各種プロセスのPFD

アンモニアとメタノールの併産プロセス

アンモニアはエチレンやメタノールと同じく主要な化学基礎原料であり、世界中で年間1億トンを遙かに超えて生産消費されている。アンモニアの最大の用途は肥料工業で、尿素の原料である。また、硝酸は爆薬の製造に使用される。
多くのアンモニアプロセスは、水素プロセスおよびメタノールプロセスと同様に天然ガスを原料に水蒸気改質法により水素を含む合成ガスを製造します。その後に窒素を確保するために空気による二次改質を行い、CO転化(COシフト)工程と脱炭酸工程およびメタネーション工程によりガス精製を行い、アンモニア合成工程+アンモニア冷凍設備によりアンモニアを製造します。
ここでは、筆者が過去に経験したアンモニアとメタノール併産の製造プロセスについて説明いたします。

アンモニアプロセスとメタノールプロセスの相違点

両プロセスとも水蒸気改質法にてメタンを主原料とする天然ガスを水素,一散炭素,二酸化炭素に改質します。
下表にそれぞれの原料ならびに工程の内容を示します。
項目 水素 メタノール アンモニア
原料 天然ガス、スチーム 天然ガス、スチーム
二酸化炭素
天然ガス、スチーム
空気
合成ガス H2 H2, CO, CO2 H2,N2
工程 ① 脱硫工程 脱硫工程 脱硫工程
工程 ② 水蒸気改質工程
水蒸気改質工程 水蒸気改質工程
工程 ③ CO転化工程 合成ガス圧縮工程 二次改質工程
 工程 ④ ガス精製工程 メタノール合成工程 CO転化工程
工程 ⑤   メタノール蒸留工程 脱炭酸工程
工程 ⑥   メタノール貯蔵設備 メタネーション工程
 工程 ⑦   メタノール合成工程 合成ガス圧縮工程
工程 ⑧     アンモニア合成冷凍工程
工程 ⑨     アンモニア貯蔵設備

これからわかるようにアンモニアプロセスではCOとCO2を必要としないので、原料中の炭素源を除去する必要があります。そのために、
  1. CO転化工程でほとんどのCOをスチームと反応させて、H2とCO2に転化している。
  2. 脱炭酸工程で合成ガス中のCO2を化学吸収法あるいは物理吸収法にて除去している。
  3. メタネーション工程では微量に残ったCOとCO2をCH4に転換させている。

これらのCOとCO2および水分H2Oに含まれている酸素はアンモニア合成触媒の触媒毒になるので、徹底的に除去するのが望ましい。
しかし、メタノールプロセスでは炭素源が必要となるので、CO転化工程、脱炭酸工程およびメタネーション工程は不要です。

工程の共有化

アンモニアとメタノールの併産のメリットの一つとして、一部の工程や設備を共有できるのでコストダウンが可能となります。アンモニアプロセスとメタノールプロセスの相違点から、共有化できる工程は前半の脱硫と水蒸気改質の二つの工程です。
水蒸気改質工程下流の二次改質工程では空気中の酸素を酸化源として、メタンをさらに改質して水素を作ります。同時に窒素が大量に混入しますので、メタノール合成にとっては不利となりますので共有化すべきではありません。
これ以外にユーティリティー設備を共有化出来るメリットは非常に大きく、廃熱回収システムを共有化することも可能です。

併産での問題点

併産することによる問題点としては、アンモニアあるいはメタノールプロセスの一方が運転停止になった場合の対応が複雑で、それにより生じるリスク対策を十分に考えておく必要があります。

設計上の問題点

設計上、留意すべき点として水蒸気改質炉の出口温度があります。この出口温度が高ければ出口ガス中のメタン濃度は低下します。メタンはアンモニアやメタノールの合成反応に対して負の影響を与えます。メタンは反応に無関係なので、何もしなければ工程内に蓄積して、反応物質(アンモにはではH2,N2、メタノールではH2,CO,CO2)の分圧を低下させて反応を阻害します。そこでメタンを工程からパージ除去しますが、その際に反応物質もロスとなってしまうので生産量が低下します。
そこでアンモニアプロセスでは二次改質温度を1000℃以上に設定してメタンを削減します。そのために上流側の水蒸気改質出口温度を低くして、水蒸気改質炉の負荷を下げることが出来ます。
一方、メタノールプロセスでは二次改質工程がなく水蒸気改質工程だけなので、水蒸気改質出口温度は出来るだけ高くしてメタン濃度を下げています。
そのためにアンモニアプロセスの水蒸気改質温度800℃以下に対し、メタノールでは900℃に近い温度に設定しています。アンモニアとメタノールを併産する場合、水蒸気改質炉の出口温度を何度に設定するかが設計のポイントになるでしょう。

運転時の問題

運転時の問題点を考えてみよう。
水蒸気改質工程が100%負荷で運転され、アンモニアとメタノールを併産している際にメタノールプラントが緊急停止した場合を考えてみます。
この場合、併産の割合をどのようにするかで影響の大きさが変わってくるが、例えば、水蒸気改質工程出口の水素量の2/3をアンモニア生産に、残り1/3をメタノール生産に消費しているとすると、メタノールプラントが停止することで水蒸気改質工程の負荷は急激に2/3に低下する。しかし、水蒸気改質炉の負荷制御は設備の巨大さから簡単ではなく、一時的に大量の合成ガスを大気に放出しなければなりません。また、水蒸気改質炉に使用されている燃料の組成変動が生じるので、高温にさらされる水蒸気改質炉の改質管設計には十分注意する必要があります。

これらのリスクにどう対応するかが、併産プラントの設計上、大きな課題となります。

アンモニアとメタノールの併産プロセス

アンモニアプロセスとメタノールプロセスは共に水素を原料としており、そこには幾つかの共通の工程が存在します。
天然ガスを原料とした場合、天然ガスの脱硫工程と水素を生成する水蒸気改質法が共通する工程になります。
そこでアンモニアプラントとメタノールプラントを別々に建設するよりは、出来るだけ工程を共有化してコストダウンを図りたいとの思惑が出てくるのは当然の話です。

その他のプロセス

水素プロセス メタノールプロセス アンモニアプロセス

アンモニアの物性 (出典はNIST)

  • 分子式 NH3、分子量 17.0305 CAS、 Registry No. 7664-41-7
  • 融点Tf 195K、沸点Tb 240K 臨界温度Tc 405.4K、臨界圧力 Pc 113bar

メタノール(メチルアルコール)の物性 (出典はNIST)

  • 分子式 CH4O、分子量 32.0419、CAS Registry No. 67-56-1
  • 融点Tf 176K、沸点Tb 337.8K、臨界温度Tc 513K、臨界圧力 Pc 81bar
  • 燃焼熱(gas) 763.68kJ/mol

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