6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
コンデンサー(凝縮器)やリボイラー(再沸器)は凝縮熱伝達を利用した熱交換器で、形式としては多管式熱交換器(Shell & tube)が多く採用されています。また、横型だけでなく縦型も採用されており、熱伝達係数が良好なのが特徴です。
石油精製プラントや石油化学プラントでは、これらの熱交換器は蒸留塔のコンデンサーやリボイラーとして多くの実績があり、その熱伝達の現象面については十分に研究がなされているように思われますが、実はそうではなく、まだまだ改善の余地が残されている分野です。
その理由の一つとして凝縮熱伝達の現象の違いがあります。すでに知られていることですが、凝縮には膜状凝縮と滴状凝縮の二つがあります。水の場合で膜状凝縮における熱伝達係数は4,000~6,000kcal/m2hr-K(4,600~7,000W/m2-K)ですが、滴状凝縮では30,000~40,000kcal/m2hr-Kと言われています。
実際の装置における凝縮はおそらく膜状凝縮と滴状凝縮の中間ではないかと考えられているのですが、実際の設計では安全を見て膜状凝縮における熱伝達係数を採用しています。
膜状凝縮における境膜係数の推算式
Nu数で有名なNusseltは膜状凝縮における熱伝達が膜の厚さのみに支配されるとして、液膜内の流れが層流として次式を理論的に導き出しました。
使用されている各変数の内容を以下に示します。
膜状凝縮には垂直面での凝縮と水平面での凝縮があり、先ほどの推算式の係数が違っています。垂直壁や垂直管で係数Cは 0.943 として与えられており、水平管では L を管の外径に置き換えて、係数Cは 0.725 と与えられています。
水と有機溶剤
膜状凝縮における境膜伝達係数を水と他の有機溶剤について計算してみましょう。いずれも圧力を大気圧付近にしており、係数Cは0.943、温度差を10℃、長さを1mとしており、その結果を下表に示します。
物性 | 単位 | 飽和水 |
NH3 | CH3OH | アセトン | トルエン | ヘキサン |
P | MPa | 0.101 | 0.104 | 0.112 | 0.101 | 0.100 | 0.102 |
T | deg.C | 100 | -33 | 67 | 56 | 110 | 69 |
k | W/m-K | 0.674 | 0.612 | 0.188 | 0.152 | 0.113 | 0.105 |
ρ | kg/m3 | 959 | 681 | 747 | 748 | 780 | 614 |
μ | mPa-s | 0.279 | 0.259 | 0.332 | 0.238 | 0.261 | 0.203 |
r | kJ/kg | 2257 | 1336 | 1091 | 513 | 365 | 338 |
h | W/m2-K | 6481 | 4539 | 1753 | 1345 | 986 | 867 |
このように水と比べ有機溶剤の伝熱係数が13~27%に低下していることがわかるでしょう。この理由は有機溶剤の熱伝導度が水に比べ低いことが上げられます。ただし、ここで扱った物質では粘度がそれほど大きくないので伝熱係数が良好ですが、粘度が大きい場合にはさらに伝熱係数が低下しますので注意を払う必要があります。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet