第3章 化学プラント材料
3.1 化学プラントと材料
日常生活のインフラを代表する水やガスの供給には水道管やガス管が使用されています。例えば、水道管では塩化ビニルやポリエチレンなどの非金属材料が多く使用されています。この背景には安価であること、そして地中に埋設されることが多いために地盤の動きに対し、より柔軟性のあるこれらの材料が使用されています。
一方、化学プラントで使用される配管の多くがパイプラック(地上から3mから5mの高さに設置された棚)に敷設されており、車両などの荷重が掛かることはありませんが、管内流体による熱膨張対策が必要となります。
配管内を通過する流体には水や空気などの人体に無害なもの以外に、天然ガスや水素などの可燃物や硫酸などの劇物、あるいはLPGなどの低温流体などがあり、それらの運転圧力も高圧(数MPaから数十MPa)から真空に至る広い範囲で、運転温度も常温から800℃以上の高温まで千差万別です。そのために配管材料には炭素鋼鋼管や合金鋼やステンレス鋼管などの金属材料だけでなく、FRPなどの非金属材料も多く使用されています。
3.1.1 材料分類と材料選定
一般的な材料の分類では「金属材料と非金属材料」あるいは「鉄材料と非鉄材料」などが使用されている。化学プラントでは、どちらかというとユーザーサイドに立った分類方法のほうが分かり易いと思われる。例えば、使用温度で分類しますと、
- 低温度領域で使用される材料
- 中温度領域で使用される材料
- 高温度領域で使用される材料
材料がさらされる環境で分類すると、
- 炭酸を含む環境で使用される材料
- 硫酸や塩酸などを含む環境で使用される材料
- 高濃度の水素が存在し高温で使用される材料
- 硫化水素雰囲気で使用される材料
- 海水環境で使用される材料
などがあります。
もともと化学プラントの運転条件は真空から高圧、絶対零度に近い低温度から千℃を超える高温、そして数秒でもさらされると人命に多大な損害を与えるような危険物を扱っているので、機器や配管などの材料選定は念には念を入れて行う必要があります。基本材料の選定はプロセスエンジニアが中心になって行うことが多く、そのために扱う流体の性質や運転条件を頭にたたき込んでおく必要があります。
3.1.2 炭素鋼
炭素鋼は鉄と炭素の合金で、化学プラントで広範囲に使用されている代表的な金属材料です。特徴は安価であり、その割りには安定しているので、特別な要求がなければ機器や配管材料には優先的に炭素鋼を採用します。この炭素鋼を略して「鋼」と言うことがあるので注意されたい。炭素鋼に含まれる炭素の含有量は0.02~2%で、2%以上含むものを鋳鉄、そして0.02%以下を純鉄と言っています。
炭素鋼の分類には、炭素の含有量や硬さ(炭素を多く含むほど硬くなる)、あるいは用途別や性質ごとに分類されています。例えば、炭素の含有量から分類すると、
- 低炭素鋼
- 中炭素鋼
- 高炭素鋼
また、炭素鋼や低合金鋼(炭素以外の付加元素を5%程度含むもの)は湿気を含む大気中では錆びやすく、約0.2%の銅を炭素鋼に加えることで錆の進行速度を1/3~1/2に改善します。この銅以外にリン、クロムやニッケルなども錆の進行を遅らせる効果があります。鋼はアルカリや多くの有機物や強酸化性酸(発煙硫酸、濃硫酸など)にはある程度の抵抗を示しますが、一般的には酸に鋼を使うのは好ましいことではありません。
この炭素鋼では約400~450℃以上で”黒鉛化”や”炭化物球状化”が発生し、軟化と強度低下をおこすために、通常は350~360℃を使用温度の限界としています。
この”黒鉛化”や”炭化物球状化”についての詳しい説明は、例えば、旭化成エンジニアリングの「化学装置材料の基礎講座」を見られると良いでしょう。
- 序章 化学工学とは何か
- 化学工学の特徴
- 化学工学と化学工業(その発展と今後)
- 化学工学と化学プロセス
- 化学工学と化学プロセス(原料と製品)
- 化学工学とプラント設計(化学プラントと機械プラント)
- 化学工学とプラント設計(化学工学の内容)
- 第1章 化学工学入門
- 1.1 化学工学の基本コンセプト
- 1.2 物質収支(液体)
- 1.2.1 物質収支(液体)続き
- 1.2.2 物質収支(気体)
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支
- 1.2.3 原子バランスと化学反応を伴う物質収支(続き)
- 1.2.4 制御システムと化学反応を伴う物質収支
- 1.3 熱収支とエネルギー収支
- 1.3.1 単位操作と運転条件
- 1.3.2 熱収支とエネルギー収支の計算
- 1.4 流動
- 1.4.1 流動と拡散