プロセス商品開発

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商品開発の第11回目は「循環プロセスの原料原単位」です。ここではアンモニア合成プロセスの原単位の求め方についてお話しします。

(1) 水素の製造
(2) アンモニア製造の原料原単位

水素の製造

熱分解による水素製造

今回扱っているアンモニアの原料は水素と窒素です。水素および窒素は自然界で単体として存在することは出来ませんので、何らかの方法により化学的あるいは物理的に製造する必要があります。
水素は自然界では水として存在します。標準状態(398.15K & 0.1MPa)における水のギブスの自由エネルギー変化(⊿Gf°)は-237.141kJ/molで、この⊿Gf°が0となる温度は、NIST-JANAF Thermochemical Tablesによれば約4300Kです。水の解離における反応式と平衡定数Kは次式で表されますので、約4300Kでは圧力0.1MPaの場合に、水素、酸素および水の分圧はPH2=0.05MPa、PO2=0.025MPa、PH2O=0.025MPaとなります。

"NIST-JANAF Thermochemical Tables"へのアクセスが不調の場合がありますので、注意して下さい。

H2O(g)→H2(g)+1/2O2(g)
K=(PH2PO2^0.5)/PH2O

しかし4300Kの高温環境を作ることは難しいので、可能と思われる温度(2300K)で、どの程度解離できるかを計算して見ます。この解離における必要な反応エネルギー(ギブスの自由エネルギー)を"NIST-JANAF Thermochemical Tables"から読み取り、+118.08kJ/molとします。このギブスの自由エネルギーから解離反応の平衡定数を求めますと、次式のように平衡定数K=2.08×10^(-3)となります。ここで ^ は階乗を意味しています。

lnK=-⊿Gf/RT=-118.08×10^(3)[J/mol]/(8.3145[J/K-mol]×2300[K]=-6.17465、K=0.0020815

この平衡定数Kを水素、酸素および水の分圧と解離度αで表します。水の3%が水素と酸素に変換されるならば解離度αは0.03で表現されます。ただし、水の解離反応におけるαは極めて小さいのでα<<1としますと次式となります。

K=α^(3/2)×p^(1/2)/(2^(1/2))

圧力p を1bar(0.1MPa)としますとαは0.0205となり、2300Kの高温でもわずか2%の水しか分解されないことになります。このように水を高温で分解して水素を製造する方法は経済的でないことになります。

水の電気分解による水素製造

水の熱分解に比較して、水の電気分解により容易に水素を得ることが出来ます。希硫酸の水溶液を使用して電気分解を行う場合のイオン反応式(半反応式)を以下に示します。

陽極:2H2O→O2+4H(+)+4e(-)
陰極:2H(+)+2e(-)→H2

一電子当たりのエネルギー量は、ファラデーの法則から電位1Vにつき、96,485J/V/molとなります。この数値は以下のように導出されます。

ファラデー定数 F=NAe=6.022×10^23×1.6022×10^-19=96,485[C/mol] or [J/V/mol]
NA:アボガドロ定数 6.022×10^23[mol-1]
e:電気素量 1.6022×10^-19[C]

アンモニア製造の原料原単位

水素製造に必要なエネルギー量

先ほどの一電子当たりのエネルギー量から電気分解で水素分子1kmol/hを作る場合のエネルギー量Qを求めてみます。ただし、生成した水素の圧力は大気圧ですので、アンモニアの合成圧力まで圧縮しなければなりません。つまり、電気分解で必要となるエネルギーは、電気分解での電力と圧縮動力の合計となります。
電圧を理論分解電圧1.23Vに設定しますと、

Q=96,485×1.23×1×2=237,353[kJ/h]=65.93[kW]

電気分解で得た水素をアンモニアの合成圧力(5MPa)まで圧縮するために要する動力L(等温圧縮で仮定)は次式を使って計算します。ただし、mはモル流量[kmol/sec]、Rはガス定数 8.314[J/mol-K]、Tは298.15K(25deg.C)、Pは圧力[MPa]です。

L=mRT×ln(P2/P1)=1/3600×8.314×298.15×ln(5.0/0.1)=2.69[kW]

そこで5MPaの水素分子 1kmol/hを作るために必要なエネルギー量の合計は、

Q+L=65.93+2.69=68.62[kW]

