6. 物質収支計算
6.1 物質収支計算ソフトの作成
循環比を0.7に決定しましたので、あらためて物質収支の計算を行います。この物質収支の計算を行うためには、物質収支計算ソフトが必要となります。
一般には市販のプロセスシミュレータを購入して使えば良いのでしょうが、費用対効果と物質収支計算のポイントの理解を考え、ここでは自分で作ることにしましょう。
ソフトを作る際のアプリケーションソフトとしては、入手が容易でおおかたの人が使用している表計算ソフト、その中からExcelを使用します。まず、物質収支計算ソフトを作成するために必要な項目を以下に示します。
- エタノール合成に必要な物質(component):H2, CO, CO2, N2, C2H5OH, H2O。ただし、N2はイナートガスとして考慮している。
- 分子量(MW):各物質の分子量。
- 物質構成原子表:例えばCO2分子1モルは炭素原子(C)1モルと酸素分子(O2)1モルから構成されていることを示した表のこと。
- 蒸気圧:気液分離に使用する。
- エタノール合成反応とシフト反応の化学平衡式(温度の関数)。
表形式による物質収支計算ソフトの概要を下表に示しました。この表を作成するに当たっての考慮すべき点、あるいは注意すべき点は、
- 物質構成原子表の中で、便宜上、水素のみ分子で計算している。
- Makeup Gasはエタノール合成に供給される原料ガスのこと。
- Dry gasはH2O以外のガスで、wet gasはdry gas + H2Oを意味する。
6.2 物質収支計算結果
エタノールの合成条件と循環比が決定されたので、いよいよ物質収支の計算に取りかかるが、その際に一寸した工夫が必要となる。
つまり、エタノール合成工程の物質収支計算では、以下の項目について考慮し、計算を行う必要があります。
- 原料ガスに循環ガスを加えたものがエタノール合成反応器への供給ガスになる。しかし、計算スタート時には循環ガスの組成が不明のために、循環ガス組成に関する繰り返し計算が必要となる。
- 原料ガス中に反応に無関係なN2が混入しているので、循環することによりN2が堆積していく。そのために流入してきたN2と同じ量のN2を系内から外部に放出(パージ)する必要がある。
- エタノールの分離では、エタノールのみならず水も凝縮分離されるので、両者の蒸気圧を考慮する必要がある。その際に圧力と温度を指定しなければならない。
具体的には、先ほどの表をExcelで作成して、Excelに用意されているマクロを使って繰り返し計算を行うようにしました。その計算結果を以下に示しました。また stream No. の位置を”エタノール合成システムブロックフロー図”に表示しました。
エタノール合成工程の物質収支
Component | Stream No. | 340 | 400 | 410 | 440 | 450 | 490 | 495 | 491 |
H2 | kmol/h | 6000 | 4059.8 | 10059.8 | 10059.8 | 4312.8 | 4312.8 | 0 | 253.1 |
CO | kmol/h | 0 | 80 | 80 | 80 | 85 | 85 | 0 | 5 |
CO2 | kmol/h | 2000 | 3299.9 | 3299.9 | 3299.9 | 1380.9 | 1380.9 | 0 | 81 |
N2 | kmol/h | 10 | 160.4 | 170.4 | 170.4 | 170.4 | 170.4 | 0 | 10 |
C2H5OH | kmol/h | 0 | 6.9 | 6.9 | 6.9 | 963.9 | 7.3 | 956.6 | 0.4 |
H2O | kmol/h | 0 | 8.5 | 8.5 | 8.5 | 2884.4 | 9 | 2875.4 | 0.5 |
Total | kmol/h | 8010 | 5615.5 | 13625.5 | 13625.5 | 9797.5 | 5965.6 | 3832 | 350.1 |
Total | kg/h | 100396 | 72599 | 172995 | 172995 | 172995 | 77125 | 95868 | 4526 |
- 「エタノール合成設備」(連載終了)
- 第1章 設計基本(Design Basis)
- 1.1 エタノールの仕様
- 1.2 水の仕様
- 1.3 二酸化炭素の仕様
- 第2章 プロセスの構築と設定
- 2.1 プロセス名称の決定
- 2.2 合成反応とプロセスの設定
- 第3章 合成反応条件の設定準備
- 3.1 反応条件設定項目
- 3.2 反応温度の設定
- 3.3 反応圧力の設定
- 3.4 原料の流量・組成の設定
- 3.5 平衡反応率の計算
- 第4章 合成条件のケーススタディ
- 4.1 ケーススタディの手順
- 4.2 圧力と温度のケーススタディ
- 4.3 ケーススタディ結果の考察
- 第5章 プロセスの改良
- 5.1 循環比とエタノール生産量
- 5.2 循環システムの構成
- 第6章 物質収支計算
- 6.1 物質収支計算ソフトの作成
- 6.2 物質収支計算結果
- 第7章 熱収支計算
- 7.1 運転条件の設定
- 7.2 熱収支計算結果
- 7.3 熱回収システム
- 7.4 全体物質熱収支
- 第8章 冷却負荷とスチーム発生
- 8.1 冷却負荷
- 8.2 発生スチームと合成管熱回収
- 8.3 スチームの利用形態
- 8.4 スチーム条件の設定
- 8.5 発生スチーム量の計算
- 第9章 エネルギー収支
- 9.1 エネルギー収支表の作成
- 9.2 合成ガス循環機の軸馬力計算
- 第10章 スチームの有効利用
- 10.1 スチームの利用方法
- 10.2 合成ガス循環機動力の再計算
- 第11章 スチームシステムの構築
- 11.1 スチームシステム
- 11.2 スチームタービン
- 11.3 スチームタービン形式の選択
- 第12章 スチームタービンの熱収支
- 12.1 スチームタービン可能動力
- 12.2 抽気復水タービン