第2章 化学プラント
2.2 経済性の検討
2.2.2 回収期間
例題として医薬品製造プラントを取り上げてみます。
基本仕様としては、
- 生産量:年間2,400kg
- 稼働率:75%
- 製品単価:1,800千円/kg
としますと、年間の売上高は次式から年間で3,240百万円となります。
年間の売上高=生産量×稼働率×製品単価=2,400kg×0.75×1.8百万円/kg=3,240百万円
プラント建設への投資金額
次にこのプラントを建設するために必要な投資金額を設定します。建設費には総直接費と総間接費があり、総直接費の内訳は以下の通りです。
- 機器コスト:据付コストを含む
- 電気計装コスト:工事コストを含む
- 配管コスト:工事コストを含む
- 土木建築コスト:工事コストを含む
- 用役設備コスト:工事コストを含む
また、総間接費の中には設計費や保険料などが含まれています。この総直接費と総間接費の合計が固定資本投資金額、つまり、Fixed Capital Investment(FCI)と呼ばれています。さらにこれ以外に商品の仕入、経費の支払い、買掛金・支払い手形の決済などの運転資金があり、固定資本投資金額と運転資金の合計が総資本投資金額と呼ばれています。この例では、固定資本投資金額を2,632百万円と設定します。
プラントの運転コスト
プラントの運転コストは運転に必要な経費で、
- 直接製造コスト:原材料費や運転員給料などのコスト
- 固定費:償却費、税金や保険料など
- 諸経費:保守点検などに必要なコスト
直接製造コスト、固定費および諸経費の合計を製造原価と言っており、これ以外に事務経費などの一般経費がかかります。生産コスト、つまり運転費は製造原価と一般経費の合計になります。この金額を年間で2,630百万円とします。また、回収期間の計算に使用する償却費を年間406百万円とします。
プラントの利益
まず、年間の総利益を算出してみます。年間の総利益は年間の売上高から年間の運転費を差し引いたものです。年間の売上高が年間で3,240百万円で、年間の運転費は年間で2,630百万円となりますから、
年間の総利益=年間の売上高-年間の運転費=3,240百万円-2,630百万円=610百万円
実際には税金がかかります。ここでは総利益の20%を税金としますと、年間の純利益は、
年間の純利益=年間の総利益×(1.0-tax%)=610百万円×(1.0-0.2)=488百万円
回収期間の計算
回収期間は固定資本投資額2,632百万円を年間に予想される純利益と償却費の合計で割って計算します。つまり、
回収期間=固定資本投資額÷(年間の純利益+償却費)=2,632百万円÷(488百万円+406百万円)=2.94年
この回収期間が短ければ短いほど投下資本を素早く回収できることになり、投資効率が良いことになります。一般には回収期間を3年~5年とすることが多いようですが、新製品を開発して市場を開拓するような”新規性に富んだプラント建設”の場合には、回収期間をより短く設定する傾向にあるようです。
回収期間と製品単価
回収期間に大きく影響する要因の一つとして製品の単価があります。想定する製品単価を高くすれば回収期間を短くすることが出来ますが、その一例をグラフに表しました。ここでは製品単価を1.3~2.1百万円/kgの範囲で、前記の計算に倣ってを回収期間を計算してみました。これによれば、製品単価を高く設定すると、急激に回収期間が短くなることがわかります。
このためには以下の方策が必要となります。
- プラントの建設費を抑える。
- 製品単価を高くする。
- 原材料などの運転費を抑える。
- 稼働率を改善する。
- 序章 化学工学とは何か
- 化学工学の特徴
- 化学工学と化学工業(その発展と今後)
- 化学工学と化学プロセス
- 化学工学と化学プロセス(原料と製品)
- 化学工学とプラント設計(化学プラントと機械プラント)
- 化学工学とプラント設計(化学工学の内容)
- 第1章 化学工学入門
- 1.1 化学工学の基本コンセプト
- 1.2 物質収支(液体)
- 1.2.1 物質収支(液体)続き
- 1.2.2 物質収支(気体)
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支(続き)
- 1.2.4 制御システムと化学反応を伴う物質収支
- 1.3 熱収支とエネルギー収支
- 1.3.1 単位操作と運転条件
- 1.3.2 熱収支とエネルギー収支の計算
- 1.4 流動
- 1.4.1 流動と拡散