9. エネルギー収支
9.1 エネルギー収支表の作成
エタノール合成循環システムの基本設計もスチームシステムの段階に入ってきました。そこでエタノール合成循環システム全体のエネルギー収支(熱収支も含む)について補足しておきます。
このエネルギー収支(エネルギーバランス)は熱収支に電力などの形態の異なるエネルギーを含めたもので、energy input と energy output から構成されています。
energy input の主なものは原料ガスと、新たに追加される燃料、外部からの加圧温水や冷却水およびガス循環機の動力などです。一方のenergy output には粗エタノールやパージガスおよび合成反応器での回収熱と合成反応器出口冷却器に加え、発生したスチームや冷却水の外部への戻りなどが含まれます。
これらを含めたエタノール合成循環システム全体のエネルギー収支を以下に示します。
Heat Input | 流量 kg/hr | 熱量 kW |
原料ガス | 100,400 | -217.9 |
加圧温水供給 | ? | ? |
冷却水供給 | ? | ? |
ガス循環機動力 | ? | ? |
合計 | ? | ? |
Heat Output | 流量 kg/hr | 熱量 kW |
粗エタノール | 95,870 | -301.9 |
パージガス | 4,530 | -9.0 |
発生スチーム | ? | ? |
冷却水戻り | ? | ? |
合計 | ? | ? |
このエネルギー収支は以前説明しました”物質熱収支計算結果”とは以下の点で異なっています。
- 合成ガス循環機の動力が加算された。
- 合成反応器が加圧温水供給と発生スチームに分割された。
- 合成管出口ガス冷却熱が冷却水供給と冷却水戻りに分割された。
9.2 合成ガス循環機の軸馬力計算
先ほど冷却水や発生スチームについて検討しましたので、ここでは合成ガス循環機の動力の計算を行います。
良く知られているようにガス圧縮機や循環機の軸動力は次式で計算します。ただし、BHP:軸馬力(kW)、G:質量流量(kg/h)、Hp:ポリトロピックヘッド(m)、ηp:ポリトロピック効率、ηm:機械効率を意味しています。
- BHP=G×Hp÷(3600×102×ηp×ηm)
ここでHpは次式から計算します。ただし、Z:圧縮係数(定圧では一般に1)、Mw:ガス分子量、Ts:吸込温度(℃)、CR:圧縮比(=Pd/Ps)、k:ガスの比熱比、そしてBは比熱比とポリトロピック効率から計算できる変数です。
- Hp=(Z×848/Mw)×(273.15+Ts)×(CR^B-1)/B
- B={(k-1)/k}/ηp
エタノール合成設備の合成ガス循環機の質量流量Gは物質収支から72,599kg/h(5615.5kmol/h)、分子量Mwは12.928、吸込圧力Psは2.8MPa、吐出圧力Pdは3.1MPaで、吸込温度Tsは35℃とします。また、ガスの比熱比はH2、CO、N2などの二原子分子が約77%、三原子分子のCO2が残り23%なので、次式より1.384とします。
- k=1.4×0.77+1.33×0.23=1.384
また、ポリトロピック効率は80%、機械効率を98%とすると、
- B ={(k-1)/k}/ηp=(1.384-1)/1.384/0.8=0.3468
- Hp =(Z×848/Mw)×(273.15+Ts)×(CR^B-1)/B=(1.0×848/12.928)×(273.15+35)×{(3.1/2.8)^0.3468-1}/0.3468=2,094m
- BHP=72,599kg/h×2,094m÷(3600×102×0.8×0.98)=528kW
以上で合成ガス循環機の動力が求められました。この軸動力に相当する熱量(約1.9MJ/h)はエタノール合成循環システムに投入されるエネルギーで、現象的には合成ガス循環機出口温度の上昇となります。循環ガスの平均比熱を31.1kJ/kmol-Kとすれば、温度上昇は約10℃となり、出口温度は45℃になると予想されます。
また、この増加した熱量は最終的には合成管出口ガス冷却器の冷却負荷の増加をもたらします。
次表に計算されたエネルギー負荷を挿入しました。ただし、この表では合成ガス循環機の動力分を合成管出口ガス冷却器の冷却負荷に上乗せしておりません。
Heat Input | 流量 kg/hr | 熱量 MW |
原料ガス | 100,400 | -217.9 |
加圧温水供給 | 75,500 | 8.8 |
冷却水供給 | 3,759,000 | 109.8 |
ガス循環機動力 | 528.0 | |
合計 | 3,934,900 | -98.7 |
Heat Output | 流量 kg/hr | 熱量 MW |
粗エタノール | 95,870 | -301.9 |
パージガス | 4,530 | -9.0 |
発生スチーム | 75,500 | 58.3 |
冷却水戻り | 3,795,000 | 153.5 |
合計 | 3,934,000 | -99.1 |
- 「エタノール合成設備」(連載終了)
- 第1章 設計基本(Design Basis)
- 1.1 エタノールの仕様
- 1.2 水の仕様
- 1.3 二酸化炭素の仕様
- 第2章 プロセスの構築と設定
- 2.1 プロセス名称の決定
- 2.2 合成反応とプロセスの設定
- 第3章 合成反応条件の設定準備
- 3.1 反応条件設定項目
- 3.2 反応温度の設定
- 3.3 反応圧力の設定
- 3.4 原料の流量・組成の設定
- 3.5 平衡反応率の計算
- 第4章 合成条件のケーススタディ
- 4.1 ケーススタディの手順
- 4.2 圧力と温度のケーススタディ
- 4.3 ケーススタディ結果の考察
- 第5章 プロセスの改良
- 5.1 循環比とエタノール生産量
- 5.2 循環システムの構成
- 第6章 物質収支計算
- 6.1 物質収支計算ソフトの作成
- 6.2 物質収支計算結果
- 第7章 熱収支計算
- 7.1 運転条件の設定
- 7.2 熱収支計算結果
- 7.3 熱回収システム
- 7.4 全体物質熱収支
- 第8章 冷却負荷とスチーム発生
- 8.1 冷却負荷
- 8.2 発生スチームと合成管熱回収
- 8.3 スチームの利用形態
- 8.4 スチーム条件の設定
- 8.5 発生スチーム量の計算
- 第9章 エネルギー収支
- 9.1 エネルギー収支表の作成
- 9.2 合成ガス循環機の軸馬力計算
- 第10章 スチームの有効利用
- 10.1 スチームの利用方法
- 10.2 合成ガス循環機動力の再計算
- 第11章 スチームシステムの構築
- 11.1 スチームシステム
- 11.2 スチームタービン
- 11.3 スチームタービン形式の選択
- 第12章 スチームタービンの熱収支
- 12.1 スチームタービン可能動力
- 12.2 抽気復水タービン