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安全設計とリスク解析

この”安全設計とリスク解析”では、プラントの安全設計を行う上で注意すべき事柄やリスクをどのようにして見つけ出して対応するかについて述べていきたいと思っております。

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「安全設計」の進め方

安全設計とプロセス設計は非常に密な関係にあります。

プロセス設計品質が悪ければ、スタートアップやシャットダウンはおろか、定常時においても安全な運転を継続することが出来ません。

トラブル続きでおちおち製品の品質確保も疎かになり、稼働率も下がり利益も半減(?)あるいは無くなってしまうかもしれません。また、設計条件を決める際に抜けがあれば、運転条件が設計条件を超えてしまい、これも運転の継続が不可能となってしまいます。

1.3.8 蒸留塔凝縮器と最高運転条件

蒸留塔凝縮器として採用している空気冷却器の運転に影響するパラメータに空気温度があります。

空気温度、つまり大気温度はプラントの設計条件の一つです。客先から指定される設計仕様書には、空調用の設計温度や空気冷却器用などの設計温度が規定されますが、これとは別に年平均・季節平均・月平均における最低温度・最高温度・平均温度なども規定されています。

例えば、夏場における平均温度28℃が設計温度として指定され、同じく夏場における最高温度が36℃と規定されている場合に、空気冷却を採用している蒸留塔凝縮器の運転温度はどのようになるでしょうか。もし、夏場における運転温度が設計温度を超える場合には、設計温度を変更しなければなりません。

ここで考えなければならないパラメータとその影響について考えてみましょう。一つは、大気温度が28℃から36℃に上昇することにために上昇する凝縮器のプロセス側温度、もう一つは大陽からの輻射熱によるプロセス側の温度上昇です。

空気温度が上昇した場合には、以下の条件の下ではプロセス側の温度も上昇し、その上昇する温度幅は空気温度上昇幅にほぼ等しくなります。

  1. 流体の主な変化が凝縮で不活性ガスを多く含まない。
  2. 加熱源であるリボイラ熱負荷は空気温度上昇前後で変わらない。
  3. プロセス側負荷(流量)は空気温度上昇前後で変わらない。
  4. 空気温度の上昇による空気流量の変化は無視できる。
  5. プロセス側流体の蒸発潜熱の温度変化は無視できる。


空気温度の上昇が28℃から36℃と8℃ですから、プロセス側温度も76.6℃+8℃の84.6℃となります。
次に大陽からの輻射熱の影響ですが、国内での日射量瞬間値の月別平均値(平成16年版理科年表)では約0.9kW/m2弱ですので、ここでは1kW/m2とします。これより先に進むためには具体的な数字をベース議論しなければなりませんので、蒸留塔凝縮器に関し以下のプロセス条件を設定します。

  1. メタノールプラント生産量:3000ton/day
  2. 蒸留塔凝縮器メタノール蒸気量:350,000kg/hr
  3. 蒸留塔凝縮器熱負荷:373.8GJ/h
  4. プロセス側入口出口温度:76.6℃/76.0℃
  5. 空気側入口出口温度:28℃/45℃
  6. 空気側流量:21,183,000kg/h
  7. 空気予熱器総括伝熱係数:1256kJ/m2hr-K
  8. 伝熱面積:7586m2


ただし、大陽輻射熱の受熱面積は投影面積になりますので、蒸留塔凝縮器伝熱面積(チューブ円周長さ×チューブ長さ×チューブ本数)から、投影面積を単に伝熱面積÷円周率πとして計算します。すると、投影面積は2415m2となり、輻射熱量は、

3600kJ/hr×2415m2=8.69GJ/hr

この熱負荷は蒸留塔凝縮器本体の熱負荷(373.8GJ/h)のおよそ2.3%に相当します。これに蒸留塔本体への輻射熱も考慮して合計5%の輻射による熱負荷を凝縮器熱負荷に上乗せします。

その結果、下表に示すような結果となり、大気温度と輻射熱を考慮した場合のプロセス側温度は約87℃になりました。その結果を受けて蒸留塔周りのメタノール運転における最高温度と最高圧力としてフロー図に加えました。結果的には水運転の条件が最も厳しくなるようなので、これらを設計条件として登録することにします。

以上の内容を、簡単な熱交換器のsimulation tool(Excel)を作りましたので、良ければダウンロードしてみて下さい。

HxSimulation.xlsをダウンロードする



これ以外に蒸留塔の設計条件に影響を与える要因としては、リボイラの熱媒(スチーム)の運転条件の変動があります。ここではこれ以上議論しませんが、スチームの温度圧力が上昇した場合には、当然のことですが熱負荷が増大し、凝縮器のプロセス側温度が上昇します。これについては日を改めて説明すます。

次回は圧縮機周りの設計条件について説明する予定です。

<続く>

表1.3-7 蒸留塔凝縮器運転条件(定常時)

パラメータ 単位 空気 メタノール
G 流量 kg/h 21,600,000 350,000
Cp@Tin 比熱 kJ/kg-K 1.013 ----
Cp@Tout 比熱 kJ/kg-K 1.014 ----
Latent heat 潜熱 kJ/kg ---- 1,068
Tin 入口温度 deg.C 28.0 76.6
Tin 出口温度 deg.C 45.0 76.0
Qtotal GJ/h 373.80 373.80


表1.3-8 蒸留塔凝縮器運転条件と大気温度+輻射熱

パラメータ 単位 空気 メタノール
G 流量 kg/h 21,099,000 358,000
Cp@Tin 比熱 kJ/kg-K 1.014 ----
Cp@Tout 比熱 kJ/kg-K 1.014 ----
Latent heat 潜熱 kJ/kg ---- 1,044
Tin 入口温度 deg.C 36.0 87.3
Tin 出口温度 deg.C 54.3 86.7
Qtotal GJ/h 392.52 393.52

第1章 プロセス設計と安全設計
1.1 設計条件と安全設計
1.1.1 安全設計とは
1.1.2 設計条件の決め方
1.2 設計条件と運転モード
1.2.1 運転条件と運転状態
1.2.2 運転モードと運転時間
1.2.3 設計条件と運転時間
1.3 蒸留系運転と設計条件
1.3.1 蒸留系説明
1.3.2 運転条件の設定
1.3.3 設計条件の選定
1.3.4 設計条件と水運転
1.3.5 物性の違いと設計条件
1.3.6 安全弁の吹き出し温度
1.3.7 還流ポンプの設計圧力
1.3.8 蒸留塔凝縮器と最高運転条件
1.4 圧縮機周りの設計条件
1.4.1 圧縮機と運転条件
1.4.2 圧縮機停止における運転状況
1.4.3 プロセス制御システム
1.4.4 放出弁と圧力推移
1.4.5 圧力推移シミュレーション①
1.4.6 圧力推移シミュレーション②
第2章 ユーティリティー停止と安全設計
2.1 スチーム停止とスチームシステムの安全性
2.1.1 スチームシステム
2.1.2 スチーム停止による影響
2.2 スチーム停止とプロセススチーム
2.2.1 プロセススチーム
2.2.2 プロセススチームの確保
2.3 スチームソースと加熱源
2.3.1 スチームドラム
2.3.2 スチームドラムの保有熱量
2.4 加熱源としての水蒸気改質炉
2.4.1 水蒸気改質炉とプロセススチーム
2.4.2 改質管と改質触媒
2.4.3 プロセススチーム・ループ
2.4.4 計算結果と考察
第3章 停電と安全設計
3.1 停電とプラント
3.1.1 停電と電力供給
3.1.2 化学プラントにおける電力供給安定化
3.1.3 ディーゼルエンジン発電機の起動
3.2 緊急用発電装置停止
3.2.1 緊急用発電装置と連結機器
3.2.2 緊急用発電装置停止による影響

熱交換器のsimulation

プロセス設計の中で熱交換器のsimulationを多く必要とします。
例えば、運転モード(負荷)の変更や流体流量の変化による温度変化、あるいは汚れが進展した場面の温度変化などが具体例としてあげることが出来ます。
その際に簡単なsimulation toolを作っておくことをお奨めします。
基本的な考え方について熱交換器設計ハンドブックで詳細に紹介されていますので、そちらを参照して下さい。

熱交換器設計ハンドブック 増訂版

ここでは総括伝熱係数が変わらない簡単な熱交換器のsimulation tool(Excel)を紹介します。例題は右欄の§1.4.8で説明した蒸留塔凝縮器を扱っています。

HxSimulation.xlsをダウンロードする