この”プロセス設計の実務”では、プラントエンジニアリングの基幹となるプロセス設計の”イロハ”について説明しており、プラントエンジニアリングやプロセスエンジニアリングに興味がある社会人や学生を対象にしています。

この”プロセス設計の実務”では、基本に帰って「プロセス設計とは?」をもう少し掘り下げていきたいと考えています。その進め方については以下のように考えています。

  1. 「天然ガスを原料とする水素製造プラントのプロセス設計」を例題として設定いたします。
  2. プロセス設計というよりは基本設計+詳細設計の一部を含めた範囲としますので、機器設計や配管設計などに言及することが多くなります。
  3. 実際の設計に使用するエンジニアリング・ツールなどを使用しながら説明いたします。
  4. 更新のインターバルは原則として週1回(月曜日)と考えていますが、他のテーマを優先することもあります。

2. 熱収支の計算

2.1 熱収支計算の基礎

物質収支の計算が終了してもプロセス設計の入口に立ったに過ぎない。熱収支の計算の目的、つまり熱収支の計算を行うことで以下の項目が可能となる。

  1. 予熱・加熱・冷却・凝縮などの容量が決まり、熱交換器の熱負荷が設定できる。
  2. 反応器(断熱あるいは等温)の温度条件が確定出来る。
  3. 以上の手順を踏むことで、プロセスの温度条件の変化を把握することが出来るので、機器のみならず配管や計装設計の基本条件(設計温度)を確定することが出来る。
  4. 各種ユーティリティー(冷却水、加熱炉、スチームや温水)の必要量や容量(熱負荷)を決めることが出来る。
  5. プロセス全体の原単位(原料+燃料+電力など)を把握することが出来る。

このように熱収支の計算を行うためには、計算の前提条件を決めておく必要がある。その条件とは、

  1. 使用する物性。特に比熱やエンタルピー、あるいは潜熱や蒸気圧など。
  2. 計算の手順。熱収支の計算では条件により計算の手順や方法が変わる可能性があるので、前もって手順を決めておく必要がある。

物性に関しては計算の簡便さを第1にするので、圧力補正などは一切考慮していない。しかし、それほどの高圧条件で無ければ、おおよその状況を把握することは可能である。そこで、物性の情報源を以下に示す。

  1. 比熱とエンタルピー:NIST Chemistry WebBook
  2. 水の潜熱と蒸気圧:Chemical Properties Handbook
  3. 生成エネルギー:Perry's Chemical Engineers' Handbook

以下に計算の手順を示しました。また、この手順をフローチャート風に作成しましたので、合わせてご利用下さい。

手順1:気液分離計算を行う。具体的にはストリームに含まれる水分(H2O)を水(液体)とスチーム(気体)に分離する。

  1. 与えられた運転温度下での水の蒸気圧を計算する。
  2. 運転圧力PTと蒸気圧PVを比較し、
  3. もし、PT<PVであるならば、ストリームに含まれている水分(QH2O)は全量スチーム(Qs)とし、水(Qw)を0とする。
  4. もしPT>PVであるならば、ストリームに含まれる最大水分(QH2Omax)を計算し、最大水分(QH2Omax)とストリームに含まれている水分(QH2O)を比較する。
  5. もし、QH2Omax>QH2Oならば、ストリームに含まれている水分(QH2O)を全量スチーム(Qs)とし、水(Qw)を0とする。
  6. もし、QH2Omax<QH2Oならば、ストリームに含まれる最大水分(QH2Omax)をスチーム(Qs)とし、ストリームに含まれている水分(QH2O)から最大水分(QH2Omax)を差し引いた残りを水(Qw)とする。この際、露点(dew point)を計算しておく。

手順2:気液それぞれのエンタルピーの計算を行う。その中には、気相部分と液相部分の顕熱、気相部分の潜熱、そして全成分の生成エネルギー(Heat of Formation)の合計を計算する。

  1. 気液成分の比熱もしくはエンタルピーを計算する。
  2. 気相部分のエンタルピーは各流量とエンタルピーの積の合計とする。
  3. スチームの潜熱を露点をベースにして計算する。
  4. 水のエンタルピーを計算する。ただし、スチームが存在する場合にはスチーム量を加味して計算する。


計算手順のフローチャートを「MaterialHeatBalanceFlowChart.pdf」に示しました。

ダウンロードする LinkIcon

熱収支とエネルギー収支

熱収支では燃料の持つエンタルピーのみを考慮して熱収支計算を行います。そのために電力やスチームなどを多用するプラントでは、熱に電力やスチームを加えてエネルギー収支計算を行います。
例えば自家発の場合には必要な電力を作るために熱を消費していますので、その電力をエネルギー収支に加える必要はありませんが、外部から電力をもらっている場合には事情が異なります。
例えば、大型ポンプの駆動源がモーターで、その電力消費量が1,000kWの場合には、その電力を供給する発電所における発電効率を加味する必要があります。つまり、発電効率(送電ロスも含む)を30%とすれば、相当するエネルギーは、

相当エネルギー = 1,000kW ×3600kJ/hr÷0.3 = 12GJ/hr