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化学工学はプロセス設計の基本となる工学で、原料から製品を作るためのものの流れ(狭義のプロセス)を具象化するために考えられた工学です。

化学工学を確立することで、以下の作業が可能となりました。

  1. 原料から製品を作るための手順(工程)を策定する。
  2. 工程に必要な機能を明らかにする。
  3. 機能を有する装置や機器を開発あるいは選択する。

工業的に生産されている化学物質は約10万種類あり、それぞれの生産プロセスに必要な装置や機器を1から設計することは限られた時間と経済的な面からあり得ないことです。

そこで化学プラントに共通する機能を抽出し、機能に係わる基礎理論と対応する装置の設計手法を決めました。それが化学工学の基本科目と応用科目です。

基本科目では化学や物理化学などの基本理論や現象を学習し、応用科目では化学機械の設計方法やプラント建設に係わる経済性評価を学習します。

化学工学の基礎と応用化学工学の基礎と応用
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1.2 物質収支
1.2.2 物質収支(気体)

前回までの物質収支は流体が液体の場合について説明いたしました。そこで今回は気体を扱うシステムについて考えてみましょう。
気体の場合の物質収支も液体と同じように考えることが出来ます。ただし、図1-3に示すようにシステム内にドラムが設置されており、流入する流体が気体でドラム内で何らの相変化もしない場合には、流入Faと流出Fbの差は結果的には圧力差として現れます。このFaとFbの単位Nm3/hは、標準状態、つまり、大気圧(101.3kPa)で温度が0℃に換算した時の流量であり、ある圧力(Pa)ある温度(Ta)における流量(実流量)とは異なっています。この標準状態での流量(Fs)と実流量(Fa)との関係は次式となります。

相変化とは気体から液体へ、あるいは逆に液体から気体への変化のこと

Fa = Fs×101.3/Pa×(Ta+273.15)/273.15

図1-3
このシステムにおける物質収支を考えてみましょう。ここでもある限られた時間内での量の出入りを考えてみます。つまり、流入量Qaと流出量Qbと、ドラム容積Qdとその変化量ΔQdを考慮しますと次式が成立します。

Qa = ΔQd + Qb
Qa - Qb = ΔQd

なお、このシステムでは流入するFaと流出するFbは同じ組成を有した気体としています。つまり、相変化も化学変化もないとしています。
ここでΔQdはQa>Qbであれば正、Qa<Qbであれば負の値となります。つまり、Qa = QbにするためにはΔQdが”0”にならなければなりません。それはドラムにおける圧力の増減がないことを意味しています。このシステム容量はドラム容量+入口配管容量+出口配管容量で、配管容量がドラム容量に比べ無視できるほど小さいとしますと、システム容量=ドラム容量と考えることが出来ます。次に具体的な数値を与えて圧力の変化を考えてみましょう。

システムのパラメーターを以下のように設定します。

  1. 流入流量Fa:3,000Nm3/h→4,000Nm3/hに増加
  2. 流出流量Fb:3,000Nm3/hドラム容量:10m3
  3. 流入気体条件:温度60℃、圧力810.4kPa(8気圧)

まず定常時におけるドラム容量を標準状態で計算してみます。すると、65.6Nm3の気体が貯蔵されていることがわかりました。

Qd = 10m3×810.4/101.3×273.15/(273.15+60) = 65.6Nm3

次に、流入する気体流量Faが3,000Nm3/hから4,000Nm3/hに急に増加したとします。しかし流出する流量Fbの変化はないとします。すると時間当たり1,000Nm3(=4,000Nm3/h-3,000Nm3/h)がシステム内に貯えられたことになります。ここでこの流量の変動がシステム圧力に及ぼす影響を、時間を切って見ていきましょう。例えば、1分後と2分後におけるドラムに貯えられる量Qd(1min)とQd(2min)は、

Qd(1min) = 65.6Nm3+1,000Nm3*1min/60min = 82.3Nm3
Qd(2min) = 65.6Nm3+1,000Nm3*2min/60min = 98.9Nm3

となります。
ドラム内容量10m3は変わりませんから、時間の経過に伴うドラム内に貯蔵される気体の量は次式のようになります。

Qd(1min) = 10m3×Pd(1min)/101.3×273.15/(273.15+60) = 82.3Nm3
Qd(2min) = 10m3×Pd(2min)/101.3×273.15/(273.15+60) = 98.9Nm3

また、この式から圧力、つまり、Pd(1min)とPd(2min)を逆算しますと、1分後には1016.8kPa、2分後には1221.9kPaとなり、その圧力の変化は図1-4になります。ただし、流入する気体圧力の最高値により制限を受ける場合、あるいは安全弁が設置されているなどの保安装置が設置されている場合には単純に増加することはありません。
図1-5

断熱圧縮による気体の温度上昇と設計温度

気体を断熱圧縮すると温度が上昇することは良く知られている。その温度上昇幅は下記に示すように圧縮比と比熱比から計算できます。例えば、圧縮比が1.1で空気の場合、温度上昇比率は1.028となります。ただし、空気の比熱比を1.40としています。

T2/T1 = (P2/P1)^[(k-1)/k]
T2/T1 = 1.1^[(1.40-1)/1.4] = 1.028

上記の式は理想気体の場合で、比熱が温度により変化する実在気体では温度上昇比率が若干異なってきます。ただし、温度変化が大きくない場合にはこの式が成り立つとすると、最初の温度が30℃とすれば、圧縮後の温度は次式より、

T2 = T1× 1.1^[(1.40-1)/1.4] = (273.15+30)×1.028 = 311.6deg.K = 38.5℃

となり、約10℃温度が上昇します。

この断熱圧縮による温度上昇は設計温度を決定する一つの尺度になります。
あるプロセスシステムの設計温度を決める際に、運転温度に+何℃として簡便的に決めることが多々あります。この何℃は運転温度範囲により10℃であったり、20℃であったりします。この理由として上記の断熱圧縮による温度上昇があります。
つまり、連続的に流れている気体が何らかの理由により行き止まりになり、その間も上流から気体が流入しますと圧力が急激に上昇します。もし、安全弁が設置されており、その吹き出し圧力が運転圧力の10%アップであれば、システム内の気体は圧縮比1.1で断熱圧縮状態となります。すると先ほどの計算により温度(絶対温度)が約3%弱アップします。
先ほどの例では運転温度30℃では温度上昇は8.5℃になり、同様に100℃および200℃では温度上昇は10.0℃と13.2℃になります。この関係を使うと設計温度を便宜的に決めることが出来ます。詳細はトップページ(ホーム)右側中央の「設計条件決定(簡便法)」をご覧下さい。