4. プロセス最適化の具体例
4.1 最適化の手順
プロセス最適化の第一のステップは原料原単位の改善です。つまり、「少ない原料で出来るだけ多くの製品を作る」、これが最適化において最初に考えなければならないことです。当たり前のことを言っているようですが、これがなかなか達成できないところに最適化の難しさがあります。
第二のステップは燃料や電力などのエネルギーの削減です。先ほどの原料原単位の改善では物質収支の計算である程度解決の糸口が見つかりますが、エネルギーの削減ではプロセスプラントのみならずユーティリティー設備まで拡張して熱回収システムの構築を行い、全系の熱収支の計算を検討しなければなりません。
第三のステップでは、プロセス全体を幾つかの工程に分割し、工程ごとに機器コストを推算していきます。例えばメタノールプロセスの場合には、全系を”脱硫工程+水蒸気改質工程”、”合成ガス圧縮工程”、”メタノール合成工程”、”メタノール蒸留工程”、それとユーティリティー設備に分割します。アンモニアプロセスの場合には、”脱硫工程+水蒸気改質工程”、”一酸化転化工程”、”二酸化炭素除去工程”、”メタネーション工程+合成ガス圧縮工程”、”アンモニア合成工程”、”アンモニア冷凍工程”、それとユーティリティー設備に分割します。
第四のステップでは前回説明しましたProprietary Equipmentを中心にケーススタディを行います。このケーススタディの内容はProprietary Equipmentの設計パラメータの種類により変わってきます。例えば、パラメータとして合成圧力を上げるならば、ケーススタディは合成圧力を変えた場合のプロセス性能と機器コストの増減を検討します。
第五のステップでは経済性評価を行うことで製品単価を求め、それがマーケットに受け入れらるかを判断し、もし、NOということになれば第一のステップに戻って検討を続行します。
4.2 原料原単位の改善
原単位の改善を図るためには、量論的思考から”最小理想原単位”なるものを把握しておくことが必要です。
例えば1kmolのメタノールを合成するためには、最低限1kmolの一酸化炭素と2kmolの水素が必要となります。
CO+2H2=CH3OH
これらの一酸化炭素と水素を天然ガス(メタン100%)の水蒸気改質にて製造しようとすると、次式から1kmolの一酸化炭素と3kmolの水素が生成します。
CH4+H2O=CO+3H2
ただし、問題を単純化するために、これら二つの式では反応平衡による縛りについては考慮しておりません。そうすると、二つの式をひとまとめにすると次式が成立します。
CH4+H2O=CO+3H2=CH3OH+H2
つまり、天然ガス1kmolから1kmolのメタノールと1kmolの水素が得られることになります。これから製品量ton当たりの原料の持つ低発熱量ベースの原単位を求めますと、
原料原単位=(1kmol-CH4)÷(1kmol×CH3OH)=(1kmol×802.6kJ/mol)÷(1kmol×
32.04kg/kmol)=25.05GJ/ton
これがメタノールを合成するための”最小理想原単位”になります。
ではアンモニア合成での”最小理想原単位”はいくらになるでしょうか?
1kmolのアンモニアを合成するためには、最低限1kmolの窒素と3kmolの水素が必要となります。
N2+3H2=2NH3
この窒素は空気から供給されると考えておきます。また、水素はメタノールと同じく天然ガス(メタン100%)の水蒸気改質にて製造しようとすると、次式から1kmolの一酸化炭素と3kmolの水素が生成します。
CH4+H2O=CO+3H2
二つの式をひとまとめにすると次式が成立します。
CH4+H2O+N2=CO+3H2+N2=CO+2NH3
つまり、天然ガス1kmolから2kmolのアンモニアと1kmolの一酸化炭素が得られることになります。これから製品量ton当たりの原料の持つ低発熱量ベースの原単位を求めますと、
原料原単位=(1kmol-CH4)÷(2kmol×NH3)=(1kmol×802.6kJ/mol)÷(2kmol×
17.03kg/kmol)=23.56GJ/ton
つまり、アンモニアもメタノールもそれらの原料原単位は23~25GJ/tonということになります。
次回は、原料原単位と同様に重要なエネルギー原単位についてお話しします。
- 第1章 商品開発を始める前に
- 1.1 商品開発の意義
- 1.2 商品開発のリードタイム
- 1.3 商品開発プロジェクトの発足
- 1.4 Kickoff Meetingの開催
- 第2章 商品開発の目的と目標
- 2.1 差別化の尺度
- 2.2 製品品質
- 2.3 製品生産量
- 2.4 製品コストと原単位
- 2.5 廃棄物と環境負荷
- 2.6 商品開発の目標
- 第3章 商品開発とプロセスの最適化
- 3.1 Proprietary Equipmentの定義
- 3.2 商品開発とProprietary Equipment
- 3.3 プロセスの最適化のステップ
- 第4章 プロセス最適化の具体例
- 4.1 最適化の手順
- 4.2 原料原単位の改善
- 第5章 エネルギー原単位
- 5.1 エネルギー原単位と燃料原単位
- 5.2 エネルギー原単位の種類
- 5.3 バウンダリと物質収支
- 5.4 バウンダリに供給されるユーティリティ
- 第6章 スチーム原単位
- 6.1 スチームシステムとスチームの温度と圧力
- 6.2 スチームの用途
- 6.3 スチーム原単位とエネルギー原単位
- 第7章 循環を伴う化学プロセス
- 7.1 循環プロセスとは
- 7.2 アンモニア合成反応
- 7.3 循環システムと転化率
- 第8章 パージを伴う循環プロセス
- 8.1 不活性ガスとパージ
- 8.2 パージと不活性ガス
- 8.3 パージ量と製品生産量
- 第9章 循環プロセスのパラメータ
- 9.1 製品生産量と転化率、循環ガス量と羽0寺領との関係
- 9.2 循環ガス量とパージ量そして製品生産量
- 9.3 転化率と反応器
- 9.4 循環比を変えた場合の製品生産量の推移
- 9.5 転化率を変えた場合の製品生産量の推移
- 第10章 循環プロセスの最適化
- 10.1 循環プロセスの最適化
- 10.2 最適化と経済性評価
- 10.3 既存循環プロセスにおける最適化
- 10.4 アンモニア合成循環プロセスの最適化
- 第 11章 アンモニア製造プロセスの原料原単位
- 11.1 原料原単位
- 11.2 水の熱分解(水の解離)による水素製造
- 11.3 水の電気分解による水素製造
- 11.4 アンモニア製造の原料原単位
- 第12章 アンモニア製造プロセスの燃料原単位
- 12.1 水蒸気改質炉
- 12.2 燃料の種類
- 12.3 ボイラと水蒸気改質炉の熱効率