2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
2.5.1 予熱空気と燃焼加熱炉
燃焼加熱炉の性能を示すパラメータの一つに炉効率という概念があります。
この炉効率は下記に示すように、インプットした燃料熱量に対する回収された熱量との比であり、炉効率が大きければ大きいほど排熱回収の度合いが高く、省エネ度が高いということになります。
炉効率=回収熱量÷燃料熱量
この炉効率を改善するための方策としては、
- 高発熱量燃料の使用:高発熱量の燃料を使用することにより燃焼ガス量を減じることが出来るので、大気中に捨てられる燃焼排ガス熱量が減り、結果的に炉効率が改善できる。
- 熱損失の少ない炉構造の採用:燃焼加熱炉表面からの熱損失は小型炉で20%以上、中型で10~20%、大型の炉で2~10%と言われている。そこで炉表面からの熱損失が少なくなるように断熱材の厚みを増したり、表面積を最小にするような構造を採用することで炉効率を改善する。
- 予熱された燃焼空気の使用:燃焼用空気として予熱された空気を使用することで燃焼温度を上げ、その結果として大気中に捨てられる排ガスの所有熱量を減らし炉効率を改善できる。
そこで、今回の検討では燃焼用空気として予熱された空気を使用した場合の省エネ度(燃料原単位の改善度)を検討してみよう。
2.5.2 予熱空気使用による炉効率の改善度
一例として燃焼空気を350℃まで予熱した場合の燃料消費量を計算してみた。
この結果、以下に示すようにNG燃料が半減し、燃焼排ガス量は約20%弱削減されました。
- NG燃料消費量:110.84kmol/h(228.39kmol/h)
- 燃焼排ガス量 :6331kmol/h(7761kmol/h)
このNG燃料(CH4)の低発熱量を802.6kJ/mol(Perry's)とすれば、89.0GJ/hの削減となります。
以下は208.11.18に追加変更した分です。
これらの詳細結果をversion0.9に示しましたのでダウンロードしてご覧下さい。なお、このversion0.9を変更してversion0.91にバージョンアップしましたのでご利用下さい。
このダウンロード出来るversion0.91には、水蒸気改質炉の熱収支に関する三枚のシートが用意されており、それぞれの内容を説明します。
- FlueGasBal&0.1:最初に作成したFlue Gas Balanceの旧バージョンで、以降使用しない。
- FlueGasBal&0.2:予熱空気を採用したケースのFlue Gas Balanceで、予熱後の空気温度を350℃に設定した。炉効率を計算するために前回のversion0.9に低発熱量のデータを追加した。今後これをベースとして使用する。
- FlueGasBal&0.11:FlueGasBal&0.2において空気を予熱しないケース。空気を予熱した場合とそうでない場合の比較をするために便宜的に作成した。
そこで空気を予熱することにより、どの程度の省エネが達成できるのかを調べてみる。先ほども説明したように、FlueGasBal&0.2とFlueGasBal&0.11を使って水蒸気改質炉の燃焼系の熱収支と炉効率を計算し、予熱空気(350℃)を使用した場合と使用しない場合の性能を比較してみた。その結果を下表に示す。ただし、下図の水蒸気改質炉周りのフローを見るとわかるように、空気予熱器は水蒸気改質炉からの排気ガスにより予熱されるように、対流部末端に設置している。
- NG fuelの流量(熱量)が削減され、その削減量はNG feed(1000kmol/h)の約12%に相当する大きな数値である。
- それと共にFlue gas量も約20%弱削減された。
- 回収出来る熱量(Heat Recover)は大幅に減少し、その削減率は約40%である。
- 炉効率は両者とも90%程度で差は見られなかった。
この結果は以前説明した炉効率の改善策と矛盾するものである。なぜこのような結果が出てきたのであろうか。その背景には熱回収についての考え方があるが、それは次回に取っておくことにします。
なお、炉効率の計算に使用する回収熱量には空気予熱器の熱量を含めないことに注意して下さい。(もし含めて計算しますと、予熱温度350℃での炉効率は100%を超えてしまいます)
