この”プロセス設計の実務”では、プラントエンジニアリングの基幹となるプロセス設計の”イロハ”について説明しており、プラントエンジニアリングやプロセスエンジニアリングに興味がある社会人や学生を対象にしています。

この”プロセス設計の実務”では、基本に帰って「プロセス設計とは?」をもう少し掘り下げていきたいと考えています。その進め方については以下のように考えています。

  1. 「天然ガスを原料とする水素製造プラントのプロセス設計」を例題として設定いたします。
  2. プロセス設計というよりは基本設計+詳細設計の一部を含めた範囲としますので、機器設計や配管設計などに言及することが多くなります。
  3. 実際の設計に使用するエンジニアリング・ツールなどを使用しながら説明いたします。
  4. 更新のインターバルは原則として週1回(月曜日)と考えていますが、他のテーマを優先することもあります。

4.2 ポンプの設計
4.2.2 ポンプのデータシート(運転条件-2 流量について)

ポンプデータシートには定常流量(normal flow)と設計流量(design flow)の二つの流量を記載する欄があるのが通例です。もし、定常運転以外の運転モードがなく、流量に余裕を持たなくても良い場合には設計流量を書く必要はありません。逆に定常時の流量の特定が困難な場合(例えばバッチで運転され、時間的に流量が変化するケース)には、類似ポンプあるいは過去の実績を参考にしてメーカーの標準ポンプを選定することもあります。

しかし、化学プラントの場合には起動や停止、あるいは定常時でも複数の運転モードがあります。この中には流量が最小になったり最大になる運転モードが存在します。例えば蒸留塔の還流ポンプ(reflux pump)は蒸留塔コンデンサーを出た凝縮液を還流として蒸留塔に循環させるポンプで、その設計流量は最大還流比を考慮して決められます。例えば通常時の還流比を2とし最大の還流比を3とした場合、還流ポンプに流れる流量は次式となります。ただし蒸留塔凝縮液から外部に抜き出す流量を"x"とすれば、還流比は”(凝縮液-x)/x”となります。

通常流量 = (2+1)*x, 最大流量 = (3+1)*x

つまり、最大流量は定常流量の約1.33倍となります。この最大流量をそのまま余裕を持たせずに設計流量とするかどうかは、以下の二つの要因が影響します。

  1. ポンプ製作における品質
  2. 揚程計算の確かさ

1.の”製作における品質”とは、主にポンプ構造上避けられない漏洩による損失で、この損失が予想より大きかった場合、望みの流量を確保できないという問題を生じます。このケースでは流量に余裕を持たせて設計流量とします。
また、2.の”揚程計算の確かさ”は、ポンプ揚程を決める際の圧力損失計算の正確さです。実際にプロセスエンジニアがポンプデータシートを作成するタイミングは設計段階の初期に行われますので、ポンプ周りの配管ルートなど、圧損計算を行うための情報が集まっていないケースがほとんどです。そのために、なんらかのリスク対応が必要となります。

図にポンプの性能曲線を示します。この図で設計時に設定した流量と揚程がそれぞれQ0とH0としますと、運転点はP0になります。もし、実際の運転での圧損が予想以上大きかった場合、運転点はP1になります。そのために流量と揚程はQ1とH1になり、結果的に流量が少なくなります。
ただし、漏洩による流量減少は設計の不備ということになりますので、この図で示すことは出来ません。


以上の二つの理由から流量と揚程に余裕を持たせるようにします。例えば流量に関しては、その余裕を一般には10%にします。つまり、

設計流量 = 定常流量×110%

また、揚程に関しては、

設計揚程 = 計算揚程×110%

それでは、流量と揚程と同時に余裕を持つ必要があるのでしょうか?皆さんはどう考えますか?それについての議論は次回に譲ることにしましょう。

回転機の余裕の持ち方

ポンプや圧縮機などの回転機において余裕を持つことはコストアップに繋がるので得策ではない。しかし、予想外の状況が発生し、運転継続が出来なくなるだけではなく、製品の生産量が低下し客先に迷惑を掛けるわけには行けない。
ではどうすれば良いのであろうか?
対策としては、

  1. 設計流量に余裕を持たせる。
  2. 設計揚程や最大吐出圧に余裕を持たせる。
  3. 駆動機馬力に余裕を持たせる。

以上の対策を単独で行うかそれとも組み合わせで行うかは、プロセスの実績や設計の習熟度で決める。つまり、”やばいと思ったら設計に余裕を持たる”という決断が必要なのだが、どの程度に余裕を持たせるかを決めるには、それなりの失敗の経験がなければならない。