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安全設計とリスク解析

この”安全設計とリスク解析”では、プラントの安全設計を行う上で注意すべき事柄やリスクをどのようにして見つけ出して対応するかについて述べていきたいと思っております。

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「安全設計」の進め方

安全設計とプロセス設計は非常に密な関係にあります。

プロセス設計品質が悪ければ、スタートアップやシャットダウンはおろか、定常時においても安全な運転を継続することが出来ません。

トラブル続きでおちおち製品の品質確保も疎かになり、稼働率も下がり利益も半減(?)あるいは無くなってしまうかもしれません。また、設計条件を決める際に抜けがあれば、運転条件が設計条件を超えてしまい、これも運転の継続が不可能となってしまいます。

1.4.2 圧縮機停止における運転状況

圧縮機が停止した場合の圧力バランスはどのようになるのか?

この答えを出すためには、圧縮機が停止した場合の運転の状況についての予備知識が必要です。そこで圧縮機が停止してから落ち着くまでの運転の変化について説明いたします。(この手順や運転内容は一般的なもので、ガスを扱う遠心圧縮機では共通の考え方です)

  1. 圧縮機が停止すると、上流システムから圧縮機に流入していたプロセスガスの行くところがなくなるので、圧縮機吸込側の圧力が上昇し始めます。
  2. それと同時に圧縮機吐出側締切弁が自動的に全閉となり、圧縮機本体および吐出側配管内のプロセスガスの行き場が無くなります。
  3. また、上記二つの現象とほぼ同時に、流量確保のために設置されている spill back line (戻りライン)の流量制御弁(FCV)が開き始め、圧縮機吐出側(高圧側)から吸込側(低圧側)へプロセスガスが戻り始めます。
  4. 以上、三つの現象により圧縮機吸込側圧力が急激に上昇します。
  5. 圧力上昇を緩和するために、圧縮機吸込側(吸込ドラム出口)に設置されている放出弁(PCV)が開き始め、上流側からのプロセスガスならびに圧縮機からの戻りガスが放出され、次第にシステム圧力が下がり始めます。

1.4.3 プロセス制御システム

このプロセスフローは、天然ガスを原料に水素リッチガスを製造するとした水蒸気改質プロセスです。まず、上流からプロセスフローと制御システムの説明をいたします。

  1. 原料天然ガスは圧力制御後に流量制御されて加熱され、脱硫器にて原料中の硫黄分が除去されます。
  2. 改質用のスチームも 圧力制御後に流量制御されて、脱硫器を出た原料と混合し再び加熱され改質炉に流入します。
  3. 改質炉では燃焼系を除きプロセスガスの温度圧力の制御は行われません。改質炉出口の温度圧力は2.30MPa(abs) & 875℃です。
  4. 改質炉を出たプロセスガスは廃熱ボイラや高圧給水加熱器などで熱回収され、を行わずになしでます中の硫黄分が除去されます。
  5. 分離ドラムで凝縮した水を分離します。この分離ドラムには液面制御弁が設置されており、凝縮水を外部に払い出ししています。
  6. 分離ドラムからのプロセスガスは吸込冷却器に入り約38℃まで冷却されます。
  7. 冷却されたプロセスガスは吸込ドラムにて凝縮水を分離します。この吸込ドラムにも液面制御弁が設置されており、凝縮水を外部に払い出ししています。
  8. 吸込ドラムを出たプロセスガスは圧縮機に入り、約3.8MPaまで圧縮され、同時に温度は約110℃まで上昇します。通常運転時においては、プロセスガスの圧力はこの圧縮機の回転数で制御されています(回転数制御、governer control)。また、吸込ドラム出口には放出弁が設置されており、プロセス側の圧力が規定以上になった場合のみ、開いて圧力上昇を緩和します。
  9. 圧縮機を出たプロセスガスは吐出側の締切弁(常時全開)を通過して別の工程へ移動します。また、この吐出側から吸込側に至る spill back line には流量制御弁が設置されていますが、通常運転時には全閉となっています。

改質工程と圧縮機

以上の制御内容をまとめて表1.4-2に整理しました。
この運転状況から圧縮機が停止した際の急激な圧力上昇を検討し、その際の圧力が設計値を超えるケース、すなわち安全弁が吹く可能性がある場合には、その回避策についても次回に議論しましょう。

表1.4-2 プロセス制御

制御系 対象 被制御変数 制御弁動作
原料供給圧力 天然ガス 圧力 常時 開 open
原料供給流量 天然ガス 流量 常時 開 open
改質スチーム供給圧力 改質スチーム 圧力 常時 開 open
改質スチーム供給流量 改質スチーム 流量 常時 開 open
分離ドラム液面 凝縮水 流量 常時 開 open
吸込ドラム出口圧力 プロセスガス 圧力 常時 動作 active (close)
吸込ドラム液面 凝縮水 流量 常時 開 open
圧縮機吸込圧力 プロセスガス 回転数 常時 動作 active
圧縮機吸込流量 プロセスガス 流量 常時 動作 active (close)

第1章 プロセス設計と安全設計
1.1 設計条件と安全設計
1.1.1 安全設計とは
1.1.2 設計条件の決め方
1.2 設計条件と運転モード
1.2.1 運転条件と運転状態
1.2.2 運転モードと運転時間
1.2.3 設計条件と運転時間
1.3 蒸留系運転と設計条件
1.3.1 蒸留系説明
1.3.2 運転条件の設定
1.3.3 設計条件の選定
1.3.4 設計条件と水運転
1.3.5 物性の違いと設計条件
1.3.6 安全弁の吹き出し温度
1.3.7 還流ポンプの設計圧力
1.3.8 蒸留塔凝縮器と最高運転条件
1.4 圧縮機周りの設計条件
1.4.1 圧縮機と運転条件
1.4.2 圧縮機停止における運転状況
1.4.3 プロセス制御システム
1.4.4 放出弁と圧力推移
1.4.5 圧力推移シミュレーション①
1.4.6 圧力推移シミュレーション②
第2章 ユーティリティー停止と安全設計
2.1 スチーム停止とスチームシステムの安全性
2.1.1 スチームシステム
2.1.2 スチーム停止による影響
2.2 スチーム停止とプロセススチーム
2.2.1 プロセススチーム
2.2.2 プロセススチームの確保
2.3 スチームソースと加熱源
2.3.1 スチームドラム
2.3.2 スチームドラムの保有熱量
2.4 加熱源としての水蒸気改質炉
2.4.1 水蒸気改質炉とプロセススチーム
2.4.2 改質管と改質触媒
2.4.3 プロセススチーム・ループ
2.4.4 計算結果と考察
第3章 停電と安全設計
3.1 停電とプラント
3.1.1 停電と電力供給
3.1.2 化学プラントにおける電力供給安定化
3.1.3 ディーゼルエンジン発電機の起動
3.2 緊急用発電装置停止
3.2.1 緊急用発電装置と連結機器
3.2.2 緊急用発電装置停止による影響

遠心圧縮機の回転数制御

遠心圧縮機の駆動機がスチームタービンの場合には、圧縮機の回転数を制御することにより吸込圧力を一定に保つことが可能です。
例えば、下図(図2-2)に示したプロセスフローにおいて、プラント負荷を上げるためには原料流量を増やしてプロセスガス量を増加させますが、この場合圧縮機の回転数を増加させることで増加したプロセスガスに対処することが可能となります。また、回転数が増加する場合には吐出圧力も上昇します。

逆にプロセスガス量を減らす場合には、回転数を下げて吸込圧力を一定に保つようにします。その際、吐出圧力は下降します。