原子バランスを考慮した物質収支計算
水蒸気改質プロセスと化学反応式
例題として天然ガスを原料とした水蒸気改質法による水素プラントを考えます。
水蒸気改質法は、天然ガスなどの化石燃料をスチームにより水素を主成分とした合成ガスに改質する方法で、水素、メタノールあるいはアンモニア、そして現在では燃料電池などの製造設備に採用されています。
この水蒸気改質法における反応式は以下の二つで、前者がメタンの水蒸気改質反応、後者が一酸化炭素の転化反応と呼ばれています。
- CH4 + H2O = CO + 3H2
- CO + H2O = CO2 + H2
運転データの解析
Stream | 物質 | 組成 | 流量 |
mol% | kmol/hr | ||
Natural gas 天然ガス | CH4 | 100.0 | 1,000 |
Steam スチーム | H2O | 100.0 | 3,400 |
Synthesis gas 合成ガス |
CH4 | 5 | |
H2 | 73 | ||
CO | 15 | ||
CO2 | 7 | ||
Total | 100 |
まず、水蒸気改質炉に供給される天然ガスとスチーム中の炭素(C)、水素(H2)および酸素(O)の量(モル数)を計算します。ただし、流量の単位は全て kmol/h です。
Stream | 物質 | 流量 | C | H2 | O |
kmol/hr | kmol/hr | kmol/hr | kmol/hr | ||
Natural gas 天然ガス | CH4 | 1,000 | 1,000 | 2,000 | 0 |
Steam スチーム | H2O | 3,400 | 0 | 3,400 | 3,400 |
合計 | CH4+ H2O | 4,400 | 1,000 | 5,400 | 3,400 |
H2およびOの一部は合成ガス中のH2Oに変換されますが、ガスクロ測定ではH2Oは冷却凝縮されて、他のガスと分離されますので濃度が分かりません。そのためにこのままでが合成ガス量が計算できないことになります。
そこで原子バランスの考え方が有効になってくるわけです。つまり、質量保存の法則から水蒸気改質炉に供給される炭素(C)、水素(H2)および酸素(O)の量は水蒸気改質後も変わらないので、炭素(C)に関して次式が成立します。
CO+CO2+CH4 = 1,000kmol/hr
CO =15/27×1,000 = 555.6kmol/hr
CO2 =7/27×1,000 = 259.3kmol/hr
CH4 =5/27×1,000 = 185.1kmol/hr
また合成ガス中の水素(H2)量は、合成ガス組成と供給される炭素(C)量を用いて以下のように計算することが出来ます。
H2 = 73/27×1,000 = 2703.7kmol/hr
Stream | 物質 | 流量 | 組成 | C | H2 | O |
kmol/hr | mol% | kmol/hr | kmol/hr | kmol/hr | ||
Synthesis gas 合成ガス |
CH4 | 185.1 | 5.00 | 185.1 | 370.3 | 0 |
H2 | 2703.7 | 73.00 | 0 | 2703.7 | 0 | |
CO | 555.6 | 15.00 | 555.6 | 0 | 555.6 | |
CO2 | 259.3 | 7.00 | 259.3 | 0 | 518.5 | |
Total | 3703.7 | 100.00 | 1,000 | 3074.1 | 1074.1 |
よって、この合計水素(H2)と水蒸気改質炉に供給される水素(H2)合計量を比較し差を求めると、
⊿H2 = 5,400-3074.1=2325.9kmol/hr
また、合計酸素(O)と水蒸気改質炉に供給される酸素(O)合計量を比較し、差を求めると、
⊿O = 3,400-1074.1=2325.9kmol/hr
この⊿H2と⊿Oが合成ガス中に含まれているH2O、つまりスチーム量に相当します。つまり、合成ガスの組成と流量は以下のようになると考えられます。
Stream | 物質 | 流量 | 組成 | C | H2 | O |
kmol/hr | mol% | kmol/hr | kmol/hr | kmol/hr | ||
Synthesis gas 合成ガス |
CH4 | 185.1 | 5.00 | 185.1 | 370.3 | 0 |
H2 | 2703.7 | 73.00 | 0 | 2703.7 | 0 | |
CO | 555.6 | 15.00 | 555.6 | 0 | 555.6 | |
CO2 | 259.3 | 7.00 | 259.3 | 0 | 518.5 | |
Dry (G) | 3703.7 | 100.0 | 1000.0 | 3074.1 | 1074.1 | |
H2O (S) | 2325.9 | S/G 0.628 |
0 | 2325.9 | 2325.9 | |
Total | 6029.6 | 1000.0 | 5400.0 | 3400.0 |
この例では計算された合成ガス組成がガス分析結果と同じですが、このように合致することは現実的にはまれです。このような場合には分析結果だけでなく、計算結果を参考にして物質収支を求めていくことをお薦めします。ただし、バックチェックのために関連する反応平衡などを考慮することで、さらにより正確となりますが、これについてはまた別の機会にお話します。