この”安全設計とリスク解析”では、プラントの安全設計を行う上で注意すべき事柄やリスクをどのようにして見つけ出して対応するかについて述べていきたいと思っております。

「安全設計」の進め方

安全設計とプロセス設計は非常に密な関係にあります。

プロセス設計品質が悪ければ、スタートアップやシャットダウンはおろか、定常時においても安全な運転を継続することが出来ません。

トラブル続きでおちおち製品の品質確保も疎かになり、稼働率も下がり利益も半減(?)あるいは無くなってしまうかもしれません。また、設計条件を決める際に抜けがあれば、運転条件が設計条件を超えてしまい、これも運転の継続が不可能となってしまいます。

2. ユーティリティー停止と安全設計
2.4 加熱源としての水蒸気改質炉

2.4.1 水蒸気改質炉とプロセススチーム

前回の議論から、スチームドラム中のボイラ水の顕熱で必要なプロセススチーム(約6.4ton)の約1/3を入手出来ること、それでもなお約4tonのスチームが不足することがわかりました。

水素プラントやアンモニアあるいはメタノールプラントなどの水蒸気改質プロセスで使用されるプロセススチームは、天然ガスなどの炭化水素と一緒に水蒸気改質炉で加熱および改質され、水素を多く含む粗ガスに変換されます。そのために、改質炉には改質触媒を充填した多数の改質管が設置され、外部から火炎輻射にて加熱されています。

改質炉を出た含水素粗ガスは廃熱ボイラでスチームを発生させ、さらに下流の複数のプロセスあるいはスチームシステム関連の熱交換器で廃熱回収されていきます。

2.4.2 改質管と改質触媒

この改質管および改質触媒は常時外部から加熱されていますので、見方を変えれば運転を停止した場合には大容量の蓄熱体として見なすことが出来ます。

それではどれくらいの熱量を貯蔵しているでしょうか。具体的に計算してみましょう。まず、改質管の本数や触媒量を設定します。ここでは「プロセス設計の実務:改質管の設計」にて求めた数値を使って計算します。

(1) 改質管

改質管本数は247本(実際の設計では切りの良い数値になる)、サイズは内径4インチ(101.6mm)、長さ10m、肉厚8.5mmで、改質管体積を計算すると約6.7m3で比重を8とすれば重量は約54tonになります。これ以外に入口出口のヘッダーなどもありますが、ここでは考慮しません。

(2) 改質触媒

改質管内部に充填されている触媒量は約20m3で、嵩密度を1.25とすると重量は約25tonnになります。

(3) 改質管と改質触媒の熱容量

改質管と改質触媒の比熱をそれぞれ0.46kJ/kg-℃と0.76kJ/kg-℃とすると、熱量量は以下のようになります。ただし、蓄熱体として熱を発散する範囲を550~750℃にしました。この750℃なる温度は運転中における改質管の長さ方向における平均温度としており、触媒もこの温度と同じに設定しています。550℃は一応の目安であり、この温度まで冷却する間は、改質管にプロセススチームを流しているということにしました。

以上の仮定を元に、熱容量を計算した結果を次表に示します。

表15-1 改質管と改質触媒の熱容量

蓄熱体 重量 比熱 温度 熱容量
改質管 53,610kg 0.46kJ/kg-℃ 550-750℃ 4.932GJ
改質触媒 25,030kg 0.76kJ/kg-℃ 550-750℃ 3.805GJ
合計 78,640kg --- 550-750℃ 8.737GJ


2.4.3 プロセススチーム・ループ

今回想定した運転停止状態におけるプロセススチームの流れを図に示します。

プロセススチーム・ループこの図からわかるように、廃熱ボイラ+スチームドラムから発生したスチームはスチームシステムに入り、プロセススチームとして改質炉に供給されます。供給されたスチームは高温度(550~750℃)の改質管や改質触媒により加熱されて改質炉を出ます。その後、スチームは廃熱ボイラに入り、スチームドラム内のボイラ水を加熱することでスチームを発生させます。

このようにプロセススチームの循環(ループ)が自動的に形成されます。

ただし、次第にスチームドラム内の水面が下がってきますので、ボイラ水が無くなった後に高温のスチームやガス(パージ用のN2)が廃熱ボイラのチューブを通過する場合には、熱応力による歪みなどが問題なる可能性がありますので、スチームドラム内の水保有量は慎重に決めなければなりません。

2.4.4 計算結果と考察

スチームドラムに補充すべき熱量を計算します。

4,306kg×(2776.2-762.6)kJ/kg = 8.671GJ

ここで、2766.2kJ/kgと762.6kJ/kgは1MPaの飽和スチームと飽和水のエンタルピーで、今回紹介しました「蒸気表計算ツール」を使い求めました。

そこで計算結果をもとに考察しますと、

  1. 表15-1の合計の熱容量(8.737GJ)は補充すべき熱量8.671GJを上回っていますので、必要なスチームを改質炉の蓄熱で発生させることが出来る。
  2. 運転停止時にスチームドラムからのスチームをプロセススチームとして利用できるように運転指針を定めるか、インターロックを導入する。
  3. スチームドラム内の水保有量を単に滞留時間何分として決めるのではなく、このような緊急時の運転操作を考慮して決定する。

このように緊急時においても必要なプロセススチームを確保できることがわかりました。

ただし、このような検討を設計時に考慮出来るかどうかは、今まではひとえにプロセスエンジニアの経験と力量に依っていたので設計の取りこぼしの可能性があります。
プロセスエンジニアは”一に何故と疑問に思うこと”、そして”二に本当にこれで良いのかと考えること”、最後に”見方を変えて、あるいは他のプロセスエンジニアのアドバイスをもらうこと”が必要だと思います。