12. スチームタービンの熱収支
12.1 スチームタービン可能動力
エタノール合成設備から発生するスチームにより、エタノール蒸留設備に必要な熱量を十分に供給できることはすでに説明したので、スチームタービン周りの熱収支を計算し、獲得できる動力を求めてみる。
次表にスチームタービン周りの熱収支を計算する上で既知のパラメーターと未知のパラメーターを明記した。
項目 | 内容 | 単位 | 数値 |
流入スチーム | 流量 | kg/hr | 75,499 |
圧力 | MPa | 1.0 | |
温度 | deg.C | 182 | |
エンタルピ | kJ/kg | 2781.6 | |
抽気スチーム | 熱負荷 | GJ/hr | ? |
流量 | kg/hr | ? | |
圧力 | MPa | 0.3 | |
温度 | deg.C | 133 | |
エンタルピ | kJ/kg | (2724.7) | |
背気or 排気 | 流量 | kg/hr | ? |
圧力 | MPa | 0.3 or 0.0123 | |
温度 | deg.C | 133 or 55 | |
エンタルピ | kJ/kg | (2724.1) or ? | |
動力 | 動力 | kW | ? |
この表の中で未知の数値である抽気スチームの熱負荷(リボイラー熱負荷)と流量を求め、流入スチーム流量から背気(排気)スチーム流量を決定します。そこで、まず最初にエタノール蒸留塔における循環比を2.5と仮定し、リボイラー熱負荷を求めますと、
= 37.676GJ/h×2.5 = 94.19GJ/h
次に必要なスチーム量を求めます。ただし、抽気スチームのエンタルピーを飽和スチームエンタルピーの2724.7kJ/kgとし、その飽和水のエンタルピーを561.4kJ/kgとしますと、
= 94.190GJ/h÷(2724.7-561.4kJ/kg) = 43,540kg/h
この計算結果を先ほどの表に挿入しますと、以下のようになります。
スチームタービン熱収支 その2
項目 | 内容 | 単位 | 数値 |
流入スチーム | 流量 | kg/hr | 75,499 |
圧力 | MPa | 1.0 | |
温度 | deg.C | 182 | |
エンタルピ | kJ/kg | 2781.6 | |
抽気スチーム | 熱負荷 | GJ/hr | 94.19 |
流量 | kg/hr | 43,540 | |
圧力 | MPa | 0.3 | |
温度 | deg.C | 133 | |
エンタルピ | kJ/kg | (2724.7) | |
背気or 排気 | 流量 | kg/hr | 31,959 |
圧力 | MPa | 0.3 or 0.0123 | |
温度 | deg.C | 133 or 55 | |
エンタルピ | kJ/kg | (2724.1) or ? | |
動力 | 動力 | kW | ? |
次に前にも紹介しました”Dresser-Rand”にアクセスしてスチームタービンから獲得できる動力を求めてみます。その計算結果を次表にまとめました。
内容 | 単位 | 背気タービン | 抽気復水タービン | |
背気スチーム | 抽気スチーム | 排気スチーム | ||
流量 | kg/hr | 75,499 | 45,806 | 29,693 |
圧力 | MPa | 0.3 | 0.3 | 0.0123 |
温度 | deg.C | 133 | 133 | 50 |
エンタルピ | kJ/kg | 2617.7 | 2617.7 | 2291.1 |
動力 | kW | 3,437 | 6,131 |
ただし、抽気スチーム量やエンタルピーは”Dresser-Rand”の計算ツールの結果(動力)をもとに再計算した結果です。抽気スチームのエンタルピーが飽和スチームエンタルピーより低いなど、若干辻褄が合わないとは思いますが、今回はこれ以上の検討はいたしません。
12.2 抽気復水タービン
以上の結果から、背気タービンに比べ動力が約2倍と多い抽気復水タービンケースを採用することに致しました。
結果的には獲得できた動力は6,100kW余りですので、このスチームタービンを発電機の駆動機として利用して電力を作り、必要な所内電力(主に合成ガス循環機用モーター)を除いた電力(約5,600kW)を外部にexportすることにいたします。また、スチームタービンの復水器の熱負荷は約61.8GJ/hで、それに必要な冷却水量は約1,500ton/h(温度差10℃)になります。
詳細は、左目次欄下の”スチームシステムのフロー図を見る”をクリックしてください。
- 「エタノール合成設備」(連載終了)
- 第1章 設計基本(Design Basis)
- 1.1 エタノールの仕様
- 1.2 水の仕様
- 1.3 二酸化炭素の仕様
- 第2章 プロセスの構築と設定
- 2.1 プロセス名称の決定
- 2.2 合成反応とプロセスの設定
- 第3章 合成反応条件の設定準備
- 3.1 反応条件設定項目
- 3.2 反応温度の設定
- 3.3 反応圧力の設定
- 3.4 原料の流量・組成の設定
- 3.5 平衡反応率の計算
- 第4章 合成条件のケーススタディ
- 4.1 ケーススタディの手順
- 4.2 圧力と温度のケーススタディ
- 4.3 ケーススタディ結果の考察
- 第5章 プロセスの改良
- 5.1 循環比とエタノール生産量
- 5.2 循環システムの構成
- 第6章 物質収支計算
- 6.1 物質収支計算ソフトの作成
- 6.2 物質収支計算結果
- 第7章 熱収支計算
- 7.1 運転条件の設定
- 7.2 熱収支計算結果
- 7.3 熱回収システム
- 7.4 全体物質熱収支
- 第8章 冷却負荷とスチーム発生
- 8.1 冷却負荷
- 8.2 発生スチームと合成管熱回収
- 8.3 スチームの利用形態
- 8.4 スチーム条件の設定
- 8.5 発生スチーム量の計算
- 第9章 エネルギー収支
- 9.1 エネルギー収支表の作成
- 9.2 合成ガス循環機の軸馬力計算
- 第10章 スチームの有効利用
- 10.1 スチームの利用方法
- 10.2 合成ガス循環機動力の再計算
- 第11章 スチームシステムの構築
- 11.1 スチームシステム
- 11.2 スチームタービン
- 11.3 スチームタービン形式の選択
- 第12章 スチームタービンの熱収支
- 12.1 スチームタービン可能動力
- 12.2 抽気復水タービン