10. 循環プロセスの最適化
10.1 循環プロセスの最適化
ここでは”循環プロセスの最適化とは何か?”、そして最適化の方法について説明します。
(1) 最適な循環プロセスとは
(2) アンモニア合成循環プロセスの最適化
10.2 最適化と経済性評価
プロセスの最適化とは経済性とリンクしており、「そのプロセスから高品質の製品をいかに多く、そして安くつくるか」を追求する試みです。そのためには原単位を最小にすること、製品の製造や販売を通じて利潤を極大化することが要求されます。
例えば循環プロセスを含む既存設備におけるプロセスの最適化は運転条件(パラメーター)の見直しによる最適化に加え、設備増強や手直しによる新たな最適ポイントの探索があります。いずれのケースでも最適化を数値的に判断しなければなりませんが、その際に製品を作る上で必要な原料とユーティリティー消費量の合計、つまり総合原単位が判断材料となります。
循環プロセスを含む新規設備を計画する場合には原単位だけではなく、機器や装置などのコスト(設計・製作・建設)、設備稼働に必要な運転員の人件費や設備の保守点検コストなどを考慮しなければなりません。この経済性評価を新規設備のケースでは企業化調査(FS : Feasibility Study)と呼んでいます。
10.3 既存循環プロセスにおける最適化
既存設備では選択できる温度・圧力・流量は、機器や装置および配管・計装機器の性能から限定されています。その中から総合原単位が最小になる運転範囲を選択することが最適化の第一歩となります。
特に反応器の運転条件は触媒量から制限され、触媒の活性と反応速度から反応温度はある範囲に限定されています。触媒上での反応の多くは発熱を伴うために廃熱回収が必要です。また、反応後の合成ガス中に含まれる製品を分離するために合成ガスを冷却しなければなりませんので、純水(熱回収後はスチーム)や冷却水やブラインなどの冷媒が必要となります。さらに(合成)ガスを循環させるための動力も必要となります。
アンモニア合成ではアンモニアを冷媒としたアンモニア冷凍機が採用されています。そのためにアンモニアの合成工程では合成ガス循環機とアンモニア冷凍機の動力が大きな比重を占めています。
純水を供給するためにはポンプ動力が、冷却水やブラインを供給するためには冷却塔ファン動力+循環冷却水ポンプ動力、ブラインを供給するためには冷凍機動力+ブラインポンプ動力が必要です。もし、これらの動力をモーターから得る場合には、ユーティリティー消費量を電力消費量に置き換えることが出来ます。また、回収された廃熱は純水を蒸発させてスチームとなり、プロセス用に使用されなければスチームタービンに供給されて合成ガス循環機や冷凍機などの動力源あるいは自家発電機の動力源となりますので、これも電力に換算することが可能となります。そのためにユーティリティーコストの中で電力コストは特に重要です。
10.4 アンモニア合成循環プロセスの最適化
アンモニア合成循環プロセスの最適化を検討してみましょう。そのためには合成ガス循環機の動力計算が必要となります。
H2+N2のNH3への転化率を20%に固定して循環比(循環ガス量÷原料ガス量)を3.0, 4.0, 5.0に変えて物質収支を計算し、ガス循環量から循環プロセスでの圧力損失を求めて合成ガス循環機の動力を計算します。次に熱収支を計算し、アンモニアを分離するための冷却器とチラ-(深冷器)の負荷を計算して、冷却装置と冷凍装置に必要な動力を計算します。
配管での圧力損失を計算するために、このホームページトップの右側中央にある"Gas PresDrop"のボタンを押して計算してみます。例えば循環比3.0における計算条件を以下のようにします。
- 流量 8995Nm3/h
- 上流圧力 5MPa(5000kPa)
- 温度 250℃
- 分子量 8.90
- 粘度 0.0166cP
- 配管内径 75mm
- 配管長さ 500m
温度は循環機入口出口の平均温度を約40℃、反応器入口出口の平均温度を480℃として、循環プロセスの平均温度を250℃に仮定した。
配管長さは循環機吐出から反応器などの機器を通過して再度循環機に戻る直線距離を200mと仮定し、その途中のエルボや弁などを含んだ等価長を直線距離の2.5倍として500mとした。
