Don't lose to corona.


Google
WWW を検索 サイト内を検索

安全設計とリスク解析

この”安全設計とリスク解析”では、プラントの安全設計を行う上で注意すべき事柄やリスクをどのようにして見つけ出して対応するかについて述べていきたいと思っております。

前のページ 次のページ

「安全設計」の進め方

安全設計とプロセス設計は非常に密な関係にあります。

プロセス設計品質が悪ければ、スタートアップやシャットダウンはおろか、定常時においても安全な運転を継続することが出来ません。

トラブル続きでおちおち製品の品質確保も疎かになり、稼働率も下がり利益も半減(?)あるいは無くなってしまうかもしれません。また、設計条件を決める際に抜けがあれば、運転条件が設計条件を超えてしまい、これも運転の継続が不可能となってしまいます。

1.4.4 放出弁と圧力推移

圧縮機が停止した場合、圧力上昇を緩和するために圧縮機吸込側(吸込ドラム出口)に設置されている放出弁(PCV)が開き始めます。
この際に、上流側からどれだけのプロセスガスが流れ込むか、そしてどれだけのガスが圧縮機から戻るかにより圧縮機吸込側(吸込ドラム)の圧力が決まります。

まず、上流側からのプロセスガスのみを考慮して圧力上昇の推移を見てみましょう。この計算を行うためには下記に示すデータが必要となります。

  1. 上流からのプロセスガスの条件、つまり温度や圧力、そして流量や分子量などです。
  2. 放出弁のサイズや流量特性、あるいは0%→100%開までの所要時間など。
  3. 圧縮機上流側のシステム容量。

(1) プロセスガスの条件

このプロセスガス条件は、「プロセス設計の実務」で使用した水素プロセスの物質熱収支を使用することに致します。

ガス流量 3832.2kmol/hr、圧力 1.8MPa(abs)、温度 38℃、分子量 9.598

(2) 放出弁

この放出弁のように常時は閉止しているので、漏洩が大きな問題になるケースでは単座弁が採用されること多いので、ここでも単座弁グローブ弁を採用することに致します。また、流量特性としては常に上流圧が一定で、しかも差圧が変わらないような場合には(下流はフレアで大気圧に近い)リニア特性を採用しますので、ここでもリニア特性を採用します。制御弁サイズは開度が20~90%になるようなポートサイズを採用します。

すると放出弁のサイジングベースは、

  1. 流量:3832.2kmol/hr (90,611m3/hr @ 15℃ & 1気圧)
  2. 上流圧:1.8MPa(abs)(18.36kg/cm2abs)
  3. 下流圧:0.3MPa(abs)


となり、差圧が上流圧の半分よりおおきくなるので、Cv値は次式を使用して計算します。

Cv = 流量÷(248×上流圧)×[分子量/28.97×温度]^0.5
  = 90,611÷(248×18.36)×[(9.598/28.97×(273.15+38)]^0.5 = 202

このCv値に見合う制御弁を探しますと、表2-3のようにポートサイズが6インチとなりました。

(3) システム容量

圧力上昇の推移などを検討する場合、機器やシステムの容量あるいは容積が必要になります。
このシステム容量は実際の機器の大きさや配管のサイズおよび長さから求めますが、ここでは仮想的なプロセスを対象としていますので以下の手順に従って容量を計算します。

  1. 機器容量を改質炉、熱交換器、ドラムの分けて計算する。
  2. 改質炉、つまり改質管の容量は「プロセス設計の実務 §5.1.4」の改質管仕様(長さ10m、内径101.6mm)を参考に計算する。→約17m3
  3. 熱交換器の伝熱面積を求め、チューブ内径を仮定して容量(チューブ側)を計算する。→約50m3
  4. ドラム、つまり気液分離槽のサイジングを行い計算する。→約18m3
  5. 配管の容量は配管サイジングを行い、長さを仮定して計算する。→約60m3
  6. 合計のシステム容量は約150m3

(4)圧力上昇計算の考え方

放出弁は常時運転では全閉であるから、設定値は通常圧力より高めに設定し、その圧力に到達したら初めて開くようにする。その際、制御弁は一旦全開するが、その後、圧力が下降したら開度を自動的に調節する。
そこで、通常圧力 1.8MPa(abs)に対して安全弁設定値を常時運転圧力の10%アップとしますと、

