2.2 熱収支計算表の作成
熱収支計算表を、前回の「熱収支計算の基礎」で説明した計算手順をもとに作成します。
計算表への追加や変更については後述しますExcelファイルのシート”GasBal&0.6”のA列目に注釈として説明文を挿入しました。以下にその内容を転記します。
- 69行目にApproach temperature ℃(平衡温度からのズレ)を指定できるようにしました。Excelファイルには代表的なアプローチ温度を記入しています。(最終的には触媒メーカとの協議で決める)
- 77行目には200行目に計算している合計熱量を表示。
- 79行目にCO shift反応器を断熱とした場合の出口温度の繰り返し計算を追加。ここではCO shift反応器の入口出口の熱量の比が1になうように出口温度を変更しています。ただし、そのたびにCO shift自身(18行目)の繰り返し計算を行う必要があります。
- 83行目にstream中のH2Oの露点を追加。この温度は次の繰り返し計算の初期値(計算値)に使用されています。
- 84行目にはstream中のH2O分率から計算した分圧と蒸気圧に関する繰り返し計算を追加しました。
- 108~130行にはGasのエンタルピー(顕熱分)の計算を追加。
- 131~151行にはLiquidのエンタルピー(顕熱分)の計算を追加。
- 152~173行には熱量(顕熱分)の計算を追加。
- 179~199行には生成熱の計算を追加。
- 200行目には熱量合計を追加。
これらの追加や変更それ自身は簡単で問題ないのですが、各streamで繰り返し計算が追加となり、そのたびにExcelツールの”ソルバー”や”ゴールシーク”を使うと手間ばかりかかります。そこで、この熱収支計算表での繰り返し計算用にマクロを使用することをお奨めします。その一例を下記に紹介します。ただし、ウィルス対策のためにExcelファイルにはこのマクロを挿入しておりませんので、ご自身でマクロを作って下さい。
「繰り返し計算のためのマクロを作る」
- ゴールシークを使用して繰り返し計算を実行します。
- マクロの対象となるセルは上下二セルで、下段セルには比較対象となる二変数の割り算計算式を置く。
- 上段セルには割り算計算式で使用されている目的となる変数(例えば温度)を置く。
- 先ほどの二変数の割り算結果が1.00000(小数点以下の桁数は計算精度に依存する)になるように、上段セルを変えていく。
- マクロに挿入する計算式は、ActiveCell.GoalSeek Goal:=1, ChangingCell:=ActiveCell.Offset(-1, 0).Range("A1")
今回のExcelファイルには、今回の熱収支計算を追加したシート「GasBal&0.6」と物性を示した「HeatCapacity」を追加しました。
警告:本Excelファイルで使っている物性は理想状態を前提としているので、実ガスなど理想状態から外れる環境では精度が低く、その計算結果を保証するものではありません。
よって本Excelファイルを使用して計算した結果を使用する場合には、十分に注意を払う必要があります。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet