1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
前節で設定した水蒸気改質反応における平衡定数近似式を物質収支計算に組み込むための準備を行います。
水蒸気改質炉では水蒸気改質反応とCO転化反応が同時並行で進行すると仮定します。また、これらの混合気体が理想気体として見なしうる常圧付近では、平衡定数Kは混合気体中の成分の分圧で決まるKp(圧平衡定数)に等しくなります。
水蒸気改質反応の圧平衡定数(Kpm)とCO転化反応の圧平衡定数(Kps)は次式で計算出来ます。ただしP**とPTは各成分の分圧(atm)と全圧(atm)を示し、a,b,c,dはそれぞれCH4,CO2,CO,H2のdry mol %、S/Gはsteamとdry gasの比を示しています。
dry gasとはsteam以外のガス
Kpm=[(PCO)(PH2)^3]/[(PCH4)(PH2O)] = [c×d/(a×100S/G)]×[(d×PT)/(100+100S/G)]^2
Kps=[(PCO2)(PH2)]/[(PCO)(PH2O)] = b×d/(c×100S/G)
また、この両者の平衡定数の近似式を示します。ただし、TtmとTtsは水蒸気改質反応とCO転化反応のそれぞれの変形平衡絶対温度(Tt=10^3/T-1)を意味しています。
lnKpm =-5.02197E-02×Ttm^3+6.64874E-01×Ttm^2-2.70231E+01×Ttm+ 3.19352+00
lnKps =-1.41999E-01×Tts^3+5.04839E-01×Tts^2+4.21267E+00×Tts+ 3.41696E-01
各成分のモル比から計算から計算した圧平衡定数KpmとKpsが、近似式で求めたKpmおよびKpsと同じになるような温度TtmとTtsを求めることにより、水蒸気改質炉の出口組成を求めることが出来るようになります。
1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
出口組成を計算するための前提条件として幾つかありますが、
- 運転圧力は常圧付近、例えば1MPa以下とします。
- 水蒸気改質反応とCO転化反応は平衡まで達するとします。
- 水蒸気改質反応とCO転化反応の平衡温度は等しいとします。
計算には先ほどの近似式と原子バランスの考え方を導入します。以下に計算の手順を示します。
- 出口ガス中のCH4流量を仮定する。
- 出口ガス中のCO2流量を仮定する。
- 出口ガス中のH2流量は原子バランスを使用し、流入ガス中の水素(2H)からCH4とH2O中の水素(2H)を差し引いた値とする。
- 出口ガス中のCO流量は原子バランスを使用し、流入ガス中の炭素(C)からCH4とCO2中の炭素(C)を差し引いた値とする。
- 出口ガス中のH2O流量は原子バランスを使用し、流入ガス中の酸素(O)からCOとCO2中の酸素(O)を差し引いた値とする。
- 出口ガス中のCO,H2,CH4,H2Oと圧力から水蒸気改質反応の平衡定数(Kpm)を計算する。また、平衡定数の近似式(温度の関数)から求めた平衡定数(Kpm')との比を計算する。
- 出口ガス中のCO2,H2,CO,H2Oと圧力からCO転化反応(CO Shift)の平衡定数(Kps)を計算する。また、平衡定数の近似式(温度の関数)から求めた平衡定数(Kps')との比を計算する。
- Kpm/Kpm'およびKps/Kps'が共に1になるように、1.で仮定したCH4流量と2.で仮定したCO2流量を変えながら、Kpm/Kpm'およびKps/Kps'が共に1になるまで計算を繰り返します。
この計算を行うためには、出口ガス中のCH4濃度と出口ガス中のCO2濃度を変えた繰り返し計算をExcelツールのゴールシークあるいはソルバーを使うのが便利です。上記の計算ステップとソルバーの使い方を含めた物質収支計算表を作成しましたので参考にして下さい。下記の計算例の結果を示します。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet