ゼロカーボンを目指す”グリーンプロセス”

4. 水電解装置

水素を製造するための水電解装置には以下の3種類がある。一つはアルカリ水電解(Alkaline Water Electrolysis、AEM)、もう一つは固体高分子水電解(Polymer Electrolyte Membrane Water Electrolysis、PEM)、最後の一つが固体酸化物水電解(Solid Oxide Electrolysis Cell Water Electrolysis、SOEC)である。

4.1 水電解装置の特徴

アルカリ水電解の基本原理は、1800年にイタリアの科学者アレッサンドロ・ボルタが発明したボルタ電堆(Voltaic Pile)を用いて、イギリスの科学者ウィリアム・ニコルソンとアンソニー・カーライルが水の電気分解を初めて実証した。この実験によって、水が水素と酸素に分解されることが確認され、電気分解の基礎が確立された。このように長い歴史を持ち、技術的に成熟しているため信頼性が高く、大規模生産に適している。ただし、エネルギー効率がやや低く、腐食性の電解液(KOH)を使用しているために、回収・再利用が難しくメンテナンスが煩雑である。参考文献として「大型アルカリ水電解水素製造技術に関する雑考」を紹介する。

固体高分子電解質水電解の特徴は、固体高分子膜を使用しているので、高い純度の水素を生成出来る。利点としてはエネルギー効率が高く、小規模生産に適している。欠点としては比較的高コストで、耐久性に課題ある。また、設置面積が小さいため、非工業的な環境に設置しやすく、得られる高圧水素はアンモニア合成やメタノール合成に有利である。

固体酸化物電解の特徴は、高温で動作し、水から水素を製造し、同時に二酸化炭素から一酸化炭素COを製造出来る。高温で動作するので、非常に高いエネルギー効率を実現できる。ただし、高温下での材料の耐久性やコストが課題である。また、燃料電池として可逆的に動作することが可能で、広範囲の発電用途に対応できるほか、電力供給の不安定性をカバーする可能性がある。

これらの装置は、使用する技術や効率、コスト、適用範囲によって異なる特徴を持っているので、どれを選択するかは、製造する水素の量、純度、製造コストなどの要件に基づいて行われる。下表にそれぞれの特徴などを表にまとめた。ただし、水電解技術は日々進歩しており、内容の是非については再確認することをおすすめする。
水電解装置の比較
電解技術 アルカリ型 固体高分子型 固体酸化物形
特徴 成熟した技術、塩素産業で広く利用されている。
最大150MWのプロジェクトが実施されている。
土地利用率が高く、運転の柔軟性と水素純度が高い。 開発段階の高温電解技術で、700~900℃の高温が必要。
高いエネルギー効率が期待出来る
 運転特性 起動・停止の応答時間は最大で10分。負荷範囲は10〜110%。
メンテナンスがやや煩雑。 
 数秒での起動・停止が出来る。公称出力の160%まで、短時間であれば可能。 高温での運転により電力消費量が少なく、燃料電池としての可逆運転も可能である。
水素純度  99.7~99.9%  99.9999%  94%~99%
適用例  産業用 燃料電池車  原子力発電所

4.2 水電解装置の主な用途

主な用途には、 風力や太陽光などの変動する再生可能エネルギーから水素を生成し、エネルギーの貯蔵や供給を安定化させる。産業用水素を化学工業や精製プロセスに供給する。更に水素を燃料として使用する燃料電池車の燃料の供給がある。このように、水電解装置は、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた重要な技術である。

現状の状況を説明すると、技術の成熟度に関しては、アルカリ水電解は成熟した技術で、大規模な水素生産に広く利用されている。PEM水電解は高純度の水素生成が可能で、特に再生可能エネルギーとの統合が進んでいますが、コストと耐久性が課題です。また、固体酸化物電解は高効率であるが、主に研究開発段階にあり、商業化にはまだ課題がある。

4.3 水電解の市場規模

市場規模としては、2021年の時点で、水素市場全体の規模は約1500億ドルとされ、そのうち水電解装置の市場は数十億ドル規模と推定されている。主な利用分野は、産業用水素供給、エネルギー貯蔵、燃料電池車などである。

