この”プロセス設計の実務”では、プラントエンジニアリングの基幹となるプロセス設計の”イロハ”について説明しており、プラントエンジニアリングやプロセスエンジニアリングに興味がある社会人や学生を対象にしています。

この”プロセス設計の実務”では、基本に帰って「プロセス設計とは?」をもう少し掘り下げていきたいと考えています。その進め方については以下のように考えています。

  1. 「天然ガスを原料とする水素製造プラントのプロセス設計」を例題として設定いたします。
  2. プロセス設計というよりは基本設計+詳細設計の一部を含めた範囲としますので、機器設計や配管設計などに言及することが多くなります。
  3. 実際の設計に使用するエンジニアリング・ツールなどを使用しながら説明いたします。
  4. 更新のインターバルは原則として週1回(月曜日)と考えていますが、他のテーマを優先することもあります。

1. 物質収支の計算 (続き)

1.6 平衡定数の計算

原料である天然ガス(主成分はメタン)と水蒸気から水素を製造するために、水蒸気改質法を採用します。この水蒸気改質反応を担う装置が水蒸気改質炉(Steam Reformer)と呼ばれるもので、装置内で以下に示す水蒸気改質反応とCO転化反応が同時に進行します。

この水蒸気改質法を用いた水素製造については反応については"PFD & Process"の「水素製造プロセス」にて説明しておりますので参照下さい。

この両者の反応を考慮した物質収支計算表を作成するためには、それぞれの平衡定数を温度と圧力に関する式を作り、物質収支計算表に組み込む必要があります。そこで、一例として水蒸気改質反応の平衡定数を求めることにしましょう。

ここで述べる反応平衡乗数の計算方法は、“化学技術者のための熱力学(小島和夫著、培風館)”の「11章 化学平衡」をもとにしています。その中で、化学平衡定数の算出に関する三つの方法についての記述があります。それを簡単に紹介しますと、

  1. 標準自由エネルギー変化と標準エンタルピー変化から求める方法
  2. 標準反応熱と標準エントロピー変化から標準自由エネルギー変化を算出し求める方法
  3. 標準自由エネルギー変化を算出し、次に標準エンタルピー変化を求める方法

いずれも標準自由エネルギー変化と標準エンタルピー変化が重要な役割を果たしております。ここでは最初の“標準自由エネルギー変化と標準エンタルピー変化から求める方法”により平衡定数を求めてみます。

標準自由エネルギー変化と標準エンタルピー変化から平衡定数Kを求める際に使用する関係式を以下に示します。


また、以下に平衡定数を求める計算手順を説明します。詳細は次節以降をご覧下さい。

  1. 式2-1から、25℃、1気圧における標準自由エネルギーを使って平衡定数Kを求めます。
  2. 式2-3を使ってΔHoを計算します。
  3. 式2-2に(1)で求めた平衡定数Kと(2)で求めたΔHoを代入して積分定数Cを求めます。
  4. 式2-2に(3)で求めた積分定数Cを代入して任意の温度における平衡定数Kの計算式を作ります。

1.6.1 標準自由エネルギー変化と平衡定数K

手順(1)では25℃、1気圧における平衡定数Kを次式を使って求めます。

なお、フォントの制限から、例えばΔHの上付き文字"o"を ΔHsup"o"とします。ただし、下付き文字はそのままΔHoとします。

標準自由エネルギー変化(ΔGsup"o")は次式で求められます。ただし、化学反応式は反応物AとB、生成物をCとDとし、それぞれのモル数と標準自由エネルギーをnとΔGfで表します。

ΔGsup"o" = nc×(ΔGf)c + nd×(ΔGf)d – [na×(ΔGf)a + nb×(ΔGf)b]