(1.8-0.1)×1.1+0.1 = 1.97 → 2.0MPa(abs)

とし、放出弁設定値を中間の 1.9MPa(abs)とする。

また、制御弁の0%→100%開までの所要時間は最短で10秒とする。この時間が長くなるとシステム圧力の到達圧力は次第に上昇するのは明らかである。

動作時間を早くするためにはそれなりの対策が必要ですが、ここでは詳細には説明いたしませんので、専門書(例えば工業プロセス用調節弁の実技ハンドブックなど)を参考にして下さい。

(5)圧力上昇

計算した結果を下図に示します。

圧縮機周りの圧力上昇

この結果によれば、制御弁の動作時間20秒の場合、圧力は最高で1.97MPa(abs)まで上昇し、安全弁設定値(2.0MPa)約98%以上になるので、安全弁の誤差を考慮すると安全弁が吹く可能性があります。
一方、動作時間10秒の場合でも、圧力は最高で1.94MPa(abs)まで上昇し、これも安全弁設定値(2.0MPa)に対し約97%弱になるので、安全弁の誤差を考慮すると安全弁が吹く可能性があります。
もし、運転圧力の最高値を安全弁設定値の95%とするならば、放出弁全開における到達圧力(1.94~1.97MPa(abs))を考慮して安全弁設定値を以下の計算に従って高くする必要があります。

[(1.94~1.97MPa(abs))-0.1]×1.1+0.1 = 2.2MPa(abs)

つまり、通常運転圧力の20%強以上に高くする必要があります。

表1.4-3 放出弁サイジング

ポートサイズ Max. Cv Min. Cv 開度 %
4インチ 209 4.2 96.6
6インチ 採用 436 8.7 45.2
8インチ 734 14.7 26.0

第1章 プロセス設計と安全設計
1.1 設計条件と安全設計
1.1.1 安全設計とは
1.1.2 設計条件の決め方
1.2 設計条件と運転モード
1.2.1 運転条件と運転状態
1.2.2 運転モードと運転時間
1.2.3 設計条件と運転時間
1.3 蒸留系運転と設計条件
1.3.1 蒸留系説明
1.3.2 運転条件の設定
1.3.3 設計条件の選定
1.3.4 設計条件と水運転
1.3.5 物性の違いと設計条件
1.3.6 安全弁の吹き出し温度
1.3.7 還流ポンプの設計圧力
1.3.8 蒸留塔凝縮器と最高運転条件
1.4 圧縮機周りの設計条件
1.4.1 圧縮機と運転条件
1.4.2 圧縮機停止における運転状況
1.4.3 プロセス制御システム
1.4.4 放出弁と圧力推移
1.4.5 圧力推移シミュレーション①
1.4.6 圧力推移シミュレーション②
第2章 ユーティリティー停止と安全設計
2.1 スチーム停止とスチームシステムの安全性
2.1.1 スチームシステム
2.1.2 スチーム停止による影響
2.2 スチーム停止とプロセススチーム
2.2.1 プロセススチーム
2.2.2 プロセススチームの確保
2.3 スチームソースと加熱源
2.3.1 スチームドラム
2.3.2 スチームドラムの保有熱量
2.4 加熱源としての水蒸気改質炉
2.4.1 水蒸気改質炉とプロセススチーム
2.4.2 改質管と改質触媒
2.4.3 プロセススチーム・ループ
2.4.4 計算結果と考察
第3章 停電と安全設計
3.1 停電とプラント
3.1.1 停電と電力供給
3.1.2 化学プラントにおける電力供給安定化
3.1.3 ディーゼルエンジン発電機の起動
3.2 緊急用発電装置停止
3.2.1 緊急用発電装置と連結機器
3.2.2 緊急用発電装置停止による影響

制御弁のCv値とサイジング

世界標準であるIEC規格では制御弁Cv値計算には複雑な計算を含んでおり、制御弁メーカの多くは簡易式を採用している。ここで紹介するのは、株式会社山武が日本工業出版から出している「工業プロセス用調節弁の実技ハンドブック」に記載されているガスに対する簡易式である。

その簡易式を使ってポートサイズを決定するツールをExcelで作成したので、興味ある方はダウンロードしてみて下さい。
ただし、Cv値とポートサイズの関係はメーカや種類により異なりますので、注意してして使用して下さい。詳細な説明はExcelファイルに書き込んであります。

ダウンロードするLinkIcon