1.3 蒸留系運転と設計条件
1.3.1 蒸留系説明
そこでメタノール蒸留塔周りのPFDを用意しましたので、この図を使って運転モードと設計条件について考えてみましょう。まず、メタノール蒸留システムの説明から始めます。
- システム名称:メタノール蒸留システム
- システム構成
- 蒸留塔(Distillation Column)
- リボイラ(Reboiler)
- 凝縮器(Condenser)
- 環流ドラム(Reflux Drum)
- 環流ポンプ(Reflux Pump)
- プロセス概要
- 原料は粗メタノール(Crude MeOH:水とメタノールの混合液)で、蒸留塔中段に供給される。
- 塔頂からは純度の高い精製メタノール(Product MeOH)が凝縮器に流れ、そこで冷却水により冷却凝縮する。
- 凝縮したメタノールは環流ドラムに流入し環流ポンプで昇圧された後に、一部は製品としてシステム外に送出され、残りのメタノールは環流として蒸留塔に戻る。
- 塔底にはリボイラが設置されており、塔底液はリボイラでスチームにより加熱蒸発し、塔内を上昇しながら上部からの粗メタノールと熱交換を行う。
- 塔底からはメタノールが飛ばされた後に残った粗メタノール中の水(Water)が排出される。
下図に蒸留システムを示します。この中で、
この蒸留システムで想定される運転モード、そして運転条件はどのようなものになるでしょうか?
1.3.2 運転条件の設定
議論を続ける前に、蒸留塔まわりの運転条件と設計条件を決めておく必要があります。ただし、問題をもう少し複雑にするために、蒸留塔凝縮器の型式を空気冷却器に変更しました。この理由は後ほど説明いたします。
下表に蒸留塔周りの運転条件を示しました。つまり、蒸留塔トップの運転条件は圧力0.16MPa、温度76.6℃。蒸留塔ボトムの運転条件は圧力0.22MPa、温度123.3℃としました。
場所 | 運転圧力 | 運転温度 | 備考 |
蒸留塔トップ | 0.15MPa | 76.6deg.C | 凝縮器入口 |
蒸留塔ボトム | 0.22MPa | 123.3deg.C | リボイラ入口出口 |
粗メタノール | 0.45MPa |
56.6deg.C | ----- |
還流ドラム | 0.14MPa | 73.0deg.C | 凝縮器出口 |
精製メタノール | 0.45MPa | 73.0deg.C | ---- |
還流メタノール | 0.25MPa | 73.0deg.C | 蒸留塔戻り |
排水 | 0.22MPa | 123.3deg.C | ---- |
スチーム | 0.440MPa | 147.2deg.C | ---- |
凝縮水 | 0.426MPa | 146.0deg.C | ---- |
空気冷却器入口 | 0.0MPa | 28.0deg.C | 大気空気 |
空気冷却器出口 | 0.0MPa | 45.0deg.C |
1.3.3 設計条件の選定
仮の設計条件を以下のようにします。つまり、
- 蒸留塔トップの設計温度は、運転温度+10℃、または運転圧力+0.1MPaにおける飽和温度のどちらか高い温度とする。
- 蒸留塔トップの設計圧力は、運転温度+10℃における飽和圧力、または運転圧力+0.1MPaのどちらか高い圧力とする。
- 蒸留塔ボトムの設計温度は、運転温度+10℃、または運転圧力+0.1MPaにおける飽和温度のどちらか高い温度とする。
- 蒸留塔ボトムの設計圧力は、運転温度+10℃における飽和圧力、または運転圧力+0.1MPaのどちらか高い圧力とする。
場所 | 運転圧力 | 運転温度 | |
蒸留塔トップ | 運転圧力 | 0.16+0.10=0.26MPa | 90.6deg.C |
蒸留塔トップ | 運転温度 | 0.227MPa | 76.6+10.0=86.6deg.C |
蒸留塔ボトム | 運転圧力 | 0.22+0.10=0.32MPa | 135.8deg.C |
蒸留塔ボトム | 運転温度 | 0.297MPa |
123.3+10.0=133.3deg.C |
1.3.4 設計条件と水運転
プラントの試運転準備の一つとして、N2やスチームによるフラッシング(flashing)やクリーニング(cleaning)を行います。一般に、プラントに納入される機器には、さび止めのために油や特殊な薬品が塗布されていることが多く、そのために試運転前にそれらを除去するためにクリーニング作業が行われます。
クリーニングには薬液を使用したケミカルクリーニングや水を使用した水洗浄(略して水洗)があり、特殊な例では金属表面に不動態皮膜を作る酸洗と言われるボイラ周りのケミカルクリーニング(chemical cleaning)があります。
この蒸留システムでも温水を循環させて塔内部品(トレイなど)に塗布された油や錆び落としのための洗浄をしなければなりません。
この温水は蒸留塔ボトムに水を張り、リボイラにスチームを通して作りますので、蒸留塔内部はスチームと水の共存状態になり、その運転温度は蒸留塔の運転圧力下での水の飽和温度に等しくなります。一般には、大気圧下で行いますので、試運転準備中の蒸留塔本体の温度は100℃程度を考えればいいことになります。
この温水洗浄の運転時間は実績では1週間程度を要しており、§1.3.2 ”運転モードと運転時間”で説明したT_10やT_50などより長くなりますので、設計条件の設定に考慮しなければなりません。
それでは、この水運転下での運転条件をどのようにして設計条件に反映させるのでしょうか?
<続く>
- 第1章 プロセス設計と安全設計
- 1.1 設計条件と安全設計
- 1.1.1 安全設計とは
- 1.1.2 設計条件の決め方
- 1.2 設計条件と運転モード
- 1.2.1 運転条件と運転状態
- 1.2.2 運転モードと運転時間
- 1.2.3 設計条件と運転時間
- 1.3 蒸留系運転と設計条件
- 1.3.1 蒸留系説明
- 1.3.2 運転条件の設定
- 1.3.3 設計条件の選定
- 1.3.4 設計条件と水運転
- 1.3.5 物性の違いと設計条件
- 1.3.6 安全弁の吹き出し温度
- 1.3.7 還流ポンプの設計圧力
- 1.3.8 蒸留塔凝縮器と最高運転条件
- 1.4 圧縮機周りの設計条件
- 1.4.1 圧縮機と運転条件
- 1.4.2 圧縮機停止における運転状況
- 1.4.3 プロセス制御システム
- 1.4.4 放出弁と圧力推移
- 1.4.5 圧力推移シミュレーション①
- 1.4.6 圧力推移シミュレーション②
- 第2章 ユーティリティー停止と安全設計
- 2.1 スチーム停止とスチームシステムの安全性
- 2.1.1 スチームシステム
- 2.1.2 スチーム停止による影響
- 2.2 スチーム停止とプロセススチーム
- 2.2.1 プロセススチーム
- 2.2.2 プロセススチームの確保
- 2.3 スチームソースと加熱源
- 2.3.1 スチームドラム
- 2.3.2 スチームドラムの保有熱量
- 2.4 加熱源としての水蒸気改質炉
- 2.4.1 水蒸気改質炉とプロセススチーム
- 2.4.2 改質管と改質触媒
- 2.4.3 プロセススチーム・ループ
- 2.4.4 計算結果と考察
- 第3章 停電と安全設計
- 3.1 停電とプラント
- 3.1.1 停電と電力供給
- 3.1.2 化学プラントにおける電力供給安定化
- 3.1.3 ディーゼルエンジン発電機の起動
- 3.2 緊急用発電装置停止
- 3.2.1 緊急用発電装置と連結機器
- 3.2.2 緊急用発電装置停止による影響