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化学工学はプロセス設計の基本となる工学で、原料から製品を作るためのものの流れ(狭義のプロセス)を具象化するために考えられた工学です。

化学工学を確立することで、以下の作業が可能となりました。

  1. 原料から製品を作るための手順(工程)を策定する。
  2. 工程に必要な機能を明らかにする。
  3. 機能を有する装置や機器を開発あるいは選択する。

工業的に生産されている化学物質は約10万種類あり、それぞれの生産プロセスに必要な装置や機器を1から設計することは限られた時間と経済的な面からあり得ないことです。

そこで化学プラントに共通する機能を抽出し、機能に係わる基礎理論と対応する装置の設計手法を決めました。それが化学工学の基本科目と応用科目です。

基本科目では化学や物理化学などの基本理論や現象を学習し、応用科目では化学機械の設計方法やプラント建設に係わる経済性評価を学習します。

化学工学の基礎と応用化学工学の基礎と応用
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化学工学とは何か

1.3 熱収支とエネルギー収支
1.3.1 単位操作と運転条件

化学プロセスは物質の”変換と分離”を組み合わせながら、”熱の伝達と流体輸送”にて結合したシステムと言って良いでしょう。
この”物質の変換”には下図に示すように合成や分解という操作があり、それらを総称して反応と称しています。
また、”物質の分離”には蒸留、抽出吸着膜分離などの操作が含まれており、さきほどの反応も含め単位操作と称しています。また、熱の伝達には放射・対流・伝導の三つの形態があり、これらを総称して伝熱と言っており、これも単位操作の一つです。

これら単位操作は”化学プロセスを構成する処置や操作を整理分類し、共通と見られる機能を一まとめにしたもの”で、化学プロセスの設計は単位操作をどのように組み合わせるかという作業に集約することが出来るので、より考えやすく、間違いが少なくなるようになっています。
化学プロセスを構成する単位操作の運転条件、つまり、運転温度や運転圧力は同じではなく、各単位操作の最適な条件に設定されています。そのために流体を加熱したり冷却したり、あるいは圧縮して圧力を高くしたり、逆に膨張させて真空にしたりしますが、その際にエネルギーの移動を伴います。

熱収支とエネルギー収支の目的は対象となる化学プロセスに必要な燃料や電力、あるいは冷却水の量を求めることです。そのためには加熱・冷却・圧縮・膨張などの操作を通じて必要となる熱量を計算し、燃料や電力量に換算していきます。熱収支の計算では加熱や冷却などの熱量のみ計算しますが、エネルギー収支では圧縮や膨張における動力の計算を含んでいます。

1.3.2 熱収支とエネルギー収支の計算

例題として§1.2の物質収支で使いました光合成を取り上げて、光合成反応に必要なエネルギー量を計算してみましょう。エネルギー収支を計算するために、前もって決めなければならない項目は以下の通りです。ただし、反応式は、

6CO2+12H2O=C6H12O6+6H2O+6O2+Q

各物質の量はkmol/hrとします。

  1. 反応条件の設定:ここでは§1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支で設定した運転温度160℃、運転圧力700kPa(abs)とします。
  2. 反応物の供給条件:二酸化炭素は常温(例えば20℃)+700kPaの気体で供給される。水は160℃+700kPaの液体で供給される。
  3. 生成物の払出条件:グルコースと水は160℃+700kPaの液体で払出される。また、酸素は160℃+700kPaの気体で払出される。
  4. 基準温度の設定:熱量、すなわちエンタルピーを計算する上で、規準となる温度を決めておきます。ここでは0℃を基準温度とします。


この4つめの基準温度はエンタルピー計算のベース温度になりますので、反応物と生成物の基準状態(相、phase)、つまり気体なのか液体なのかを決めておきます。なぜ、決める必要があるか? エネルギー収支計算では液体が気体に変化する際には潜熱を、固体が液体になるには融解熱を考慮しなければならないからです。

二酸化炭素の熱量計算

基準温度0℃では気体であり、供給温度も20℃ですので、熱量計算では顕熱のみ考慮します。結果だけ示しますと、
h = 758.8kJ/kmol
q = 758.8kJ/kmol*6kmol/hr = 4552.8kJ/hr

供給水の熱量計算

基準温度0℃では液体であり、供給条件は160℃+700kPaの液体ですので、蒸気表から、
h = 2749.9kJ/kg
q = 2749.9kJ/kg*12kmol/hr*18.016kg/kJ = 594,506kJ/hr

払出水の熱量計算

基準温度0℃では液体であり、供給条件は160℃+700kPaの液体ですので、供給水と同じですので、
h = 2749.9kJ/kg
q = 2749.9kJ/kg*6kmol/hr*18.016kg/kJ = 297,253kJ/hr

酸素の熱量計算

基準温度0℃では気体であり、払出温度は160℃ですので、熱量計算では顕熱のみ考慮します。結果だけ示しますと、
h = 4776.8kJ/kmol
q = 4776.8kJ/kmol*6kmol/hr = 28,661kJ/hr

グルコースの熱量計算

グルコースの基準温度における状態は固体で払出時では液体ですので、熱量として計算すべき項目は、

  1. 0℃の固体から141℃(溶融温度)までの顕熱で、比熱は218.8J/mol-K(273-368K)
  2. 141℃での融解熱。31.42kJ/mol @ 414K
  3. 燃焼熱。2850.0kJ/mol


燃焼熱は反応熱を計算するために使用します。正確には生成熱を使用しますが、便宜的に燃焼熱を用いて反応熱を計算することが出来ます。
q1(固体顕熱)=218.8J/mol-K*(160-0)*1kmol/hr = 35,008kJ/hr
q2(融解熱) = 31.42kJ/mol*1kmol/hr = 31,420kJ/hr
q3(燃焼熱) = 2850.0kJ/mol*1kmol/hr = 2,850,000kJ/hr
q = q1+q2+q3 = 35,008+31,420+2,850,000 = 2,916,428kJ/hr

必要熱量の計算

反応熱の熱量と生成物の熱量の差が反応に必要な熱量に相当しますので、
Q1(反応物熱量)= 4552.8+594,506 = 599,059kJ/hr
Q2(生成物熱量)= 297,253+28,661+2,916,428 = 3,142,342kJ/hr
Q = Q2-Q1 = 3,142,342-599,059 = 2,543,283kJ/hr = 706.0kW
この熱量はグルコースを時間当たり1kmol、つまり約180kg製造するのに必要な量で、上図の中の光エネルギーと加熱用水蒸気の二つを足した熱量に相当します。

なお、園池広毅氏著「光合成とは何か」の”光合成の効率と速度”に記載されている以下の数値は、先ほどの燃焼熱に相当します。

1モルの二酸化炭素を糖に固定するのに必要なエネルギーは475kJです

単位エネルギー量=475kJ/mol-CO2
エネルギー量 = 475kJ/mol-CO2*6kmol/hr = 2,850,000kJ/hr

次回に続く・・・。

単位操作

化学工学で定義されている単位操作は大きく四つに分類できる。
まず、熱伝達と流体輸送、つまり移動現象に関わる単位操作で、流動、混合や伝熱、それと加熱炉を一つの単位操作として考える場合もある。
二番目は分離に関する単位操作で、蒸発、晶析、吸収、蒸留、抽出、沈降、膜分離、吸着、イオン交換、圧搾などで、蒸留、吸収および吸着と膜分離が多くのプロセスで採用されている。
三番目が変換で、反応あるいは撹拌(反応)を含む。
最後が調湿、乾燥、集塵で空調関係に多い。

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