予熱空気 | 単位 | 空気予熱なし | 予熱空気あり |
差 |
燃焼空気温度 | deg.C | 25 | 350 | 325 |
燃焼排気ガス出口温度 | deg.C | 164 | 164 | 0 |
NG fuel 流量 | kmol/hr | 228.4 | 110.8 | 117.6 |
NG fuel 熱量 | GJ/hr | -17.09 | -8.30 | -8.79 |
Flue gas 流量 | kmol/hr | 7761 | 6331 |
1430 |
Reformer furnace 熱負荷 | GJ/hr | 231.35 | 231.35 | 0.0 |
Heat recover 回収熱量 | GJ/hr | 213.64 | 126.59 | 87.05 |
Heat loss 熱損失 | GJ/hr | 13.35 | 12.22 | 1.13 |
Flue gas 流量 | GJ/hr | -792.97 | -690.00 | -102.97 |
炉効率 | % | 90.4 | 90.0 | 0.4 |
- 第1章 物質収支の計算
- 1.1 設計基本
- 1.2 物質収支計算ツールの準備
- 1.3 原子バランスの組み込み
- 1.4 気液分離
- 1.5 ストリームの合流(Addstream)
- 1.6 平衡定数の計算
- 1.7 平衡定数近似式の確定
- 1.8 平衡定数Kと圧平衡定数Kp
- 1.9 水蒸気改質炉出口組成計算
- 1.10 凝縮水分離とPSA水素精製
- 1.11 改質条件とCO転化条件と水素回収率への影響
- 第2章 熱収支の計算
- 2.1 熱収支計算の基礎
- 2.2 熱収支計算表の作成
- 2.3 ガス系の加熱と冷却
- 2.4 水蒸気改質炉の物質熱収支
- 2.5 予熱空気と水蒸気改質炉
- 2.6 燃焼系熱回収とスチーム発生
- 2.7 改質炉対流部プロセス設計
- 第3章 容器の設計
- 3.1 容器の種類
- 3.2 貯蔵タンク
- 3.3 分離器
- 第4章 回転機の設計
- 4.1 回転機の基礎
- 4.2 ポンプの設計
- 4.2.1 ポンプの種類と選定
- 4.2.2 ポンプのデータシート
- 4.2.2 ポンプのデータシート(流量について)
- 4.2.2 ポンプのデータシート(揚程について)
- 4.3 遠心ポンプの設計
- 4.3.1 遠心ポンプ効率の推定
- 4.3.2 遠心ポンプのNPSH
- 4.3.3 遠心ポンプのプロセス計算
- 第5章 水蒸気改質炉設計
- 5.1 改質管の設計
- 5.1.1 改質管とは
- 5.1.2 改質管の材料
- 5.1.3 Larson-Miller Parameter(LMP)
- 5.1.4 改質管の肉厚計算
- 5.2 水蒸気改質炉対流部の設計
- 5.2.1 伝熱計算
- 5.2.2 スタートアップ時の挙動
- 5.3 運転停止と水蒸気改質炉の設計
- 5.3.1 運転停止の種類
- 5.3.2 緊急停止における水蒸気改質炉
- 5.3.3 対流部熱交換器のクリープ破断
- 5.4 安全停止と改質炉設計
- 第6章 熱交換器の設計
- 6.1 熱交換器とプロセス設計
- 6.1.1 熱交換器性能とその影響
- 6.1.2 熱交換器のプロセスデータ
- 6.2 熱交換器と物性
- 6.2.1 凝縮と物性
- 6.2.2 凝縮曲線の作り方
- 6.2.3 凝縮曲線と熱交換器設計
- 6.2.4 エンタルピーの計算
- 6.2.5 凝縮熱伝達と有機溶剤
- 6.2.6 凝縮熱伝達と不凝縮ガスの影響
- 6.2.7 熱伝達と粘度の影響
- 6.2.8 熱伝達と材料の影響
- 6.3 熱交換器の選定
- 6.3.1 熱交換器の分類と種類
- 6.3.2 シェルとチューブ
- 6.3.3 熱交換器の用途とTEMA型式
- 第7章 計装制御
- 4.1 FLPT
- 4.2 圧力制御
- 4.2.1 化学プラントにおける圧力制御
- 4.2.2 圧縮機吸込側の圧力制御システム
- 4.2.3 圧縮機吸込側の圧力調節弁の容量
- 4.2.4 圧力上昇の要因
- 4.2.5 Closed outlet