1. 設計基本
プロセス設計をスタートする際に必要な基本事項を設計基本(Design Basis)といい、プロセス設計における必須項目です。途中で変更ということになりますと大幅な設計変更を伴うことになりますので、念入りに検討して設定する必要があります。
この設計基本には、プラントで使用される原料と製品の仕様と製品の生産量、そしてユーティリティーの仕様や量の制限などが含まれています。
- 原料の種類と仕様
- 燃料の種類と仕様
- ユーティリティーも種類と仕様
- 製品の種類と仕様、および生産量
- 廃ガスおよび廃水廃液の種類と仕様および払出量
- 大気条件
特に廃ガスおよび廃水廃液の仕様や払出量規制は、プロセス選定やプロセス構成に大きく影響するので、十分に検討しておく必要があります。
プロセス設計に関する説明をより分かり易くするために、仮想的なプラントを設定しましょう。まず、製品を代替燃料として注目を浴びているエタノールに設定し、原料を二酸化炭素(炭酸ガス)と水とします。ただし、誤解が無いように言っておきますが、二酸化炭素(炭酸ガス)と水から直接エタノールを作るプロセストは実用化されていません。あくまでも仮想プラントとしてご理解下さい。
製品の種類や仕様は原料の種類や仕様を限定したり、あるいはプロセス(工程)構成を大きく変更する場合がありますから、どの国の規格が適用されるかも含め注意して設定する必要があります。
1.1 エタノールの仕様
日本の燃料エタノールの規格として社団法人自動車技術会規格があります。これによれば、エタノールの純度は99.5vol%以上、メタノールは4g/L以下、水分は0.7wt%以下と規定されています。このvol%とは体積%を意味しており、wt%は重量%を意味しています。因みにアメリカ規格(ASTM method D4806-06c)のエタノール純度は92.1vol%以上となっています。そこで、エタノールの規格としては社団法人自動車技術会規格のエタノールの純度は99.5vol%以上、メタノールは4g/L以下、水分は0.7wt%以下とします。
1.2 水の仕様
水の規格には日本薬局方規格、水道法規格、工業用規格(JIS)等があり、ここでは工業用規格(JIS)を採用することにします。
日本工業規格(JIS)に「ボイラの給水及びボイラ水の水質」(JIS B 8223)があります。ボイラ給水はポンプによりボイラに供給される水で、補給水と復水の混合です。ボイラ水はボイラ内部で濃縮された水で、不純物は給水に比べ多く許容されています。
ボイラ給水は原水(河川水や井戸水)を水処理して作られます。水処理装置は前処理(凝集沈殿+濾過)、脱気装置、軟水装置、純水装置に分けられます。ボイラ給水はこの純水装置からの純水を脱酸処理(水中の酸素を除去)して作ります。
ボイラ給水およびボイラ水の水質はボイラ形式によっても違っており、ここでは水管ボイラで最高使用圧力10MPa以下の水質を採用することにします。主な項目と基準は以下のようです。
pH:8.5~9.5、溶残酸素:7μgO/lit = 、鉄:30μgFe/lit、銅:20μgCu/lit(ただし、1μg/lit は1ppbに相当します)
1.3 二酸化炭素の仕様
次に原料の一つである二酸化炭素の仕様を決める必要があります。ニ酸化炭素は工業的にはドライアイスの原料としても多く使用されていますので、この方面から仕様を決定することにします。今回は工業用として生産販売されているCO2の仕様を調査し、設計基本を設定しましょう。
炭酸ガスに関する規格としてJIS K 1106があります。この規格では、「高圧ガス容器に充填した工業用の液化二酸化炭素」と適用範囲を制限されていますが、今回の設計基本で扱う品質規格としてこのJIS規格を採用しましょう。
この規格では品質を1種、2種、3種に分けており、それぞれの二酸化炭素の純度はドライベース(乾きガス、水分を含まず)で99.5%以上、99.5%以上、そして99.9%以上となっています。また、水分濃度はそれぞれ0.12%以上、0.012%以下、0.005%以下と制限されています(いずれも体積%)。
二酸化炭素を水とともにエタノールの原料として使用しますので、水分濃度が一番ゆるい1種、つまり純度99.5%を採用することにします。水分以外の不純物としては、窒素を仮定し0.5%以下とします。
- 「エタノール合成設備」(連載終了)
- 第1章 設計基本(Design Basis)
- 1.1 エタノールの仕様
- 1.2 水の仕様
- 1.3 二酸化炭素の仕様
- 第2章 プロセスの構築と設定
- 2.1 プロセス名称の決定
- 2.2 合成反応とプロセスの設定
- 第3章 合成反応条件の設定準備
- 3.1 反応条件設定項目
- 3.2 反応温度の設定
- 3.3 反応圧力の設定
- 3.4 原料の流量・組成の設定
- 3.5 平衡反応率の計算
- 第4章 合成条件のケーススタディ
- 4.1 ケーススタディの手順
- 4.2 圧力と温度のケーススタディ
- 4.3 ケーススタディ結果の考察
- 第5章 プロセスの改良
- 5.1 循環比とエタノール生産量
- 5.2 循環システムの構成
- 第6章 物質収支計算
- 6.1 物質収支計算ソフトの作成
- 6.2 物質収支計算結果
- 第7章 熱収支計算
- 7.1 運転条件の設定
- 7.2 熱収支計算結果
- 7.3 熱回収システム
- 7.4 全体物質熱収支
- 第8章 冷却負荷とスチーム発生
- 8.1 冷却負荷
- 8.2 発生スチームと合成管熱回収
- 8.3 スチームの利用形態
- 8.4 スチーム条件の設定
- 8.5 発生スチーム量の計算
- 第9章 エネルギー収支
- 9.1 エネルギー収支表の作成
- 9.2 合成ガス循環機の軸馬力計算
- 第10章 スチームの有効利用
- 10.1 スチームの利用方法
- 10.2 合成ガス循環機動力の再計算
- 第11章 スチームシステムの構築
- 11.1 スチームシステム
- 11.2 スチームタービン
- 11.3 スチームタービン形式の選択
- 第12章 スチームタービンの熱収支
- 12.1 スチームタービン可能動力
- 12.2 抽気復水タービン