4. 原子バランス物質収支
4.1 水蒸気改質プラントと化学反応式

例題として天然ガスを原料とした水蒸気改質法による水素プラントを考えます。
水蒸気改質法は、天然ガスなどの化石燃料をスチームにより水素を主成分とした合成ガスに改質する方法で、水素、メタノールあるいはアンモニア、そして現在では燃料電池などの製造設備に採用されています。
この水蒸気改質法における反応式は以下の二つで、前者がメタンの水蒸気改質反応、後者が一酸化炭素の転化反応と呼ばれています。
- CH4 + H2O = CO + 3H2
- CO + H2O = CO2 + H2
4.2 運転データの解析
このプラントの保証運転において、以下に示すような水蒸気改質炉周りの運転データが得られたとします。ここで、改質後のガスの組成が本当に正しいのかをチェックしてみたいと思います。
| Stream | 組成 | mol % | 流量 kmol/h |
|---|---|---|---|
| 天然ガス | CH4 | 100 | 1,000 |
| スチーム | H2O | 100 | 3,400 |
| 合成ガス | H2 | 73 | ? |
| CO | 15 | ? | |
| CO2 | 7 | ? | |
| CH4 | 5 | ? | |
| Total | 100 | ? |
まず、水蒸気改質炉に供給される天然ガスとスチーム中の炭素(C)、水素(H2)および酸素(O)の量(モル数)を計算します。ただし、流量の単位は全て kmol/h です。
| Stream | 組成 | 流量 | C | H2 | O |
|---|---|---|---|---|---|
| 天然ガス | CH4 | 1,000 | 1,000 | 2,000 | 0 |
| スチーム | H2O | 3,400 | 0 | 3,400 | 3,400 |
| 合計 | CH4+H2O | 4,400 | 1,000 | 5,400 | 3,400 |
次に合成ガス中の炭素(C)、水素(H2)および酸素(O)の量(モル数)を計算します。ただし、ガス組成はガスクロなどで測定されていますが、ガス流量は測定されることは余りないようなので分からないとします。よって、合成ガス100kmolあたりの各モル数を計算します。すると、
| Stream | 組成 | 流量 | C | H2 | O |
|---|---|---|---|---|---|
| 合成ガス | H2 | 73 | 0 | 73 | 0 |
| CO | 15 | 15 | 0 | 15 | |
| CO2 | 7 | 7 | 0 | 14 | |
| CH4 | 5 | 5 | 10 | 0 | |
| H2O | x | 0 | x | x | |
| Total | 100+x | 27 | 73+x | 29+x |
H2およびOの一部は合成ガス中のH2Oに変換されますが、ガスクロ測定ではH2Oは冷却凝縮されて、他のガスと分離されますので濃度が分かりません。そのためにこのままでが合成ガス量が計算できないことになります。
そこで原子バランスの考え方が有効になってくるわけです。つまり、質量保存の法則から水蒸気改質炉に供給される炭素(C)、水素(H2)および酸素(O)の量は水蒸気改質後も変わらないので、炭素(C)に関して次式が成立します。
CO+CO2+CH4 = 1,000kmol/hr
CO =15/27×1,000 = 555.6kmol/hr
CO2 =7/27×1,000 = 259.3kmol/hr
CH4 =5/27×1,000 = 185.1kmol/hr
| Stream | 組成 | 流量 | C | H2 | O |
|---|---|---|---|---|---|
| 合成ガス | CO | 555.6 | 555.6 | 0 | 555.6 |
| CO2 | 259.3 | 259.3 | 0 | 518.5 | |
| CH4 | 185.1 | 185.1 | 370.3 | 0 | |
| Total | 1,000.0 | 1,000.0 | 370.3 | 1,074.1 |
また合成ガス中の水素(H2)量は、合成ガス組成と供給される炭素(C)量を用いて以下のように計算することが出来ます。
H2 = 73/27×1,000 = 2703.7kmol/hr
これより、合成ガス中の合計水素(H2)量(モル数)と合計酸素(O)を求めますと以下のようになります。
| Stream | 組成 | 流量 | C | H2 | O |
|---|---|---|---|---|---|
| 合成ガス | H2 | 2703.7 | 0 | 2703.7 | 0 |
| CO | 555.6 | 555.6 | 0 | 555.6 | |
| CO2 | 259.3 | 259.3 | 0 | 518.5 | |
| CH4 | 185.1 | 185.1 | 370.3 | 0 | |
| Total | 3,703.7 | 1,000.0 | 3074.1 | 1,074.1 |
よって、この合計水素(H2)と水蒸気改質炉に供給される水素(H2)合計量を比較し差を求めると、
⊿H2 = 5,400-3074.1=2325.9kmol/hr
また、合計酸素(O)と水蒸気改質炉に供給される酸素(O)合計量を比較し、差を求めると、
⊿O = 3,400-1074.1=2325.9kmol/hr
この⊿H2と⊿Oが合成ガス中に含まれているH2O、つまりスチーム量に相当します。つまり、合成ガスの組成と流量は以下のようになると考えられます。
| Stream | 組成 | 流量 | C | H2 | O |
|---|---|---|---|---|---|
| 合成ガス | H2 | 2703.7 | 0 | 2703.7 | 0 |
| CO | 555.6 | 555.6 | 0 | 555.6 | |
| CO2 | 259.3 | 259.3 | 0 | 518.5 | |
| CH4 | 185.1 | 185.1 | 370.3 | 0 | |
| H2O | 2325.9 | 0 | 2325.9 | 2325.9 | |
| Total | 6029.6 | 1000.0 | 5400.0 | 3400.0 |
この計算された合成ガス流量と組成を使用して、製造された水素量のバックチェックや、水蒸気改質触媒性能などを確認することが可能です。これについてはまた別の機会にお話します。


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