その計算結果を下図に示しますが、圧力損失は約200kPaとなりました。
次に循環比3.0のケースでの合成ガス循環機の動力を、先ほどの配管系の圧力損失をもとに計算してみます。合成ガス循環機の動力を計算するために、このホームページトップの右側中央にある"CompBHP"のボタンを押して循環機の軸馬力を計算してみます。ここで以下の仮定を置きます。
- 循環する合成ガスの流量を8995Nm3/h、分子量を8.90とする。
- 循環機の吸込圧力を4.8MPa、吸込温度を38℃とする。
- 循環機の吐出圧力を5.2MPaとする。
- ポリトロープ効率を65%とする。
- 比熱比はガス組成から計算した。
機器や配管を含む全体圧損に占める配管圧損を50%に仮定し、循環機での圧力差を配管圧力損失の2倍の0.4MPaとした。
循環機の軸馬力(≈動力)は下図に示すように約37kWと計算されました。
それ以外の循環比における配管系圧損と循環機軸馬力(≈動力)の計算結果を以下に示します。この結果から循環比を変えた場合の動力原単位(エネルギー原単位)が計算され、それと前章で説明した循環比を変えた場合の原料原単位を合計して最適な循環比を選択することになります。ただし、原単位だけではなく、循環比を変えることにより機器や配管のコストも変わるので、これらを考慮して最適な循環比を選ぶことになります。一般的には循環比は4~5の間と言われています。
- 循環比3.0 配管系圧損 191kPa、循環機動力 37kW
- 循環比4.0 配管系圧損 322kPa、循環機動力 74kW
- 循環比5.0 配管系圧損 605kPa、循環機動力 160kW
次回は「アンモニア製造プラントの原料原単位」について検討して見ましょう。
- 第1章 商品開発を始める前に
- 1.1 商品開発の意義
- 1.2 商品開発のリードタイム
- 1.3 商品開発プロジェクトの発足
- 1.4 Kickoff Meetingの開催
- 第2章 商品開発の目的と目標
- 2.1 差別化の尺度
- 2.2 製品品質
- 2.3 製品生産量
- 2.4 製品コストと原単位
- 2.5 廃棄物と環境負荷
- 2.6 商品開発の目標
- 第3章 商品開発とプロセスの最適化
- 3.1 Proprietary Equipmentの定義
- 3.2 商品開発とProprietary Equipment
- 3.3 プロセスの最適化のステップ
- 第4章 プロセス最適化の具体例
- 4.1 最適化の手順
- 4.2 原料原単位の改善
- 第5章 エネルギー原単位
- 5.1 エネルギー原単位と燃料原単位
- 5.2 エネルギー原単位の種類
- 5.3 バウンダリと物質収支
- 5.4 バウンダリに供給されるユーティリティ
- 第6章 スチーム原単位
- 6.1 スチームシステムとスチームの温度と圧力
- 6.2 スチームの用途
- 6.3 スチーム原単位とエネルギー原単位
- 第7章 循環を伴う化学プロセス
- 7.1 循環プロセスとは
- 7.2 アンモニア合成反応
- 7.3 循環システムと転化率
- 第8章 パージを伴う循環プロセス
- 8.1 不活性ガスとパージ
- 8.2 パージと不活性ガス
- 8.3 パージ量と製品生産量
- 第9章 循環プロセスのパラメータ
- 9.1 製品生産量と転化率、循環ガス量と羽0寺領との関係
- 9.2 循環ガス量とパージ量そして製品生産量
- 9.3 転化率と反応器
- 9.4 循環比を変えた場合の製品生産量の推移
- 9.5 転化率を変えた場合の製品生産量の推移
- 第10章 循環プロセスの最適化
- 10.1 循環プロセスの最適化
- 10.2 最適化と経済性評価
- 10.3 既存循環プロセスにおける最適化
- 10.4 アンモニア合成循環プロセスの最適化
- 第 11章 アンモニア製造プロセスの原料原単位
- 11.1 原料原単位
- 11.2 水の熱分解(水の解離)による水素製造
- 11.3 水の電気分解による水素製造
- 11.4 アンモニア製造の原料原単位
- 第12章 アンモニア製造プロセスの燃料原単位
- 12.1 水蒸気改質炉
- 12.2 燃料の種類
- 12.3 ボイラと水蒸気改質炉の熱効率