この”安全設計とリスク解析”では、プラントの安全設計を行う上で注意すべき事柄やリスクをどのようにして見つけ出して対応するかについて述べていきたいと思っております。

「安全設計」の進め方

安全設計とプロセス設計は非常に密な関係にあります。

プロセス設計品質が悪ければ、スタートアップやシャットダウンはおろか、定常時においても安全な運転を継続することが出来ません。

トラブル続きでおちおち製品の品質確保も疎かになり、稼働率も下がり利益も半減(?)あるいは無くなってしまうかもしれません。また、設計条件を決める際に抜けがあれば、運転条件が設計条件を超えてしまい、これも運転の継続が不可能となってしまいます。

2. ユーティリティー停止と安全設計
2.2 スチーム停止とプロセススチーム

2.2.1 プロセススチーム

前回は「プロセススチームの停止がプラントにダメージを与える場合はどう対処すれば良いでしょうか?」で終わりましたので、今回はこのプロセススチームの停止による影響についてお話しします。

(1) プロセススチームとは

プロセススチームとは、そのプロセスでユーティリティーとして使用されているのではなく、プロセスを構成する原料あるいはそれと同等に使用されるスチームで、例えば水蒸気改質プロセスで使用される”改質スチーム(reforming steam)”やエチレンプロセスで使用されている”希釈用スチーム(dilution steam)”などがこれに相当します。

(2) プロセススチーム停止の影響

このプロセススチームの供給が停止あるいは制限された場合には、水蒸気改質プロセスやエチレンプロセスの原料である炭化水素が熱分解を起こし、改質触媒上あるいは分解チューブ内面に炭素が析出します。
そのために触媒の性能が低下したり、チューブ内圧損が増加して運転の継続が困難となります。そのためにスチーム停止におけるプロセススチーム確保は最重要課題となります。

2.2.2 プロセススチームの確保

プロセススチームの確保するために何をしたら良いでしょうか?
アキュムレータのような容器をスチームシステムに設置して、いざというときにスチームを確保しましょうか、それともスチーム配管(ヘッダー)の径を太くしてスチームの貯蔵量を増やしましょうか?それとも他のプラントのスチームシステムからスチームを供給できるようにしましょうか?

(1) スチーム貯蔵容量

アキュムレータや配管(ヘッダー)、あるいは電気ボイラによる緊急時のスチーム供給を検討する場合、どの程度のスチームが必要かを算出します。
スチームバランスに示したプロセススチームの流量は38,000kg/hです。この量を緊急時において最低10分間供給しなければならないとします。つまり、必要なスチーム量は、

必要スチーム量 = 38,000kg/h*10min/60min = 6,333kg

このスチームの温度圧力を330℃、3.0MPaとしますと、比容積は0.0869m3/kgですので、その体積は以下のようになります。

スチーム容積 = 6,333kg*0.0869m3/kg = 550m3

(2) アキュムレータや配管(ヘッダー)の大きさ

先ほど求めた体積をアキュムレータや配管(ヘッダー)の容積とします。ただし、プロセススチームの必要圧力を1MPaとしますと、有効に利用できる容積は3MPa→1MPa、つまり2MPa分となりますから、その分アキュムレータや配管の持つべき容積が1.5倍に増加します。つまり、アキュムレータの大きさは以下のように内径7m、長さ21mと巨大な構造物になります。ここでアキュムレータの長さを内径の3倍としています。

容積 = 550m3*1.5 = 825m3
内径 = (825*4/(3*π))^0.333 = 7.03m
長さ = 7.03*3 = 21.2m

配管(ヘッダー)の場合には、基準となるヘッダーの長さと内径(d)を幾らにするかを決めておく必要があります。さきほどのスチームバランスでわかりますように、プロセススチームを供給しているヘッダーの合計スチーム量は58,000kg/hですから、一般的なヘッダーの流速(vel)は20~25m/sですので、

スチーム流量 = π/4*d^2*vel*3600 = 58,000*0.0869
ヘッダー内径(d) = 0.267~0.300m

つまり、ヘッダー内径は約300mm(12")となります。
そこで、アキュムレータの役割を果たすヘッダーの長さを100mとしますと、次式のようにヘッダー内径は3mを超えてしまい、先ほどの300mmの10倍の太さになってしまいました。

ヘッダー内径 = (825*4/(100*π))^0.5 = 3.24m

いずれにせよ、このようなアキュムレータや配管を設置するのはスペースの問題もあり経済的ではありません。端的に言うならば”見栄えが良くない”のです。

”見栄えが良くない”、あるいは”美しくない”と表現できる装置や機器は何らかの設計上のリスクを含んでいるというのが私の持論です。

(3) 外部からのスチーム供給

一般的な石油精製や石油化学プラントではスチームを各プラント間で融通していますので、一つのプラントでスチームが停止しても緊急時対応は可能です。しかし、化学系プラント(アンモニアやメタノール)では原料供給やダウンストリームプロセスの制約から多くのプラントが独立していることが多く、他プラントからのバックアップを期待することは出来ないのが通例です。
また、スチームシステムとは常時は独立している電気ボイラなどがあれば、そこからスチームを供給出来るので問題ないことになりますが、スチーム停止の原因が停電の場合にはこれも期待できません。

以上のようにプロセススチームをどのようなケースでも確保することは技術的にそして経済的に難しいと言うことがお分かりになるでしょう。ではどうすればよいのでしょうか?そのヒントはスチームシステム自身の中にあります。
次回はこの秘密のスチームソースについて説明したいと考えています。

ランキンサイクルとスチームタービン

ランキンサイクル(Rankine cycle)はボイラやスチームタービンの熱効率を議論するための基準サイクルです。このサイクルは五つの過程から成立しています。

  1. ボイラでの等圧(等温)受熱による蒸発過程
  2. 過熱器における等圧受熱によるスチーム過熱工程
  3. スチームタービンにおける断熱膨張による動力工程
  4. 復水器にての等圧(等温)冷却凝縮による復水工程
  5. 給水ポンプを使用した断熱圧縮による復水の昇圧工程

このサイクルはいわゆる非可逆的工程で、その効率はカルノーサイクルに劣ります。それではこのランキンサイクルの熱効率はどのような数値になるのでしょうか?
大まかに言えば、規模にもよりますが20~40%、大型発電所では30~38%の間と見て良いでしょう。