プロセス設計の実務

プロセス設計の基本的な業務を、エタノール合成設備のプロセス設計を題材に説明しています。
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エタノール合成設備

プロセス設計に関する説明をより分かり易くするために、仮想的なプラントを設定しました。ここでは代替燃料として注目を浴びているエタノール合成設備のプロセス設計を通じて、プロセス設計の基本を学んでいきます。

原料を二酸化炭素(炭酸ガス)と水とします。ただし、誤解が無いように言っておきますが、二酸化炭素(炭酸ガス)と水から直接エタノールを作るプロセストは実用化されていません。あくまでも仮想プラントとしてご理解下さい。

4. 合成条件のケーススタディ

4.1 ケーススタディの手順

合成条件に関する case study を以下の手順に沿って行いました。

  1. エタノール合成反応器に供給する原料ガスの組成と流量を決める。
  2. エタノール合成反応器における反応式を決定する。ここではエタノール合成反応(2CO + 4H2 ⇄ C2H5OH + H2O)とシフト反応(CO + H2O ⇄ CO2 + H2)が、エタノール合成触媒上で、同時並行的に進行するとした。
  3. case study の温度範囲と圧力範囲を設定する。
  4. エタノール合成反応器における物質収支を計算し、エタノール生産量を算出する。


ただし、便宜上、反応は平衡まで到達するとし、その際の原料の流量を以下のようにしました。ここで水素と二酸化炭素の量は ”2CO2 + 6H2 ⇄ C2H5OH + 3H2O” を考慮して決め、また、二酸化炭素中の窒素分(0.5%)も考慮します。

  1. 水素 6000kmol/hr
  2. 二酸化炭素 2000kmol/hr
  3. 窒素 10kmol/hr

4.2 圧力と温度のケーススタディ

先ほどの原料を使用し、温度範囲を 100~300℃、圧力 1~10MPaとした時の物質収支計算を行い、その結果(生産量)の一例を表と図に示しました。
以下に、温度200℃に固定にして圧力変えた時のエタノール生産量と、圧力3MPaに固定して温度を変えたときのエタノール生産量を示した。

圧力 MPa
(200deg.C)
生産量 ton/day   温度 deg.C
(3.0MPa)
生産量 ton/day
1.0 361   180 727
2.0
533   220 624
 3.0 624
  220 513
4.0 682    240 394
 5.0 723       

温度を固定した場合の圧力によるエタノール生産量への影響は低圧ほど大きく、この図を見る限り生産量は圧力の対数に比例している。

圧力を固定した場合の温度によるエタノールの生産量への影響はほぼ直線関係にあり、温度に反比例しているように見える。

4.3 ケーススタディ結果の考察

ケーススタディの結果についての判断材料は、原料中の水素量あるいは二酸化炭素量から計算できる理論エタノール生産量との比較です。
つまり、原料中の水素あるいは二酸化炭素が100%エタノールに変換されたとしてエタノール生産量を計算します。
水素からのエタノール生産量は、水素6molからエタノール1が生成されますので、計算式は次のようになります。

  • = 6000kmol/hr×46.069(エタノール分子量)×24hrs/日÷6 =1105.7ton/day


また、水素とのモル比(CO2 : H2 = 1 : 3)と同じ比率で原料中の二酸化炭素と水素の比率を決めていますので、二酸化炭素から求めたエタノール生産量は水素量から求めたエタノール生産量と同じになるはずですので、理論生産量を1105.7ton/dayと設定しました。

よって、先ほどの表に示しましたエタノール生産量は理論生産量に対して以下の比率になっています。

  • 温度固定で圧力変更した場合:32.6%~65.4%
  • 圧力固定で温度変更した場合:14.5%~59.0%


つまり、最大でも理論生産量の60%強しかなりませんでした。

次に原料中の水素と二酸化炭素の利用率を考察してみます。この利用率とは”原料中の水素量もしくは二酸化炭素量の何%がエタノールに変換された”という定義で、理論的には水素の場合で50%、二酸化炭素では100%になっています。
例えば、圧力3MPa、温度200℃でのそれぞれの利用率を計算してみますと、エタノール生産量が624ton/dayですから、

  • 水素利用率=624*1000/(46.069*24)*3/6000 = 28.2%
  • 二酸化炭素利用率(炭素利用率)=624*1000/(46.069*24)*2/2000 = 56.4%


となりました。ここで二酸化炭素の利用率は、エタノール生産量の理論生産量に対する比率と同じですが、水素の場合にはその半分となっています。つまり、せっかく生成した水素の半分しかエタノール生産に寄与していません。
この理由は、この理由は水素が二酸化炭素の酸素と反応して水に戻ってしまうからです。
そこで考えられるのは、CO2の代わりにCOを使うことで、その場合には(2CO + 4H2 ⇄ C2H5OH + H2O)から水素の利用率は理論的には75%に改善されるでしょう。ただし、COはそのままでは自然界に存在しませんから、現状ではCOを生成するのに化石燃料を使わざるを得ませんので、最初からCOを原料としたエタノール合成プロセスは現実的ではないということになります。

「エタノール合成設備」(連載終了)
第1章 設計基本(Design Basis)
1.1 エタノールの仕様
1.2 水の仕様
1.3 二酸化炭素の仕様
第2章 プロセスの構築と設定
2.1 プロセス名称の決定
2.2 合成反応とプロセスの設定
第3章 合成反応条件の設定準備
3.1 反応条件設定項目
3.2 反応温度の設定
3.3 反応圧力の設定
3.4 原料の流量・組成の設定
3.5 平衡反応率の計算
第4章 合成条件のケーススタディ
4.1 ケーススタディの手順
4.2 圧力と温度のケーススタディ
4.3 ケーススタディ結果の考察
第5章 プロセスの改良
5.1 循環比とエタノール生産量
5.2 循環システムの構成
第6章 物質収支計算
6.1 物質収支計算ソフトの作成
6.2 物質収支計算結果
第7章 熱収支計算
7.1 運転条件の設定
7.2 熱収支計算結果
7.3 熱回収システム
7.4 全体物質熱収支
第8章 冷却負荷とスチーム発生
8.1 冷却負荷
8.2 発生スチームと合成管熱回収
8.3 スチームの利用形態
8.4 スチーム条件の設定
8.5 発生スチーム量の計算
第9章 エネルギー収支
9.1 エネルギー収支表の作成
9.2 合成ガス循環機の軸馬力計算
第10章 スチームの有効利用
10.1 スチームの利用方法
10.2 合成ガス循環機動力の再計算
第11章 スチームシステムの構築
11.1 スチームシステム
11.2 スチームタービン
11.3 スチームタービン形式の選択
第12章 スチームタービンの熱収支
12.1 スチームタービン可能動力
12.2 抽気復水タービン

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