化学工学とは何か
化学工学と化学プロセス
化学反応の3因子
化学工学の目的は化学工業の発展を意図して体系付けられた学問ですので、化学工業の理論基盤となっている化学プロセスの構築も化学工学の目的の一つです。
光合成でも説明しましたように、光合成を行う上で必要なモノは原料である水と二酸化炭素、それと光エネルギー、および反応を進めるための最適な温度と圧力、そしてこの運転条件を可能にする反応器の6つです。その結果、酸素とグルコースの二つの物質が生成します。
これらを改めて分類し、三つの因子に分類することにします。まず、一番目が、
- 反応生成物:原料(反応物)と製品(生成物)
- 反応条件:反応に必要なエネルギーの種類と量、それと反応に適した温度圧力条件
- 反応空間:反応を進行させるために必要な空間の確保
化学プロセスには種々の反応を伴いますので、上記の3つの因子は化学プロセス全般に渡って共通するものと見なすことが出来ます。
3因子の特徴
この3因子にはある特徴があり、それを明らかにするために化学系と機械系プラントとの比較を行ってみましょう。
まず、化学系プラントで扱う原料や製品の多くが有害で、危険性物質を含んでいることが上げられます。例えば危険物は「対象に危険を及ぼす可能性を秘めた物質」と定義され、以下のような物質が含まれます。
- 可燃性ガス:水素・天然ガスなど
- 可燃性液化ガス:LPGなど
- 可燃性液体蒸気:エーテルやベンゼンなど
また、劇毒物は「生物学的作用が強いもの」と定義され、シアン化水素、水銀や弗化水素などが含まれます。圧縮された気体、つまり高圧ガスには、水素、一酸化炭素と二酸化炭素、酸素や窒素などの気体が含まれます。国内の石油精製プラントにおける事故事例を見ましても、その2/3が火災あるいは爆発による事故と報告されています。
これに対して例えば自動車工場で取り扱う車体や部品などはほとんどが無害であり、一部を除いて危険性物質を扱ってはいません。
機械系プラントでの運転条件はそのほとんどが大気圧でかる常温に対して、化学系プラントの運転条件は地球以外の惑星の大気条件に類似しています。例えば圧力は真空から超高圧(100MPa)、温度は絶対零度から二千度以上の広範囲に渡っています。
さらに化学系プラント特徴は少量と言えども酸素あるいは空気の侵入を許さないことです。その理由は酸素の存在がもたらす酸化現象と燃焼爆発の可能性です。
以上を表にまとめてみましたが、これからわかるように化学系プラントで使用される空間、つまり反応空間には以下の機能が必要となります。
- 設備機器配管は全て密閉される。
- 外部から異物は侵入出来ない。
- 外部に内部物質を漏らさない。
- 序章 化学工学とは何か
- 化学工学の特徴
- 化学工学と化学工業(その発展と今後)
- 化学工学と化学プロセス
- 化学工学と化学プロセス(原料と製品)
- 化学工学とプラント設計(化学プラントと機械プラント)
- 化学工学とプラント設計(化学工学の内容)
- 第1章 化学工学入門
- 1.1 化学工学の基本コンセプト
- 1.2 物質収支(液体)
- 1.2.1 物質収支(液体)続き
- 1.2.2 物質収支(気体)
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支(続き)
- 1.2.4 制御システムと化学反応を伴う物質収支
- 1.3 熱収支とエネルギー収支
- 1.3.1 単位操作と運転条件
- 1.3.2 熱収支とエネルギー収支の計算
- 1.4 流動
- 1.4.1 流動と拡散