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化学工学はプロセス設計の基本となる工学で、原料から製品を作るためのものの流れ(狭義のプロセス)を具象化するために考えられた工学です。

化学工学を確立することで、以下の作業が可能となりました。

  1. 原料から製品を作るための手順(工程)を策定する。
  2. 工程に必要な機能を明らかにする。
  3. 機能を有する装置や機器を開発あるいは選択する。

工業的に生産されている化学物質は約10万種類あり、それぞれの生産プロセスに必要な装置や機器を1から設計することは限られた時間と経済的な面からあり得ないことです。

そこで化学プラントに共通する機能を抽出し、機能に係わる基礎理論と対応する装置の設計手法を決めました。それが化学工学の基本科目と応用科目です。

基本科目では化学や物理化学などの基本理論や現象を学習し、応用科目では化学機械の設計方法やプラント建設に係わる経済性評価を学習します。

化学工学の基礎と応用化学工学の基礎と応用
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第2章 化学プラント

2.2 経済性の検討
2.2.2 回収期間

例題として医薬品製造プラントを取り上げてみます。
基本仕様としては、

  1. 生産量:年間2,400kg
  2. 稼働率:75%
  3. 製品単価:1,800千円/kg

としますと、年間の売上高は次式から年間で3,240百万円となります。

年間の売上高=生産量×稼働率×製品単価=2,400kg×0.75×1.8百万円/kg=3,240百万円

プラント建設への投資金額

次にこのプラントを建設するために必要な投資金額を設定します。建設費には総直接費と総間接費があり、総直接費の内訳は以下の通りです。

  1. 機器コスト:据付コストを含む
  2. 電気計装コスト:工事コストを含む
  3. 配管コスト:工事コストを含む
  4. 土木建築コスト:工事コストを含む
  5. 用役設備コスト:工事コストを含む


また、総間接費の中には設計費や保険料などが含まれています。この総直接費と総間接費の合計が固定資本投資金額、つまり、Fixed Capital Investment(FCI)と呼ばれています。さらにこれ以外に商品の仕入、経費の支払い、買掛金・支払い手形の決済などの運転資金があり、固定資本投資金額と運転資金の合計が総資本投資金額と呼ばれています。この例では、固定資本投資金額2,632百万円と設定します。

プラントの運転コスト

プラントの運転コストは運転に必要な経費で、

  1. 直接製造コスト:原材料費や運転員給料などのコスト
  2. 固定費:償却費、税金や保険料など
  3. 諸経費:保守点検などに必要なコスト


直接製造コスト、固定費および諸経費の合計を製造原価と言っており、これ以外に事務経費などの一般経費がかかります。生産コスト、つまり運転費は製造原価と一般経費の合計になります。この金額を年間で2,630百万円とします。また、回収期間の計算に使用する償却費を年間406百万円とします。

プラントの利益

まず、年間の総利益を算出してみます。年間の総利益は年間の売上高から年間の運転費を差し引いたものです。年間の売上高が年間で3,240百万円で、年間の運転費は年間で2,630百万円となりますから、

年間の総利益=年間の売上高-年間の運転費=3,240百万円-2,630百万円=610百万円

実際には税金がかかります。ここでは総利益の20%を税金としますと、年間の純利益は、

年間の純利益=年間の総利益×(1.0-tax%)=610百万円×(1.0-0.2)=488百万円

回収期間の計算

回収期間は固定資本投資額2,632百万円を年間に予想される純利益と償却費の合計で割って計算します。つまり、

回収期間=固定資本投資額÷(年間の純利益+償却費)=2,632百万円÷(488百万円+406百万円)=2.94年


この回収期間が短ければ短いほど投下資本を素早く回収できることになり、投資効率が良いことになります。一般には回収期間を3年~5年とすることが多いようですが、新製品を開発して市場を開拓するような”新規性に富んだプラント建設”の場合には、回収期間をより短く設定する傾向にあるようです。

回収期間と製品単価

回収期間に大きく影響する要因の一つとして製品の単価があります。想定する製品単価を高くすれば回収期間を短くすることが出来ますが、その一例をグラフに表しました。ここでは製品単価を1.3~2.1百万円/kgの範囲で、前記の計算に倣ってを回収期間を計算してみました。これによれば、製品単価を高く設定すると、急激に回収期間が短くなることがわかります。
このためには以下の方策が必要となります。

  1. プラントの建設費を抑える。
  2. 製品単価を高くする。
  3. 原材料などの運転費を抑える。
  4. 稼働率を改善する。

製品単価と回収期間

化学プラントの稼働日数

化学プラントの実際の稼働日数はどの程度でしょうか? 例えば、2016年度のエチレンプラントの平均稼働率は96.6%と極めて高い数字を示していました。これを稼働日数に換算すると、

稼働日数 = 365日/年×96.6% = 352.6日 = 8,462時間

化学プラント建設の経済性検討ではおしなべて330日、稼働率で言えば約90%というのが一般的な数字のようです。ただし、バイオ系の化学プラントでは、原料のサトウキビなどの収穫期間が年間8~10ヶ月と限定されており、稼働率は70~80%弱と極めて低いことに留意しなければなりません。また、隣接する火力発電所でもバイオマスを燃料として使用するので、一年の内、2~4ヶ月は電力の供給が望めない可能性があります。