将来の可能性と市場の伸びに関しては、今後、再生可能エネルギーとの統合やグリーン水素の生産において重要な役割を果たすことが期待されている。
また、グリーン水素の普及に大きく関わってくるので、政府や国際機関による政策支援が強化されており、規制や補助金を通じて市場成長が促進される。
市場成長の予測としては、2030年までに水電解装置の市場は急速に成長し、数百億ドル規模に達すると予測されている。特にアジア太平洋地域、ヨーロッパ、北米が主要な市場成長地域とされており、中国、日本、ドイツ、アメリカなどが中心となる。

4.4 中国国内の市場規模

2023年7月、世界最大規模のグリーンアンモニアプロジェクトが、中国で建設を開始した。SPIC(国電投集団)が主導する同プロジェクトは、700MWの風力発電と100MWの太陽光発電による再生可能エネルギー発電所の建設、40MW/80MWhの蓄電に対応した220kVのブースターステーションの新設、水素製造、水素貯蔵、18万トングリーンアンモニア合成設備の建設等を実施する計画である。
中国の情報ウェブサイト(INTEGRAL)は、中国国内の 新エネルギー産業の動向などを発信している。 この中で興味深い記事があった。それは、「PEM型水電解装置、アルカリ水電解装置との併用で中国のグリーン水素市場に挑戦」で、この記事の”まとめ”の一部を紹介する。詳細については、PEM型水電解装置、アルカリ水電解装置との併用で中国のグリーン水素市場に挑戦」へリンクしてください。

  1. SPICは、自社の大安グリーン水素プロジェクトにPEM型水電解技術を多く導入することで、初期の設備コストは高くなるものの、PEM型水電解装置の広い動作範囲、高い応答性、短いコールドスタート時間などの特性を生かし、「アルカリ+PEM」水電解システムのハイブリッド利用によるエネルギー効率と経済性の向上を目指している。
  2. アルカリ水電解とPEM型水電解の最適比率を決定するのは難しいが、この「アルカリ+PEM」のハイブリッド方式は、再エネ廃棄電力をより多く消費し、グリーンケミカルの推進に伴い、調整幅の広いグリーン電力を消費するため、オフグリッド水素製造の動向と一致している。
  3. このハイブリッド方式は、アルカリ水電解とPEM型水電解の両方の欠点に対処することで、LCOHを削減できることが示唆されているが、実際の稼働については、より多くのプロジェクトでさらなる調査と検証が必要である。


水素の物性 (出典はNIST

  1. 分子式 H2、分子量 2.01588
  2. CAS Registry No. 1333-74-0
  3. 融点Tf 13.95K、沸点Tb 20.39K
  4. 臨界温度Tc 33.18K、臨界圧力 Pc 13.00bar
  5. 燃焼熱 241.8kJ/mol

CO2の回収や貯蔵は、地球温暖化の進行を抑制するために注目されている技術である。CCSは主に以下のプロセスから構成されている。CCS:Carbon Capture and Storage

CO2の捕捉:ここでは、発電所などから排出されるCO2を分離・捕捉する。一般には、アミン溶液などを使う「ガス吸収法」、CO2を膜を用いて分離する「膜分離法」、圧力を変化させて分離する「PSA法」などがあります。

CO2の輸送:捕捉されたCO2は、パイプラインやタンク車などを用いて貯蔵地点まで輸送する。この過程では、CO2を加圧冷却して液体CO2として取り扱う。

CO2の貯蔵:最終的に、CO2は、使われなくなったガス田や油田、塩水層などの地下深くに注入され、長期間にわたって隔離される。これにより、大気中に放出される二酸化炭素の量が減少し、温室効果ガスの削減に寄与します。

CCS技術は、化石燃料の使用が避けられない現在のエネルギー体系において、温室効果ガスの排出削減を目指す重要な手段の一つです。ただし、この技術の経済性、安全性、地質的適合性など、多くの課題があります。また、貯蔵された二酸化炭素が将来的に漏れ出すリスクも検討が必要です。

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