を燃やす機器で、バーナチップ(先端部)、バーナ本体、燃料接続管、燃焼空気ダクトなどから構成されている。
- 改質管(reformer tubes):改質触媒を充填した耐熱合金製の遠心鋳造管。
- 出口マニホールド(outlet manifold):改質管を出た改質ガスが集まる集合ヘッダー。
- トランスファーライン:出口マニホールドからの改質ガスを下流の機器(主に廃熱ボイラ)と繋ぐ機器。
- トンネル(tunnnel):燃焼排ガスを下流の対流部に送るための整流設備。
この水蒸気改質炉に必要な燃料は、PSA方式の水素製造設備ではPSA off gas を使用し、不足する場合には原料であるNGを補助燃料として使用します。
2.4.2 燃焼排ガスの物質熱収支
水蒸気改質炉に必要な熱量はすでに計算されています。その熱量や温度条件を以下に示します。
- 必要熱量(heat duty):231,348*10^3kJ/h=231.348GJ/h
- 入口温度:560℃
- 出口温度:875℃
この温度条件から水蒸気改質炉出口の燃焼排ガス温度はおよそ900℃以上の高温となります。この燃焼排ガス温度が高ければ高いほど燃料の量は増加しますので、良好な原単位を保つためには低い温度が望ましいことになります。しかし、熱交換器の原理と同様に低い燃焼排ガス温度に設定しますと、プロセスガスとの温度差が小さくなり大きな伝熱面積を必要としますので、勝手に決めるわけにはいきません。また改質触媒の活性や改質管の強度も影響してきます。
ここでは一応出口排ガス温度を950℃に設定して、水蒸気改質炉の物質熱収支を計算しました。詳細については今までと同じくExcelファイル(version0.8)を用意しましたのでダウンロードしてご覧下さい。このversion0.8の主な内容を説明します。
- 燃焼排ガス系の物質熱収支の計算は、”hydrogenPlant&Version0.8.xls”のシート”FlueGasBal”に示しています。
- 水蒸気改質炉のプロセス側の物質熱収支の計算シート”GasBal&0.8”を新たに追加しました。内容は”GasBal&0.7”と同じですが、reformer duty と PSA off gas の組成をシート”FlueGasBal”にリンクするようにしています。
- 水蒸気改質炉は水素設備で最も大きい機器ですので、表面からの熱損失を無視することが出来ません。そこで、熱損失を3%程度考慮して熱収支を計算しています。
- 必要なNG燃料を計算し、燃焼排ガスからの廃熱回収量を計算しています。
追補:必要なNG燃料の計算は、ReformerFurnaceでの燃焼排ガス温度も含め繰り返し計算になりますので注意して下さい。
2.4.3 燃焼排ガス系の熱収支計算結果
燃焼排ガス系の物質熱収支計算表にて計算した結果の概略を説明します。
Reformerと廃熱回収熱交換器の温度と熱負荷(heat duty)を下表にまとめました。ただし、熱負荷の+は加熱、-は冷却を意味しています。
Reformer/Cooler | 入口温度 | 出口温度 |
熱負荷 |
deg.C | deg.C | GJ/hr | |
Reformer | 1667 | 950 | -231.350 |
Cooler-1 | 950 | 900 | -14.642 |
Cooler-2 | 900 | 800 | -28.919 |
Cooler-3 | 800 | 700 | -28.402 |
Cooler-4 | 700 | 600 | -27.846 |
Cooler-5 | 600 | 500 | -27.248 |
Cooler-6 | 500 | 400 | -26.603 |
Coolee-7 | 400 | 300 | -25.912 |
Coolee-8 | 300 | 200 | -25.170 |
Coolee-9 | 200 | 150 | -12.291 |
Coolee-10 | 150 | 100 | -12.088 |
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet