5.1.4 改質管の肉厚計算
先ほど説明したLarson-Miller Parameterから材料の破断時間を求め、そのときの破断応力を用いて改質管の肉厚を計算します。
この改質管の設計に関与するパラメータは以下の5項目です。
- 設計圧力(MPa)
- 設計温度(℃)
- チューブ(改質管)内径(mm)
- チューブ(改質管)材料の破断応力(MPa)
- チューブ(改質管)材料の破断時間(寿命)(hours)
- t:チューブ(改質管)肉厚(mm)、Dm:チューブ(改質管)平均径
- Di:チューブ(改質管)内径(mm)
- USTi:内側不健全層厚さ(mm)
- USTo:外側不健全層厚さ(mm)
- P:設計圧力(MPa)
- S:破断応力(MPa)、η:安全係数
この不健全層厚さ(UST:Unsound Thickness)とは、遠心鋳造法においてチューブ内側と外側に形成される層で、厚みはそれぞれ1.6mmと0.8mmで、母材よりは強度が若干低下している。そこでメタル温度の低下を目的に、チューブ(改質管)内面のみを機械加工により削り薄くするようにしている。そこでUSTiは0mmで、USToは0.8mmとする。
先ほどの5つの項目に対する影響因子を、プロセス設計由来のものと機器設計由来のものとに分けてみると、下表のようになります。この点からリフォーマーチューブ設計は機械設計だけではなくプロセス設計との関わり合いが強いことがお分かりになるでしょう。
- 設計圧力はプロセスガス圧力をもとに決定する。これ以外にチューブ全長での差圧やメタル温度を考慮する必要がある。
- 設計温度はチューブ平均径におけるメタル温度をもとに決定する。メタル温度に影響する要因としては、燃焼ガス温度やバーナーの火炎温度、それにチューブ外側伝熱係数(燃焼ガスの輻射および対流伝熱)やチューブ内側伝熱係数とチューブ壁の抵抗係数などが上げられます。これらは炉の構造や燃焼方式から由来するものです。
- チューブ内径は充填する触媒量と熱流束(Heat Flux)を考慮して決定します。一般には触媒の充填量からは最小チューブ内径が、熱流束からは最大チューブ内径が計算でき、チューブコスト+触媒コストを考慮しつつ最適化を行って決定します。
- 破断応力は選定した材料データ(Larson-Miller Parameter)から決定します。
- 破断時間(寿命):破断時間は100,000時間(約10年間)が標準とされています。
パラメータ | 単位 | プロセス設計 |
機器設計 |
備考 |
設計圧力 design pressure | MPaG | プロセスガス圧力 | 管内差圧と管の表面メタル温度 | |
設計温度 design temperature | deg.C | プロセスガス温度 | 燃焼ガス温度 伝熱係数 火炎温度 |
炉の構造と燃焼方式 |
改質管内径 | mm | 触媒量 | 管の長さと本数 | コスト |
破断応力 rupture stress | MPa | 材料選定 | 材料メーカー選定 | LMPと安全係数 |
破断時間 rupture time | hrs | 運転時間と運転履歴 | 材料メーカー選定 | 10万時間が標準 |
改質管設計の具体例
今までの内容を具体例を挙げて説明します。
まず、設計圧力と設計温度を決定するためにはリフォーマーの物質熱収支を計算する必要があります。これについてはすでに第1章で説明した物質収支計算表(GasBal)にて検討しておりま。ただし、今回でリフォーマーチューブの差圧を修正し、出口圧力を変更しましたので、改めて物質熱収支計算表(GasBal&0.9とFlueGasBal&0.22 as latest version)を公開しましたので、詳細はトップページの「Useful Tools」からダウンロードして下さい。
- 入口条件:2.8MPa(絶対圧)、560℃
- 出口条件:2.3MPa、875℃
- Heat Duty:236.157GJ/hr
- 火炎温度:1852℃(参考値)
- 燃焼ガス量:6442kmol/hr
最小触媒量を14m3とし、平均熱流束を内径ベースで0.3GJ/m2と仮定します。そこで、
- チューブ長さ10m
- チューブ内径4inch(101.6mm)
と設定しますと、触媒量からチューブ本数は約173本となり、これが最小チューブ本数となります。また、平均熱流束からはチューブ本数を算出しますと247本となり、これが最大チューブ本数となります。両者の間には1.4倍強の開きがありますので、コストをにらんだ最適設計が要求されます。
ここでは最適化は行わずに平均熱流束ベース(チューブ247本)でのチューブ(改質管)のシミュレーションを行い、プロセスガスとチューブメタルの温度分布を求めました。その結果を下図に示しました。
この結果、チューブメタルの最高温度は約930℃でしたので、余裕を10℃として設計温度を940℃とします。なお、余裕の取り方は運転中の停止回数など運転履歴に依存します。また、設計圧力は入口圧力の2.8MPa(絶対圧力)とします。
チューブ材料はKHR35CTと、LMP(30.329)より破断応力を求めます。その際、AVG.とMIN.の二つがありますが、それぞれ平均の破断応力と最小の破断応力を意味しています。
この例では、最小の破断応力(21.5MPa)をベースに、安全係数を0.8として肉厚を計算しますと、次のようになります。
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet