1.2 物質収支
1.2.4 制御システムと化学反応を伴う物質収支
化学反応を伴う系における制御システムについて考えてみましょう。
制御システムの目的は、対象となる系の運転を安定でかつ適切に保つことにより、設定された原料から設定された製品を生産することを目的としています。
この制御システムを構築するためには化学反応に関与する項目を全て洗い出し、その中から影響が大と思われる項目をピックアップします。具体的には化学反応式に関与するパラメータ、つまり、反応式を構成する反応物(原料)と生成物(製品)が対象になります。これ以外に基本的なパラメータ、つまり、圧力と温度を加えます。また、化学反応中に熱を加えたり逆に熱を奪って反応温度を一定にする必要がありますので、エネルギーも対象項目になります。
具体的に今まで例題として扱ってきた”人工光合成(光合成の森にアクセスします)”を対象に考えます。下記に示す化学反応式から項目を洗い出してみましょう。なお、化学反応式では反応物である二酸化炭素と水からグルコース(ブドウ糖)と水、それに酸素が生成され、その反応を継続させるために光エネルギーを付加しています。
6CO2+12H2O+光エネルギー→C6H12O6+6H2O+6O2
大項目 | 項目 | 制御変数 | 操作変数 |
反応物と生成物 | 二酸化炭素 CO2 | 流量 | 流量 |
水 H2O | 流量 | 流量 | |
酸素 O2 | 流量 | ||
グルコース+水 | 流量 | 反応器液面高さ | |
温度 | 温度 | 反応器温度 |
スチーム流量 |
圧力 | 圧力 | 反応器圧力 |
酸素流量 |
エネルギー | 光 | 光度 |
光度 |
注意すべき点としては、
- 生成物である酸素の流量は制御変数の一つですが、システムの自由度を考慮して制御対象の一つとはしませんので操作変数はブランクとしました。
- 光の強さ(光度)を変えることで化学反応の進行が変化し、そのために温度変化(エネルギーは最終的には熱に変わる)を伴いますが、表にはそこまで考慮していません。
最終的に下図のような制御システムを構築致しました。このシステムの特徴を以下に示します。
- 原料である二酸化炭素と水はそれぞれの流量を検知して制御します。
- 常時、反応器圧力を700kPa(約7気圧)に保つように、生成した酸素流量を制御弁で操作しながら制御します。
- 反応器内温をグルコースの”溶解温度+余裕”(約160℃に設定)になるように、反応器ジャケットに供給するスチームの流量で制御します。
- 反応器の液面高さを検知して一定にすることで、生成物であるグルコース+水の流量がコンスタントになるように制御します。
最後の反応器の液面制御は、「入ってくる水と出て行くグルコース+水の流量差が一定であれば反応器内の液面は一定の高さになる」ことを利用しています。また、反応器圧力を検知して酸素流量を制御していますが、これも入ってくる二酸化炭素と生成する酸素の量比が一定になるようにしています。
両者とも原料である水と二酸化炭素の供給量の変動を見越して、最終的に流量差や量比を一定にするように制御しています。
さらに精度良く制御したいのであれば、二酸化炭素と水のモル比率を検知して、それが一定になるように制御することも可能です。
このように制御システムは、反応の物質収支および熱収支がずれないようにするのが目的です。
- 序章 化学工学とは何か
- 化学工学の特徴
- 化学工学と化学工業(その発展と今後)
- 化学工学と化学プロセス
- 化学工学と化学プロセス(原料と製品)
- 化学工学とプラント設計(化学プラントと機械プラント)
- 化学工学とプラント設計(化学工学の内容)
- 第1章 化学工学入門
- 1.1 化学工学の基本コンセプト
- 1.2 物質収支(液体)
- 1.2.1 物質収支(液体)続き
- 1.2.2 物質収支(気体)
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支(続き)
- 1.2.4 制御システムと化学反応を伴う物質収支
- 1.3 熱収支とエネルギー収支
- 1.3.1 単位操作と運転条件
- 1.3.2 熱収支とエネルギー収支の計算
- 1.4 流動
- 1.4.1 流動と拡散