水蒸気改質反応の場合の化学反応式は “CH4 + H2O ⇆ CO + 3H2” ですから、それぞれの係数と物性値は次表のようになります。

化学反応 反応物 生成物
物質名 CH4 H2O CO H2
モル数 1 1 1 3
ΔGf kJ/mol -50.84 -228.60 -137.20 0
ΔHf kJ/mol -74.85 -241.80 -110.54 0
a kJ/mol 34.942 33.933 29.556 25.399
b kJ/mol -4.00E-02 -8.42E-03 -6.58E-03 2.02E-02
c kJ/mol 1.91E-04 2.99E-05 2.01E-05 -3.85E-05
d kJ/mol -1.53E-07 -1.78E-08 -1.22E-08 3.19E-08
e kJ/mol 3.93E-11 3.69E-12 2.26E-12 -8.76E-12

出展:Chemical Properties Handbook by Carl L. Yaws, McGraw-Hill

これを使用して、標準自由エネルギー変化と平衡定数Kを計算します。

ΔGsup"o" = 1×(-137.20 )+3×( 0 ) – [1×(-50.84 )+1×(-228.60 ) = 142.24kJ/mol
lnK=-ΔGsup"o"/RT=-(142.24/[(8.314)(298.15)]=-57.382J/mol

1.6.2 ΔHo

次にΔHoを標準生成熱(ΔHf)より求めます。物性値は先ほどの表に示しています。

ΔHsup"o"298 = nc (ΔHf)c + nd (ΔHf)d – [na (ΔHf)a + nb (ΔHf)b]= 206.11kJ/mol
Δa = (a)C + (a)D – [(a)A + (a) B] = 36.878J/mol-K
Δb = (b)C + (b)D – [(b)A + (b) B] =+1.02E-01J/mol-K
Δc = (c)C + (c)D – [(c)A + (c) B] = -3.17E-04J/mol-K
Δd = (d)C + (d)D – [(d)A + (d) B] =+2.54E-07J/mol-K
Δe = (e)C + (e)D – [(e)A + (e) B] =-6.07E-011J/mol-K

求めたΔa、Δb、Δcなどを導入すると、標準エンタルピー変化(ΔHo)を求めることが出来ます。

ΔHo=ΔHsup"o"298–Δa×(298.15)–Δb/2×(298.15)^2–Δc/3×(298.15)^3–Δd/4×(298.15)^4–Δe/5×(298.15)^5 = 1.93E+05

1.6.3 積分定数C

次式に、今まで計算で求めたΔHo、Δa、Δb、ΔcなどとlnKを使って積分定数Cを求めます。

C=lnK+Ho/RT-[Δa/RlnT+Δb/2R×T+Δc/6R×T^2+Δd/12R×T^3+Δe/20R×T^4]
= -6.1697

1.6.4 平衡定数K

以上求めた係数を導入することで、任意の温度Tにおける平衡定数Kを求めることが出来ます。

lnK=-ΔHo/RT+Δa/RlnT+Δb/2R×T+Δc/6R×T^2 +Δd/12R×T^3 +Δe/20R×T^4 +C
=-1.93E+05/(8.314×T )+(36.878)/(8.314×lnT)+(1.02E-01)/ (2×8.314×T)+(-3.17E-04)/(6×8.314×T^2)+(2.54E-07)/(12×8.314×T^3 )+(-6.07E-011)/(20×8.314×T^4)-6.1697

以上の内容を詳しく説明した資料(EqulibriumConstant&SteamReforming.pdf)を作成しましたので、興味ある方はダウンロードしてみて下さい。

ダウンロードする LinkIcon

CO転化反応と物質収支計算

CO転化反応水蒸気改質反応と同時並行で起こる反応で、700℃以上の高温下では平衡濃度近くまで反応が進行します。そのために水蒸気改質反応より高温条件(1000℃以上)で行われる部分酸化反応でも、CO転化反応は平衡濃度まで進行するとして物質収支を計算します。

一方、水素製造プロセスで水蒸気改質炉下流に設置されるCO転化器では、温度条件が180~450℃と低いために反応速度が遅く、触媒量や反応器の大きさなどのを考慮して、平衡濃度より若干低めのところで反応が終了するように物質収支を計算します。