1.2 物質収支
1.2.2 物質収支(気体)
前回までの物質収支は流体が液体の場合について説明いたしました。そこで今回は気体を扱うシステムについて考えてみましょう。
気体の場合の物質収支も液体と同じように考えることが出来ます。ただし、図1-3に示すようにシステム内にドラムが設置されており、流入する流体が気体でドラム内で何らの相変化もしない場合には、流入Faと流出Fbの差は結果的には圧力差として現れます。このFaとFbの単位Nm3/hは、標準状態、つまり、大気圧(101.3kPa)で温度が0℃に換算した時の流量であり、ある圧力(Pa)ある温度(Ta)における流量(実流量)とは異なっています。この標準状態での流量(Fs)と実流量(Fa)との関係は次式となります。
相変化とは気体から液体へ、あるいは逆に液体から気体への変化のこと
Fa = Fs×101.3/Pa×(Ta+273.15)/273.15
図1-3
このシステムにおける物質収支を考えてみましょう。ここでもある限られた時間内での量の出入りを考えてみます。つまり、流入量Qaと流出量Qbと、ドラム容積Qdとその変化量ΔQdを考慮しますと次式が成立します。
Qa = ΔQd + Qb
Qa - Qb = ΔQd
なお、このシステムでは流入するFaと流出するFbは同じ組成を有した気体としています。つまり、相変化も化学変化もないとしています。
ここでΔQdはQa>Qbであれば正、Qa<Qbであれば負の値となります。つまり、Qa = QbにするためにはΔQdが”0”にならなければなりません。それはドラムにおける圧力の増減がないことを意味しています。このシステム容量はドラム容量+入口配管容量+出口配管容量で、配管容量がドラム容量に比べ無視できるほど小さいとしますと、システム容量=ドラム容量と考えることが出来ます。次に具体的な数値を与えて圧力の変化を考えてみましょう。
システムのパラメーターを以下のように設定します。
- 流入流量Fa:3,000Nm3/h→4,000Nm3/hに増加
- 流出流量Fb:3,000Nm3/hドラム容量:10m3
- 流入気体条件:温度60℃、圧力810.4kPa(8気圧)
まず定常時におけるドラム容量を標準状態で計算してみます。すると、65.6Nm3の気体が貯蔵されていることがわかりました。
Qd = 10m3×810.4/101.3×273.15/(273.15+60) = 65.6Nm3
次に、流入する気体流量Faが3,000Nm3/hから4,000Nm3/hに急に増加したとします。しかし流出する流量Fbの変化はないとします。すると時間当たり1,000Nm3(=4,000Nm3/h-3,000Nm3/h)がシステム内に貯えられたことになります。ここでこの流量の変動がシステム圧力に及ぼす影響を、時間を切って見ていきましょう。例えば、1分後と2分後におけるドラムに貯えられる量Qd(1min)とQd(2min)は、
Qd(1min) = 65.6Nm3+1,000Nm3*1min/60min = 82.3Nm3
Qd(2min) = 65.6Nm3+1,000Nm3*2min/60min = 98.9Nm3
となります。
ドラム内容量10m3は変わりませんから、時間の経過に伴うドラム内に貯蔵される気体の量は次式のようになります。
Qd(1min) = 10m3×Pd(1min)/101.3×273.15/(273.15+60) = 82.3Nm3
Qd(2min) = 10m3×Pd(2min)/101.3×273.15/(273.15+60) = 98.9Nm3
また、この式から圧力、つまり、Pd(1min)とPd(2min)を逆算しますと、1分後には1016.8kPa、2分後には1221.9kPaとなり、その圧力の変化は図1-4になります。ただし、流入する気体圧力の最高値により制限を受ける場合、あるいは安全弁が設置されているなどの保安装置が設置されている場合には単純に増加することはありません。
図1-5
- 序章 化学工学とは何か
- 化学工学の特徴
- 化学工学と化学工業(その発展と今後)
- 化学工学と化学プロセス
- 化学工学と化学プロセス(原料と製品)
- 化学工学とプラント設計(化学プラントと機械プラント)
- 化学工学とプラント設計(化学工学の内容)
- 第1章 化学工学入門
- 1.1 化学工学の基本コンセプト
- 1.2 物質収支(液体)
- 1.2.1 物質収支(液体)続き
- 1.2.2 物質収支(気体)
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支(続き)
- 1.2.4 制御システムと化学反応を伴う物質収支
- 1.3 熱収支とエネルギー収支
- 1.3.1 単位操作と運転条件
- 1.3.2 熱収支とエネルギー収支の計算
- 1.4 流動
- 1.4.1 流動と拡散