となります。実際の水の電気分解で必要な電圧は理論分解電圧1.23Vより大きくなり、2V程度が必要ですので先ほどのエネルギー量は110[kW]程度に増加します。

窒素製造に必要なエネルギー量

窒素の製造技術にはPSA吸着分離や膜分離、あるいは深冷分離などの方法がありますが、ここでは深冷分離による窒素の製造について見てみましょう。
深冷分離は空気を原料に窒素や酸素などの有用成分を分離して製造する方法です。まず、空気を圧縮した後に空気中の二酸化炭素や水分を除去し、冷却・断熱膨張させて成分の沸点の差を利用して蒸留し、成分を分離する方法です。
この深冷分離では空気を約1MPaまで圧縮した後で、断熱膨張させて冷熱を得ますので、分離に必要なエネルギーは空気の圧縮動力のみとなります。空気中には約78%の窒素が含まれていますから、窒素分子 1kmol/hを分離するために必要なエネルギー量、つまり、空気圧縮の動力L1は次式で計算します。また、窒素もアンモニアの合成圧力まで圧縮するので、その動力L2も同様に計算します。

L1=mRT×ln(P2/P1)=(1/0.78/3600)×8.314×298.15×ln(1.0/0.1)=2.03[kW]
L2=mRT×ln(P2/P1)=(1/3600)×8.314×298.15×ln(5.0/1.0)=1.59[kW]

よって5MPaの窒素分子 1kmolを作るために必要なエネルギー量の合計は、

L1+L2=2.03+1.59=3.62[kW]

アンモニア製造に必要なエネルギー量

N2+3H2=2NH3に従って、アンモニア製造に必要なエネルギー量を計算しますと、

(L1+L2)×1+(Q+L)×3=3.62+68.62×3=209.48[kW]

必要なエネルギー量をアンモニア単位量(ton)あたりのエネルギー消費量に換算しますと(慣例上アンモニアの原単位はトン当たりのエネルギー消費量で表しています)、

209.48[kW]÷(2×17.03[kg/h])=209.48×1000[kg/ton]÷(2×17.03[kg/h])=6150[kWh/ton-NH3]
6150[kWh/ton-NH3]=22.14GJ/ton-NH3=5.29Gcal/ton-NH3

今までの結果から、原料を水と空気とした場合のアンモニア製造のエネルギー消費量は約22GJ/ton-NH3、あるいは5.3Gcal/ton-NH3と計算されます。実際には、生成したアンモニアを冷却して分離するためのエネルギーなどが加わりますので、原単位は25GJ/ton-NH3、あるいは6Gcal/ton-NH3程度かと推測します。

工業的には天然ガスを原料とした水蒸気改質法により水素を含む合成ガスを生成し、その後で空気による二次改質により水素と窒素からなる合成ガスを作り、アンモニアを合成します。このプロセスの原単位は29GJ/ton-NH3あるいは 7Gcal/ton-NH3で、先ほどの電気分解法アンモニアにおけるエネルギー消費量より17%程度増加しています。しかし、この水蒸気改質+二次改質によるアンモニアプロセスが圧倒的に市場を席巻しています。その理由は、

  1. 電気分解プロセスの運転圧力は大気圧であり、合成ガスを保持するために必要な機器などの容積が大きくなりコストアップとなる。
  2. 水蒸気改質+二次改質プロセスでは大型プラント(2000ton/日以上)でも一系列で設計可能であるが、電気分解では系列数が増加し大型化に適さない。
  3. 電気分解に必要な電力量は大型プラント(2000ton/日)で約600MW級の発電所に匹敵し、その建設費を考慮すると経済的に成り立たない。

ここでエネルギー単価と製品単価に目を向けて見ましょう。米国の電力単価は\7/kWh(国内では\15/kWh)で、電気分解プロセスにおけるアンモニア価格は下記のように$453/ton-NH3と計算されました。

6150[kWh/ton]×7[\/kWh]=\43,050/ton-NH3=$453/ton

この価格は米国内でのアンモニアの販売価格(約$500/ton)に近く、直接費や間接費を考慮すると経済的に成立しないと思われます。また、安価なシェールガスによるアンモニアが市場に入ってくるようになると、アンモニアの米国内価格はさらに下がる可能性があります。

次回は原料原単位をさらに深く検討して見ましょう。