この”安全設計とリスク解析”では、プラントの安全設計を行う上で注意すべき事柄やリスクをどのようにして見つけ出して対応するかについて述べていきたいと思っております。

「安全設計」の進め方

安全設計とプロセス設計は非常に密な関係にあります。

プロセス設計品質が悪ければ、スタートアップやシャットダウンはおろか、定常時においても安全な運転を継続することが出来ません。

トラブル続きでおちおち製品の品質確保も疎かになり、稼働率も下がり利益も半減(?)あるいは無くなってしまうかもしれません。また、設計条件を決める際に抜けがあれば、運転条件が設計条件を超えてしまい、これも運転の継続が不可能となってしまいます。

1.3 蒸留系運転と設計条件

1.3.5 物性の違いと設計条件

水運転と定常運転での相違点は扱う流体が変わるだけで、使用する機器や配管は全て同一です。そこで流体の性状の違いが機器に及ぼす影響を考慮する必要があります。性状の違いで注意すべき物性は以下の三つです。

  1. 比重
  2. 蒸気圧
  3. 蒸発潜熱

それぞれの変化による影響内容は、以下の通りです。

  1. 比重の変化は圧力バランスやポンプの運転圧力に影響する。
  2. 蒸気圧の変化は運転温度に影響する。
  3. 蒸発潜熱の変化は、蒸発量に影響する。

圧力損失は比重に比例しますので、比重の変化は圧力損失の計算に影響します。また、ポンプの設計は定常運転をもとに行われますので、設計流量や揚程(ヘッド)はメタノール運転をベースに決定されます。ポンプの吐出圧力は揚程(ヘッド)に比重を掛けて求めますので、比重の変化が吐出圧力の変化となります。

蒸留塔のように運転温度が運転圧力下での飽和温度になる場合には、扱う流体の違いによる蒸気圧の変化はそのまま運転温度の変化に結びつきます。

リボイラや凝縮器(コンデンサ)での熱負荷は、蒸発量や凝縮量に蒸発潜熱を掛けたものですから、リボイラのように外部からの熱量が余り変化しない場合には、蒸発潜熱の変化はそのまま蒸発量に影響します。

1.3.6 安全弁の吹き出し温度

通常、蒸留塔トップに安全弁を設置します。その設置箇所は蒸留塔トップと凝縮器の間で、この例では安全弁の吹き出し圧力は設計圧力と同じく0.26MPa(abs)となります。

もし水運転中に安全弁が吹くような事態が生じたとしますと、水とメタノールの蒸気圧の違いにより、蒸留塔トップと還流ドラムの温度は安全弁吹き出し圧力下での水の飽和温度に到達する可能性があります。蒸留塔ボトムには定常時のメタノール運転でも水が滞留していますので、運転温度は設計温度の135.8℃と同じになります。つまり、

  1. 蒸留塔トップの水運転+安全弁吹き出し時温度は、圧力0.26MPaでの水の飽和温度128.8℃に到達します。
  2. 還流ドラムの水運転+安全弁吹き出し時温度は、圧力0.24MPaでの水の飽和温度126.2℃に到達します。

この安全弁が吹く条件を以前RVとしましたが、定常運転(メタノール)時の安全弁吹き出し状態(RV-1)と区別するように水運転時の安全弁吹き出し状態をRV-2とします。

1.3.7 還流ポンプの設計圧力

次に還流ポンプ吐出の水運転における圧力の変化を考えてみましょう。その前に、還流ポンプ周りの圧力条件をお復習いしてみます。前回、詳細に説明しておりませんでしたが、還流ポンプ吐出ラインの設計圧力は以下のように計算して決めています。

  1. 定常時の吸込圧力は0.14MPa(abs)
  2. 定常時の吐出圧力は0.45MPa(abs)
  3. 定常時の揚程(ヘッド)は、吐出圧力-吸込圧力=0.45-0.14=0.31MPa相当。
  4. ポンプ締切時の揚程は定常時の揚程(ヘッド)の20%増とし、0.31MPa×1.2=0.372MPaとなります。
  5. 設計時の吐出圧力は吸込圧力+ポンプ締切時の揚程とした。つまり、0.14MPa+0.372MPa=0.512MPaで、0.05で切り上げて0.55MPa(abs)としました。メタノールの比重は運転温度73℃において0.740ですから、揚程(ヘッド)は (0.55-0.14)×1000kPa/MPa×(10m/98.0665kPa×0.740)=56.5m となります。

この手順の中で、水運転を考慮すると変わってくるのが(a)の吸込圧力と(d)のポンプ締切時の圧力となる。つまり、

  1. 吸込圧力は還流ドラムの安全弁吹き出し時圧力0.24MPa(abs)となります。
  2. ポンプ締切時の揚程は56.5mですから、水運転時温度126.2℃での比重を0.973とすると、圧力上昇は56.5m/10m×0.973×98.0665/1000=0.539MPaとなります。

結局、水運転+安全弁吹き出し時の還流ポンプの運転圧力は、

  • 0.240MPa+0.539MPa=0.779MPa

となります。
この運転条件も含めてRV-2とし、その時の温度圧力条件と前回設定したメタノール運転条件と設計条件を比較しフロー図に示しました。この結果から、蒸留塔トップと還流ドラムの設計温度、そして還流ポンプ吐出ラインの設計温度と設計圧力を変更する必要が出てきました。

これ以外に蒸留塔の設計条件に影響を与える要因はないでしょうか?

<続く>

表1-1 蒸留トップの水運転と設計条件

条件 定常運転(NO) 設計条件(Des) 水運転(RV-2)
圧力P MPa(abs) 0.160 0.260 0.260
温度T ℃ 76.6 90.6 128.8

表1-2 還流ドラムの水運転と設計条件

条件 定常運転(NO) 設計条件(Des) 水運転(RV-2)
圧力P MPa(abs) 0.160 0.240 0.240
温度T ℃ 73.0 88.2 126.2

表1-3 還流ポンプ吐出ラインの水運転と設計条件

条件 定常運転(NO) 設計条件(Des) 水運転(RV-2)
圧力P MPa(abs) 0.450 0.550 0.779
温度T ℃ 73.0 88.2 126.2

蒸留塔周りの水運転

ポンプの締切圧

遠心式ポンプの吐出弁を閉めきった時の圧力で、ポンプの羽根がもたらす速度エネルギが圧力エネルギに全て変換されることで圧力が上昇する。一般には、定常時の揚程の20%増しを締切時の揚程とすることが多い。
ただし、増加分はポンプにより異なるので、最終的には性能曲線を考慮して設計条件などを決める必要がある。